紅茶を飲みながら
高蔵寺スープリームコートタワーレジデンス 最上階・松川永史の部屋
(あおいと松川永史が紅茶を飲みながら談笑している。あおいは、ここ1年のことを少しずつ話し出す。)
あおい
「この1年、いろんなことがあって…。がんばって見た目を気にするようになって、周りの子から“きれいになったね”って言ってもらえるようになって…。あと、勉強もがんばったんです。今では学年でトップになるくらいに。」
(松川は興味深そうにうなずき、あおいの話を静かに聞いている。)
松川永史
「そうか。あおいちゃん本当に頑張ってきたんだね。」
(あおいは自分の話をこんなにも真剣に聞いてくれる松川の様子に、胸が温かくなるのを感じる。しかし、心の奥底に秘めている“松川のために頑張った”という思いは、どうしても言えないもどかしさが残る。)
松川の部屋・リビング
(外はすでに暗くなり、雨もすっかり上がっている。あおいはお礼を言い、立ち上がる。)
あおい
「今日は本当にごちそうさまでした。楽しかったです。」
松川永史
「そう言ってもらえたなら良かったよ。送って行こうか?」
あおい
「いえ、大丈夫です。自分で帰ります。」
(松川は少し寂しそうな表情を見せるが、うなずき、マンションの入口まで一緒に歩いてくれる。)
高蔵寺スープリームコートタワーレジデンス 入口
(エントランスの前で立ち止まり、松川が少し微笑んであおいに向き直る。)
あおい
「あの…また、来てもいいですか?」
松川永史
「もちろん。男ひとりの寂しい部屋でよければ、いつでも歓迎するよ。」
(あおいはほっとしたように微笑み、軽く頭を下げる。)
あおい
「ありがとうございます。今日は、本当にありがとうございました。」
(そう言って頭を下げたその時、不意に背後から声がした。)
桐山礼
「あおいさん!」
(驚いて振り返ると、そこには桐山礼が立っていた。彼もまた、高蔵寺スープリームコートタワーレジデンスの前にいるあおいを見つめ、驚きと何かを悟ったような表情をしている。)
あおい
「桐山くん…どうしてここに?」
(あおいの戸惑う視線が松川と桐山の間を行き交い、松川も軽く微笑んで桐山を見つめる。)
松川永史
「お友達かい。」
桐山礼
「俺、桐山礼っていいます。春日井東陵高校野球部でキャプテンやってます。」
(あおいと桐山の視線が重なり、静かな緊張感が漂う。あおいは、どう説明すればいいのか迷いつつも、松川への挨拶をもう一度心の中で反芻していた。)