第4話 ルビーの瞳と約束
この物語は小さい時から僕の心の中にもうひとつの世界として描いていました。
雑な文章にはなりますが僕の心の中にずっと秘めていた世界を誰かに見せることが出来ればと思います。
手足が冷たい石になったみたいに重い。
ここはどこだ、見渡す限り血のような真っ赤な海と黒い砂浜。
赤い波が音を立てて押しては返す。
「あ……………これ夢だ」
夢の中で夢だと分かるのってなんて現象だっけ。
明晰夢って言うんだっけ。
夢だと思えば割と怖くないな。
何しても死なないんだ。
海へと入っていく。
足が冷たい。夢って温度とか感じるんだっけ。
あぁなんか心地いいな。この海に溶けてしまえばもっと心地いいのだろうか。
心がぽかぽかする。
このままもっと沖の方へ………
「待って」
手を掴まれる。
なんだよ、邪魔しないでくれよ。
後ろを振り返ると頬に傷がある少年が涙を流しながら立っていた。
「だめ、お兄ちゃん」
どこかで聞いたことのある声。
なにかやり残したことがある気がする。
そうだ、まだ行ってはダメだ。
僕はまだ消えちゃいけない。
「お兄ちゃんには、やるべきことまだまだ沢山あるんだよ?僕のことも見つけて欲しい。まだ消えちゃダメ。」
「……うん、うん、そうだった。ありがとうな」
自然と涙が溢れてきた。
赤い海はいつの間にか引き潮になっていた。
「────起きろ、おい」
「………!!!!!」
突然頬を叩かれてはっと飛び起きる。
目を開くと危うく接触しそうなくらいの距離に人の顔があった。
「!!!うわぁぁぁ!!!ごめんなさい!!頭とか、ぶつかってないですか?」
「避けたに決まってるでしょ、急に起き上がるんだからびっくりしたよ」
襟足だけ長い真っ白な髪、真っ白な肌、つり目の中で光るガラス玉のような赤い目。
今にも透き通って消えてしまいそうな姿で目の前に座っていた。
性別は見た目じゃさっぱり分からない。
「君は、誰…?」
「僕は君の恩人、身体楽になったろ」
確かに気持ち悪さも寒気もさっぱり無くなっている。
「えぇ…すご…どんな魔法使ったの……」
「魔法じゃない、僕の血液を君に分けたんだ」
あれ?迷走神経反射って輸血が必要だったっけ?
そもそも血液型が違うと拒絶反応とか病気とかやばいんじゃないのか??
「あの〜、多分間違えてると思うんだけど貧血じゃなくて迷走神経反射って言って……」
「迷走神経反射は確かに輸血は必要ない。でもさっきの君のは血液が不足したことで起きた脳貧血だった」
そういうのって見ただけで分かるもんなのかな?
この人は医療従事者だったりするのかな?
「えぇ〜……もう何が何だかわからんけどありがとうございましたぁ………」
座った状態からそのまま土下座する。
「いや別にいいんだけどさ、その代わりと言ってはなんだけど」
ニヤッと悪い笑顔を浮かべた。
何を要求されるのだろうか…命以外ならなんでもいい。
もはや全部が白すぎて悪い笑顔すら天使に見える。
「……はい……なんでしょう……?」
「君の血、僕が欲しいって言った時に分けてくれないかな」
「………………??」
僕の血なんか何に使うんだよ。
まさか僕の血を貧血の人に配って歩くのか?
「あの…そういうのって血液型同士で相性的なのがあって、拒絶反応とか起きるとやばいと思いますよ…?」
「えっと、僕の体は少し特殊でさ、どんな人から血を貰っても拒絶反応は起きないし、逆に僕の血を誰に与えても拒絶反応は起きない。」
んん?さっぱり分からんけど、とりあえずこの人は僕の血を自分の身体に取り入れようとしてるってこと?なんのために?そういう性癖の人??それともそれを利用して誰かを救ってるとか???
「いや、まぁ、いいですけど…名前も知らない人に渡すのは気が引けるって言うか…」
「僕の名前は…………無いよ。君が呼びたいように呼んだらいい」
名前無いって…人間でそんな野良猫みたいなことがあるのか?
