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第5話 餌と捕食者

この物語は小さい時から僕の心の中にもうひとつの世界として描いていました。

雑な文章にはなりますが僕の心の中にずっと秘めていた世界を誰かに見せることが出来ればと思います。

「いって…………いつ痛み治まるんだよこれ」

焔に切られたところからもう血は出ていないが、ヒリヒリと痛む。

焔は血を飲んだ後すぐどこかに行ってしまった。

血を飲んだら怪我も治るようだ。ほんと不思議な体してるな。


「ほんっとに…自分勝手もいいとこだよあいつ」


絆創膏とか貼ってくれても良かったじゃないか…手当もしないのに人を切り付けるんじゃあないよ。


「焔どこ行ったんだ…いや、僕がいても邪魔になるなら1人の方がいいか」


焔はこの恐ろしい場所に適合している。

この状況で生きる方法も知っている様子だった、焔に聞けばなんでここに飛ばされたか、どうやって帰るかが分かるかもしれない。


ただ、聞く代わりにまた何か要求されるのはごめんだ。

「あ〜動くのは怖いけど…暇なんだよなぁ……」

スマホもない、この状況を耐えるのは正直苦痛でしかない。

来るか分からないが、焔を待つ間黒板で落書きをしながら時間を潰そうか。

そう思いチョークを手に取った。


「別に描きたいものなんて思いつかないなぁ…」


とりあえずモンスターをゲットして戦わせる人気アニメのキャラを書いた。


「焔のあれ…カラコンかな?宝石みたいだったな…髪も何回色を抜いたんだ、真っ白だったよな…今は肌も色抜けるのか?それともハーフか外国人なのかな…?」


あんな見た目をした人は25年生きてきて見たことがない。アニメや漫画のキャラのコスプレみたいな人工的な見た目でもない。

派手な見た目ではあるが中身は至って派手では無い。


考えれば考えるほど焔が何なのか分からない。人間なのかすら怪しい。

「まぁ、いつか聞く機会があるだろ」


黒板消しで落書きを消した。

消し終わった位のタイミングで尿意が襲ってきた。


「おぉい………まじか………ここから出たくねぇ……」


ベランダから下にするか?いや、それで下に人がいたら申し訳なさすぎる。下に化け物が居て音でバレるのは以ての外だ。

仕方ない、トイレに行こう。


慎重に戸を開け、周りを警戒しながら教室から出た。

幸運なことに教室のすぐ近くにトイレがあった。


化け物の気配も無く無事トイレの入口まで着いた。

「あぁ〜本当に神経削れる…」


トイレに入ってすぐ鏡があった。鏡に映った自分の姿に違和感を覚えた。


「え……………???目が…………」


そこに写った人物は虹彩が鮮やかな紫色をしていた。

髪も所々紫のメッシュが入っている。


「これ…………僕???髪なんて…もう数年染めた記憶なんてないぞ…………」


よく見るとこの姿に見覚えがある。

昔少し配信をかじっていた時に視聴者の人が描いてくれた、いわゆる固定キャラクターと言うやつだ。

確かそのキャラクターには、右肩に道化師の仮面のタトゥーが入っている。

急いでパーカーのファスナーを少し下ろして右肩を確認する。


「タトゥーがある……………なんだこれ…………どうなってるんだ………」


右肩で道化師が不気味な笑みを浮かべている。

この世界では自分の思い描いた姿になれるのか?

これは現実ではなくて夢なのか?

夢の中で夢を見ることは可能なのか?

それとも最新型の没入型のゲームの世界か?


