第9話 衝動と理性の狭間
この物語は小さい時から僕の心の中にもうひとつの世界として描いていました。
雑な文章にはなりますが僕の心の中にずっと秘めていた世界を誰かに見せることが出来ればと思います。
朝の冷たい空気がだんだんと温かくなってくる。
太陽は無いが気温の変化は起こる。
初夏の空気をまといながら焔は一人で歩いていた。
部室棟の近くに大きな階段があり、その階段を降りたところに体育館がある。
焔はゆっくりと階段を下った。
体育館には鍵がかかっておらず重い扉を開けて中に入ることが出来た。
入ると体育館に繋がる小さな廊下に出た。
「………………誰かいるんだろ?」
人の気配を察知し廊下を歩きながら呼びかけた。
体育館の前まで来たところで背後から声がした。
「君さ、例の血の子だよね。探してたよ〜」
後ろを振り返ると一人の男が立っていた。
「お前はここに来ていい人間じゃない。そう判断した。」
「え〜そんな悲しいこと言わないでよ。結構ここ気に入ってるんだよ?もう元の所に戻るつもり無いんだけどなぁ〜」
声が正面へ移動する。焔は視線を正面へ戻した。
視線が声の主をしっかり捉えた。
「君がこの世界の中心だと思ってるみたいだね。君が俺をよく思わないように、俺も君のことをよく思ってないのは、分かるよね?」
そう言いながらゆっくりと近づいてくる。筋肉質の体に肌に密着した服を着ている。体格の良さだけで言えば僕より圧倒的に強そうに見えた。
男は腕をゆっくり持ち上げる。
「なら悪いけど死んでもらわなきゃ……… ぁ"……っ!」
言い終わると同時に勢いよく太い腕が僕の首を掴んだ。
気道を潰されている。呼吸ができない。
「っ……………!」
「あっはははは!!それはぜひやれるもんならやってみて欲しいね。自分の力に余程自信があるみたいだ!」
右手で爪を立てて抵抗したが太い腕はビクともしなかった。
頭がぐわんぐわんし始め、意識が遠のいてきた。
まずい…意識が飛ぶ……
太い腕に僕の体は持ち上げられ、首に全体重がかかる状態になった。
手足に力が入らない、両腕をだらんと垂れた。
左手の指先から血がぽたぽたと落ちる。
「なんだ?血……………?」
僕の血が地面に赤い点を作っている。
赤い点の表面が揺れ始めた。
血に残り少ない意識を集中する。
赤い点が結晶のように形を変える。
小さな欠片が男の額に向かって勢いよく襲いかかった。
「うぉ!…なんだこれ!?」
まっすぐ軌道を描いて男の額に突き刺さる。
額から後頭部へまっすぐ貫いて液体へ戻った。
男の手の力が抜け、勢いよく地面に身体が落ちた。
「げほっ……………はぁ………」
「あ………が……………」
男の体はガクガクと痙攣し鼻血を出して倒れた。
しばらく痙攣した後動かなくなった。
体に血が巡ってきた。力が戻ってくる。
バレないように爪を掌に深く突き刺して血を出す、このくらいの痛みなんて気にもならなかった。
血を硬質化させて武器にする力、今までは使った分血を失うから使うのを躊躇っていた。
赤い欠片は形を崩し液体へと戻っていく。
「…………慢心、傲慢…醜い」
そう呟いて死体の前にしゃがんだ
手を見るとまだ血が垂れている。
血が止まるまで傷口に口をつけて血を無駄にしないようにしよう。
手のひらに口をつけて傷口を舐めた。
最近血液不足が深刻だ。
餌として春也と約束したが、あの程度の血じゃ本当は足りない。
満たされるまで吸おうと思ったら春也は死んでしまうだろう。
そのため気を使ってあまり吸わないようにしていた。
目の前のこいつはもう死んでいる、痛みも感じない。
これは食欲に当てはまるのだろうか、唾液が溢れた。血を吸いたい衝動なのか分からないが何かが込み上げてくる。我慢していた反動なのか。
衝動的に額に口をつけて血を吸った。
額からの血の量なんてたかが知れてる。
足りないまだ足りない…もっと…
「………………!!」
気がついたら肩の肉を食いちぎって口に咥えていた。
「僕は…………何を………」
鈍い音を立てて肉が足元に落ちた。
自分を抑えられなくなったのは初めてだ。
自分が怖い。
「うっ………………」
急に喉に熱いものが込み上げてきた。吐きそうだ。
そのまま死体から離れたところに込み上げてきたものを吐いた。
「おぇっ………………はぁ…気持ち悪い……」
目を開くと吐いたところにも肉片が散らばっていた。
僕は…無意識に人の死体を食べてたのか…
自分を抑えられない恐怖に寒気がした。
「あはは…こんなの…僕じゃない…………僕じゃないよ………」
涙が出るのに笑えてしまう。狂ってしまったのか。
僕じゃないものに僕が食われてしまいそうだ。
体育館への入口の扉を勢いよく開け、体育館のステージ横の扉へと駆け抜ける。
横には体育館倉庫があった。
中に入り身を隠すように勢いよくマットが積んである場所へと潜り込んだ。
「こんなの僕じゃない…消えろ…消えろ…」
勝手に体が動くことほど恐ろしいことは無い。特に僕の能力は決して弱いものでは無い。
いつ暴走して取り返しのつかないことになるか、いつ自分や春也達に牙をむくか。
不安で押しつぶされそうだった。
「もう誰にも会いたくない、誰も傷つけたくない」
そう呟きながら僕は意識を手放した。
頬には1粒の涙が伝った。
お読み頂きありがとうございます。
初作品ですので至らない部分が目立つかと思いますが楽しく書いて行こうと思います。
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