1992年 5月 愛知県春日井市
シーン:1992年5月 愛知県春日井市 陶磁器用絵具製造工場
(終業のベルが鳴り、社員たちが帰り支度を始める。松川永史は作業服を脱ぎ、背筋を伸ばしてひと息つく。)
松川永史
「じゃあ、お先に失礼します。おつかれさまでした。」
神山(同僚)
「松川くん、おつかれさま!楽しい週末を!」
松川永史
「ありがとうございます、神山さんもよい週末を。」
(背後から田舎ヤンキー風の出で立ちをした上司・河合健介が声をかける。)
河合健介
「松川君!」
(松川が足を止めて振り返る。)
松川
「なんでしょうか?」
河合健介
「悪いけど、この特製ピンク色100グラム、多治見のお客さんがどうしても今日中に届けてほしいって言ってるんだ。帰りに持ってってくれないか?」
(松川は少し考えてから、肩をすくめて微笑む。)
松川
「いいですよ。どうせ内津に走りに行こうと思ってたところですし。」
河合健介
「助かるよ!頼んだぞ、松川君!」
(松川は軽くうなずき、荷物を受け取ると工場を後にする。)
シーン:工場の外 バイク置き場
(松川永史は「ニュー・アンドロメダ号」と名付けたスーパーカブにまたがり国道19号線を走り出す。初夏の風が心地よい。)
松川(心の声)
「高校卒業後、地元の工業大学で化学を専攻して、就職は迷ったけど、この陶磁器絵具工場で技術者として働くことに決めた。給料は安いけど、家から近くて、残業も休日出勤もない。ヒゲを伸ばしてても文句言われないしな。」
松川(心の声)
「金ならいくらでも稼げる。大学4年間競馬に勝ち続けたおかげで、預金はもう10億を超えた。俺にとって大切なのは、自由な時間と、自分らしく生きること…。」
松川(心の声)
「でもいい加減、通帳の残高ばかり増えてくのを見るのも飽きた…。何かいい投資先があればな。」
松川(心の声)
「旅行がてら海外の不動産でも見に行くか…。」
(松川永史の目が鋭く光を放つ。)