尿意を忘れてしまうほど考え込んでいた。


「あぁやべ…………ガチで漏れる!!!」


尿意を思い出しトイレへと急ぐ。


用を足したあとで一つ懸念点が浮かんだ。

「これ………こんな状況で電気や水道は機能しているのか??」

電気や水道ガスが機能していない場合、色々と大きな支障が出てくるだろう。


恐る恐るトイレの水を流してみる。

すると音を立てて水が流れ始めた。


「良かった…流れる……」


一つの心配事が減った。それだけでもかなり安心だ。

少しほっとした気持ちで教室へ戻る。

教室へ戻るまでの間も化け物の姿は無かった。


ゆっくりと教室の引き戸を閉めた。

「僕がこんな派手な見た目ということは、焔も倒れていた女性も現実とは違う姿になってる可能性があるのか…」

正直、現実よりも遥かに造形のいい顔になっていた。

この世界でなら諦めていた彼女も作れるかもしれない。しかもこの世界では自分の思い描いた見た目になれる。ということは顔の整った彼女ができる可能性もある。

そんなことしてる場合じゃないことは分かっているが少し心が踊った。


僕が少し浮かれている内に少し日が落ちてきた。

「こんな空なのに、暗くなるんだな」


こんな状況で暗い場所に1人でいるのは心細いので電気を点けようとした。


電気は点いたのだが、黒板の前しか点かない。

「電球切れてるのか…しゃーない」


この教室にも僕の定位置が出来た。

1番後ろの隅っこに腰を下ろした。


「案外、何も起こらないなあ…」

何か起こると恐怖を感じるのだが、何も起こらないと案外つまらないんだなとため息をついた。



ボーッと一点を見つめていると、廊下から足音がした。

「お、焔が戻ってきたのか?」


不安定な足音、途端に嫌な予感が一気に襲ってきた。


「………焔??」

恐る恐る、教室の戸へ近寄りゆっくり開けた。


戸の前に小さくなった白い姿が見える。

しゃがみこんでいるのか。

「焔、おかえ……り…………」


焔の姿がしっかり見えたところでぎょっとした。

手が隙間なく赤く染っている。

顔の辺りからぽたぽたと血が滴って床に赤い点を作っていた。

廊下には血の跡がずっと続いている。


「おい……おい……!焔……どうした?」

呼びかけても焔は首を横に振るだけで何も答えない。

「黙ってちゃ分からないだろ…肩貸せ…中戻るぞ…」

焔を支えて教室へ戻る。焔はまた床にしゃがみ込んだ。息が荒く辛そうな様子だ。


「何があった………?焔……喋ってくれよ……」

顔を覗き込むと頭から鼻へ伝って血が垂れていた。


「頭を打ったのか…!?何があった?」


焔はやっと我を取り戻した様子でこっちを向いた。

「あぁ……君か……ごめん……あの1つ目の化け物は僕が見つけられる限り排除した。ただ、大量の血を失った」


わざわざ化け物を殺して回っていたのか。

餌である僕を守るために?

餌を守りたい気持ちもここまで来るとすごいな。


「ごめんな…なんかここまでさせてしまって」

そう言うと焔は目を丸くした。


「え…あ…はは………実は君のためではないんだ…勘違いさせてしまったな…ごめん……あいつらはこの世界にいない方がいい、邪魔な存在なんだよ…それを取り除くのが僕のやるべき事だった、それだけ…」

「なんだよ、勝手に勘違いした恥ずかしい人になっちゃったじゃねえか」


まだ意識が朦朧としているのか虚ろな目をしている。呼吸が早い。

これは……また血を飲めば治るのか?痛いから嫌だけど…


「おーい焔、血を飲めば少し楽になるか?」

「まさか…君から進んでくれるように……なるとはね………優秀な餌で僕は嬉しいよ」

「あ?やっぱりあげねぇぞ?」

「ごめんごめん………今のは冗談ってことに…しと……ぃ………」


声がだんだん小さくなりガクンと頭を垂れた。

「もう喋んなくていいから早く飲めって!」


そういえば焔はナイフで切ってから血を飲んでいたな…先に血を出しておく必要があるか。

焔の服のポケットに無いか探るが、ポケットすらなかった。


「焔、ナイフは?」

「……………………」


焔は無言で首を横に振った。どこかで落としたのか…とすると教室のどこかにハサミかカッターがあれば血を出せるな、あと自分で自分を傷つける勇気があれば。


教卓の中身を探っていると道具が入った箱があった。

「えっと……………お、あった」

運良くほぼ新品のカッターが入っていた。



カッターを持って焔のとこに戻ると焔はまた意識を取り戻していた。

パーカーの袖を捲りカッターの刃をカチカチと出した。

刃を腕に当てようとした瞬間、焔の手がカッターを持った僕の手を掴んだ。


「やめて……………君にそんなこと………させるわけないでしょ」

そんな低い声出るんだってくらい低い声だった。


「さっさと腕出して」

「え、でも血出さないと飲めないだろ」

「いいから出せ」


そんな強い口調で言われたら怖くて従うしかないですよ………

恐る恐る焔の方に腕を出した。焔は僕の腕を掴み思い切り噛み付いた。

「いっっった!!!!お前さ……加減とか……………まぁいいや………」


焔の口元を見て気がついた、犬歯が牙のように尖っている。ほんとに吸血鬼みたいだな。


無心で僕の血を吸う焔を見て、まるで子育てをしてるみたいだなぁとすら思えてきた。

そういえば、焔には名前をつけたけど僕の名前は教えてないな。


「おーい、焔」

「…………ふ……」


息で返事するな、声出せ声。


「俺の名前、青山春也。春也な」

焔はゆっくりと腕から口を離した。


「春也…………春也……うん、覚えた」


思う存分僕の血を飲んだ焔の目には、力強さが戻っていた。

それだけでも今日は安心だ。焔に聞きたいことは明日聞けばいいや。



名前をお互い知り合って、餌と捕食者ではなく友達になれたような気がしたのは俺だけだろうか。

お読み頂きありがとうございます。

初作品ですので至らない部分が目立つかと思いますが楽しく書いて行こうと思います。

少しでも続きが気になると思ってくださった方はブクマ、評価して頂けるとモチベになります。

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