進路
シーン:1987年4月 春日井東陵高校 教室
(春の陽射しが差し込む教室で、松川永史は進路希望調査用紙に向かってペンを握りしめている。)
(松川の手が進路希望欄に「プロ野球選手」と書こうとして止まり、ペン先が宙をさまよう。)
(周りではクラスメイトたちが大学や専門学校の話題で盛り上がっている。)
クラスメイトA
「やっぱ名古屋の大学かなぁ、家から近いし!」
クラスメイトB
「専門学校行ったらさ、2年で資格取れるらしいよ!そっちのほうがいいかもな!」
(松川は彼らの声をぼんやり聞きながら、ペンを握ったまま視線を宙に彷徨わせている。)
松川(心の声)
「あの日、横波とプロで再会すると誓ったけど…プロ野球って、思ってたほど稼げないんだよな。」
(頭に浮かぶのは、球界を代表する選手である落合博満の年俸事情。)
松川(心の声)
「球界一の高給取りの落合博満ですら、せいぜい1億3000万。税金で半分以上持っていかれて、それに経費とか色々引かれると…残るのは3分の1あるかないか。」
(計算した結果に一抹の虚しさが広がる。)
(ためらいを抱えたまま、彼はペンを進路希望用紙に走らせようとする。だが「プロ野球選手」という言葉を書くのをためらい、手が止まる。)
松川(心の声)
「…プロで戦うことで何かが得られると思ってたけど、それで本当に満足できるのか…?」
(松川は、クラスメイトたちの明るい未来の話を横目に、再びペンを進路希望用紙に向けるも、その表情には迷いが残っていた。)