第6話 頭痛と悪戯
この物語は小さい時から僕の心の中にもうひとつの世界として描いていました。
雑な文章にはなりますが僕の心の中にずっと秘めていた世界を誰かに見せることが出来ればと思います。
「おぇ…………気持ち悪………頭いてぇ…………」
頭痛に顔をしかめながら起き上がろうとした。
起き上がった途端目の前が暗転した。
慌ててまた横になる。
完璧に貧血だ。
「あいつほんとに容赦なく血飲みやがって……」
外を見ると明るくなっていた。相変わらず空は赤いまま。
おそらく貧血で長い時間失神していたのだろう。
「またどっか行ってんのか…?」
目を擦りながら隣を見た。
今日は焔が隣で寝ている。
例え俺の血を飲みたがる捕食者だったとしても、人が隣にいる安心感ってこんなにすごいんだ。
「焔〜朝だぞ〜」
「何?起きてるよ。君より前に起きてる。」
「起きてるならうんとかすんとか言えよ!」
口は開いても一向に目を開けない。瞑想でもしてんのか。
「なんでずっと目閉じてんの?」
「眩しいから」
予想外の理由に少し面食らった。
「え………?それだけの理由?焔のことだから深い理由でもあるのかと……」
「むしろよく目を開けてられるね…僕、朝の光は苦手」
確かに焔って色素ほぼ無いみたいなもんだよな。
メラニン色素が光を遮るから、それがないと日光が辛いのだろう。別に空に太陽は出てないが。
焔が目を閉じてる間に焔の顔をめっちゃ観察した。
どっかで見たような見た目してるんだよなあ…
つか、まつ毛まで白い、眉毛も。
じーっと顔を見ていると急に焔の目が開いた。
焔の目の瞳孔がキュッと小さくなる。
「おはよう、餌」
「お前さぁ、昨日名前教えたばっかなのにいい加減名前で呼んでくんない?」
「春也………そんなにじっと顔を見られると顔に穴が空きそうなんだけど」
はっと顔を逸らす、僕そんなにじっと見てたか。
「あぁ、すまん」
「僕の何が気になるの?」
焔の方を見るとニヤッと笑みを浮かべていた。
ニヤニヤすんな白髪頭。
とりあえず昨日気になったことを聞いてみよう
「この場所は何?違う世界なの?それとも場所が変わっただけ?」
「うーん…………そうだね………」
少し考え込んで口を開いた。
「春也が今、それを知る必要は無いよ」
「はぁ…………?」
全然まともな回答をしてくれない。
「強いて言うなら、違う世界ではあるよ」
「なるほど………?そうなると元の世界に戻るのってだいぶ難しくね?こことは別の世界へもう一度渡らなきゃなんだろ?」
「……春也は元の世界に戻りたいの?」
「え?焔は戻りたくないのかよ?」
「ん〜、どうだろ………」
焔は少し考え込んで言葉を続けた。
「この世界には法律もないし罰する人もいない、好き勝手できる。僕は君よりここに長くいるし正直慣れてしまえばこっちの方が心地いいかな」
「確かに、法律があったら血を吸うと傷害罪だもんな」
法律を気にせず好き勝手できるのは確かにでかい。でも元の世界で送ってた生活を捨ててまでここに篭もるのは僕はしたいとは思わないなぁ…危ない世界だし…
「いや、こっちに来てからだよ。血を吸いたくなる身体になったのは」
「じゃあなぜ………?」
「それも……春也が今知る必要は無い」
人差し指でしーっのポーズをして微笑んだその顔は何故か少し暗かった。
元の世界がそんなに合わなかったのだろうか。
というか、焔は血まみれのまま寝てたのか…
着いた血が茶色く変色して乾いている。
「なぁ、焔。俺シャワー浴びたいしお前も血で汚れてるのは嫌だろ。どこかにシャワー室は無いのか?」
「あるよ。部室のところにある」
「そこまで案内兼護衛してもらってもいいか?」
「というより、貧血で歩くのもしんどいだろ。シャワー室まで運ぶよ」
「うわぁ助かる〜」
焔は僕のことを背負おうとした。よろよろとしながら僕を背負ってるところそんなに力は強く無いようだ。
「えっと…ほんとに大丈夫……?背負える?」
「んん………ちょっときついかも…」
「…………降りるわ…落とされても困る」
申し訳なさそうにしながら僕のことを降ろしてそのまま焔に肩を貸してもらう状態で行くことにした。
「焔ってあの化け物倒せるから強いと思ってたけど、割と非力なんだな」
「実は力自体はそんなに強くない。ナイフの入れ方とか力の加え方、あとスピードでどうにかできてるってだけ。あとあの化け物はそんなに強くないよ」
「え………もしかして化け物ってアイツらだけじゃねえの………」
「そうだね、残念ながら」
僕は軽く絶望した。焔が化け物を殺してくれて安寧が訪れたのではと少し期待をしてしまっていたのか…
「でも一番怖いのはここに来た人達だよ」
「え…………?なんで?化け物みたいに殺しにくるやついるの?」
「人の武器って武力だけじゃない。言葉巧みに騙して気づいたら不利な状況に追い込むというのも有り得る。法律が無いのはメリットも大きいけどその分デメリットも大きいよ」
確かに言われてみるとそうだな、人の言葉の怖さは僕もよく知っている。言葉一つで人の人生を壊すことだってできてしまうんだ。
「正直、この世界にこんなに沢山人が迷い込んでくるのはイレギュラーでしかない。僕はこのイレギュラーをどうしたらいいか悩んでいる」
「それって僕もイレギュラーのうちの一つってことか?」
「正直分からない。春也がここにいるべき人間か、いないべき人間か。でも僕の餌になった今そう簡単には帰すつもりは無いよ」
「えぇ………いや、もうそれは今すぐにでも帰していただいて……」
ん、待てよ?帰すつもりは無い、つまり焔の一存で元の世界に帰すこともできる、そういうことなのか?
「今帰すつもりは無いって言ったよな?」
焔ははっとした表情でこっちを見た。多分言うつもりのないことを言ってしまったのだろう。抜け目がないようで案外抜けてるなこいつ。
「春也、結構頭の回転早いって言われない?」
「いいから答えろ、焔なら僕のことを元の世界に帰せるんだよな?」
「………………………」
図星か、焔は黙り込んでしまった。
「分かった、否定はしない。ただ、今は無理だ」
「それは帰したくないから?」
「違う、能力的な問題。正直この先春也を帰せるかどうかも分からない。少なくとも今の僕じゃ無理だ」
少し光が見えた気がした。帰る方法が無い訳では無いことが何より今は救いだった。
話しながら歩いていると部室棟らしき建物が見えてきた。
やっとシャワーが浴びれる。色々あったがいい気分転換になるだろう。
僕らは部室棟の1階にある更衣室へと向かった。
更衣室へ入ったあと一つ重大なことを聞き忘れたのを思い出した。
「案内サンキュ!えっと…焔って男で合ってる?男なら目の前で裸になっても何も問題ないんだが…」
「そっか、僕の性別ね」
何やらまた悪そうな笑顔を浮かべる。
「僕は男じゃないよ」
直接口をつけて血を飲まれていたこと、1つの部屋に2人きりで寝たこと、今のこの現状、全てが一気に頭を巡った。
顔から火が出そうなくらい熱くなる。
「ちょ………じゃあ……お前………異性に対してあんなことやこんな……うわぁぁ………」
僕は更衣室から今すぐにでも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
お読み頂きありがとうございます。
初作品ですので至らない部分が目立つかと思いますが楽しく書いて行こうと思います。
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