ん〜性別がどっちか分からないから決めづらい…
「じゃあ……目が赤くて炎みたいだから焔で」
「焔ね…わかったよ」
焔は静かに微笑んだ。お父さん、お母さん、25歳で初めて名付け親になりました。厨二くさい名前をつけてごめんなさい…
「ところで、何故僕の血が必要か聞いていい?」
「…………それは…」
言いかけたところで焔は引き戸の向こうに鋭い視線をやった。
「ケケケケケケケケケケケケケ」
さっきのひとつ目の犬の声だ。しかも複数匹いるようだ。
「うわぁぁぁまたかよ………」
さすがに教室の中まで入られたら太刀打ちできない、袋のネズミ状態だ。
「おい………どうする……?」
焔の方を見る。焔はこっちを見て「大丈夫」と頷いた。
「あいつら程度なら、僕勝てるよ」
「勝てるって……あいつら目は弱いけど捕まったら終わりだぞ?」
「大丈夫、僕はあいつらよりは強い」
そう言い放つと焔はドアの方に向かって行った。
「ちょちょちょちょ!!!マジで危ないって!!」
僕の声も聞かずドアを開けて、反射的に思い切り後退した。
化け物が口の端にヨダレの泡を浮かべて焔に飛び掛かった。
「おい!!!!焔!!!!」
その瞬間、化け物の喉が裂けて血が吹き出した。
地面に叩きつけられた化け物は痛みにもがき苦しんでいる。
返り血を浴びて赤く染まった焔の手には赤いナイフのようなものが握られていた。
「ケケケケケケケ!!!!」
仲間が傷つけられて怒りゲージMAXになった化け物の群れが一気に侵入してきた。
そのうちの1匹が僕の方へ向かってダッシュして来る。
「うわぁぁぁ!!!!!来るなあぁぁ!!!」
大きく口を開けて飛び掛ろうと化け物が構えた途端、そいつの体が崩れ落ちた。
「触るな。俺の獲物だよ」
焔のナイフが脳天を貫いていた。焔の赤く光る瞳を恐怖で真っ直ぐ見ることが出来ない。焔の足や肩を見ると化け物が牙を突き立てている。
やがて焔の足からミシミシと嫌な音が聞こえ、焔はその場に膝をついた。筋をやられたのか。
「……痛……ってぇな!!」
化け物の頭骨から引き抜いた赤いナイフが鮮やかな弧を描く。化け物の喉や腹から血が吹き出し内臓がはみ出した。
化け物軍団は全滅。僕は無傷、焔はかなりの怪我を負った。
「やっぱり、守るものがあると戦いづらいね。」
その場に座り込みながらヘラヘラと笑う。
その姿にさっきまでの気迫は感じられなかった。
「笑ってる場合か!大怪我だろ!何があいつらより強いだよ、ギリギリじゃねえか」
「しょうがないでしょ、君を守りながらだとどうしても無傷とは行かないさ。それとも…何…?」
また悪い笑顔だ、這ってこっちに近づいてくる。
「僕は君が生きてる限り君を餌として守るだろうね。正直戦いづらいさ。だから僕の邪魔にならないように、君のことを殺しちゃってもいいの?」
背中を冷たいものが走る。
やばい人に助けられたんだ…僕……
逃げたくなる足を抑える、逃げたらそれこそ何されるか……
「殺されたくない?」
無言で首を縦に振る。
当然だ、殺されたいなんて言うやつそう居ないだろう。
「じゃあ約束の血、今頂戴」
「………え……?今…?」
さっきの赤いナイフをこっちに向けてくる。
「ちょわかったからそれこっち向けんな!危ないだろ!」
「ごめんごめん、じゃあじっとしててね」
そう言うと焔は僕の首筋に浅くナイフを刺した
「いった………!?!?」
「ごめん、すぐもらうから少し待って」
何?さては直接血吸うの?
吸血鬼の末裔とかなのこいつ?
「え……ちょっ………まっ………!」
拒む隙なんてなかった。
焔は首の傷口に口を付けて血を吸い始めた。
なんか複雑な気持ちだな…仮に焔が男だったら俺はどんな顔をして吸われればいいんだよ…
背中がゾワゾワする。
だんだんくすぐったくなってきて身を捩った。
「あはは、くすぐったいね。でもすぐ慣れるよ」
「お……まえ!吸いすぎだよ!!さっきまで貧血だったやつから吸う量じゃねえって!というかすぐ慣れるって…どんだけの頻度で吸おうとしてんだよ!」
「うるさ………手足使って抵抗しないくせに口ではすぐ反抗する。本気で嫌なら逃げればいいのにね」
目を細めて笑う。口の端には血が滲んでいた。
これからこいつに守られる、餌として。そしておそらく毎日のように血を啜られる。いくら血があっても足りないんじゃないか…
とりあえず取れそうな鉄分はできるだけ取っておこうと思った。
お読み頂きありがとうございます。
初作品ですので至らない部分が目立つかと思いますが楽しく書いて行こうと思います。
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