ヒゲの理由
春日井東陵高校 グラウンド - 勝負を終えた松川永史と桐山礼
(松川がピッチャーマウンドから歩み寄ると、桐山もバッターボックスからゆっくりと出て、二人は向かい合う。)
桐山
「負けました。俺…世代最高遊撃手なんて言われて天狗になってたのかもしれません。」
(松川は少し微笑みながら頷く。)
桐山
「…だけど、松川さん。あんなすごいボールを投げられるのに、どうして野球を辞めたんですか?」
松川永史
「俺が野球をやっていたのは、プロになって金を稼ぐためだけだったんだよ。それ以上の理由なんてなかったんだ。」
あおい(心の声)
「松川さんが…お金のためだけに…」
松川永史
「最後の夏の前に辞めたのは、もっと楽に大金を稼げる方法を見つけたからさ。だから辞めた。そしてけじめをつける意味でこのヒゲを伸ばし始めたんだ。」
(あおいは驚きの表情で、思わず松川の顔に目をやる。)
あおい
「あのヒゲにそんな秘密があったなんて…ヒゲは松川さんにとって、生き様そのものなんですね。」
(松川は照れくさそうに肩をすくめ、少し笑う。)
松川永史
「まぁ、そんなところかな。でも、桐山くん…君と勝負できて良かった。こうして久しぶりにやってみると、やっぱり野球も悪くないもんだね。」
桐山
「ありがとうございます!俺、もっともっと練習して、絶対に甲子園に行きます。そして…いつかまた、松川さんと勝負させてください!」
(桐山は清々しい笑顔で松川に頭を下げる。)
松川永史
「ああ、楽しみにしているよ。」
(松川は微笑むと、静かにグラウンドを去っていく。夕日が彼の背中を照らし、長い影がグラウンドに伸びていく。)
あおい(心の声)
「…さっきまでの勝負が嘘みたいに、今の二人はどこか爽やかで…なんだか美しい。でも、ちょっとだけ…嫉妬しちゃうな…」
(あおいは新たに芽生えた男たちの友情に心を打たれながら、松川の背中を見送る。)
(夕日がグラウンドに染み込むように沈み、二人の勝負の余韻が静かに漂っている。)