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第18話 薬液の香

この物語は小さい時から僕の心の中にもうひとつの世界として描いていました。

雑な文章にはなりますが僕の心の中にずっと秘めていた世界を誰かに見せることが出来ればと思います。

零を床へそっと降ろした。

元いた教室、こんなに早く戻ってくることになるとは思わなかった。


「ここにある程度、食料がある。一度に食べすぎるなよ。俺の分なんだから」

僕は缶詰を差し出したが零は黙ったまま俯いていた。


「指が痛すぎてそれどころじゃないか。僕は

骨を折ったことが無いからどのくらい痛いのか分からねぇけど」

骨を折った時ってどうやって治療すればいいんだっけ。

とりあえずスーパーで調達してきた割り箸を当て木にして固定するか?

巻くものは何かあるかな?

教室を見回したが包帯の代わりになりそうなものは何も無かった。


「零、少しここで待っててもらえる?保健室に行けば包帯があるはずだからそれ取ってくるよ」

「待つけどさ……僕にそんな優しくして大丈夫なの?僕のことなんか信用出来ないだろ」

零は怪訝そうな顔でそんなことを呟いた。

「とりあえず話したいことは沢山ある。指が痛いと話すのも辛いだろ、これはあくまで自分のためにやってる事だから気にするなよ」

「……………」

零はまた黙って俯いた。

罪悪感を感じているのか、それとも指が痛いからなのかは分からないが今の零じゃ僕らに危害を加えることは無いし出来ないだろう。


「とりあえずここで待ってな。なるはやで取ってくるよ」

そう言って教室を出たはいいけど…無事に保健室までたどり着いて帰ってこれるかな…

焔が着いて来てくれれば安心だったのだが、恐らく先にどっかへ行ってしまってるだろう。

とりあえず進まなきゃ。

気配を殺してなるべく目立たないように壁に沿って歩いた。

緊張で強く打つ心臓の音がうるさい。

「ひぃ……怖い………」


階段の前まで行ったところで見慣れた姿を見つけた。

「………………え??お前まだ居たの??」

焔が壁にもたれかかり、僕を睨んでいる。

てっきり先に1人で行ってしまったと思っていた。

「後で話そうって言ったろ、さっさとしてくんね?」

「あの…………機嫌を損ねてしまったタイミングでお願いするのも恐縮なのですが……………」

「…はい、なんでしょう」

あぁ、この淡々とした返事がもう怖い。


「零の指を手当するのに保健室まで包帯を取りに行きたくて…僕一人じゃ多分め〜っちゃ危険だから着いてきて欲しくて…別に、零が可哀想だから手当する訳じゃなくて!情報を聞き出すためにも………」

「はぁ………………お人好しもいい加減にしろよ。あいつが治った後はどうする?また僕らを襲うかもしれないだろ」

ですよね…正直期待した回答は来ないと思っていた。


「なんか………僕の直感だけど、零はもう僕らを襲わないと思う。それに、恩を売っておけば襲いたく無くなるかもしれないし…!」

はぁ……と焔は再び深いため息をついて頭をガシガシと搔いた。

「そもそも保健室の場所は?分かんの?」

「えっ……と、分からない…です」

「着いてこい」

あれ?着いてきてくれるのか……?

焔は僕のしようとしてる事を否定して関与してくれないものだと思っていた……

焔がいるなら心強い…

僕らは絶賛喧嘩中(?)なので、気まづさが歩く僕らに距離を作った。


「さっき言ってた話なんだけど」

あぁ……歩きながら詰められる感じか…これ。

「はい……もう何言われても弁明の余地は無いです……」

どんな強い言葉が来ても耐えられるように心を殺しておこう。


「僕はこの先、殺すよりも残虐な場面を見せることがあるかもしれない」

「へ…………?それは……どういう…?」

強い叱責の言葉が来ると思っていたが予想と違った。

「僕さ…血を飲んで回復出来るっちゃ出来るんだけど、なんて言うか、本能なのかな?圧倒的に血じゃ足りない。」

「それは………つまり………?」

「衝動が抑えられなくて既に1人、人の肉を喰ってる」

「…………………………」

まじか、思ったより残虐かもしれない。

何も答えない僕を見た焔の顔に僅かだが「やっぱりか」と言うような表情が浮かぶ。

咄嗟に反応出来ず黙ってしまった自分を悔いた。


「いや………!そんなんで別に焔のことを怖いとか気持ち悪いとかは思わねえよ!!むしろ、よく話してくれたというか……」

「僕への評価が変わることは別に気にしてない。春也がその場面を見て耐えられるとは到底思えなくてさ、それに今回みたいに殺そうとした時に止められるんじゃ僕も死活問題なんだよね」

そっか:…………いや、そうだよな。

零を助けたかったのは僕の感情的な都合。

でも焔が零を殺したかったのは生理的な都合。

これらを天秤にかけて考えると生理的な都合の方がよっぽど重い。

「そうだよな…感情が先行してお前のことを考えれて無かった…」

焔は普通の人間とは体の造りが違うんだ。普通の人間と同じ生き方、価値観を押し付けていたら焔の身が滅ぶことになる。

焔の残酷な部分を見たくない気持ちはあるけど、焔がそれで弱っていくのは見たくない。


「で、僕は春也にもう着いてくるなって言うつもりだけど?」

そういうことだろうなとは思った。でも着いて行かないという選択肢は正直僕の中には無い。

「そう言うとは思ったけど、怖がって引きこもってるだけじゃ何も変えられない…焔に着いて行く事が今の僕ができる最善なんだよ。だから着いて行かせて欲しい」

「はっ………マジで言ってんの。一度自分のことを俯瞰して見てみなよ。耐えられるとは思えないし、そんな状態で何かを変えようなんて無謀としか思えないけど」

「今は!………今は耐えれないかもだけど、それでも……あの時動いていればって後から後悔する方が僕は怖い」

焔はふーん、と言う顔をして僕を見た。

「ま、着いてくるなら勝手にしたらいいよ。でもこの先、春也は居ないものとして僕の好きにやらせてもらうからね」

「焔が好きにするなら僕も好きにする。だから僕は焔に着いていく」

「…………勝手にしろよ」


話しているうちに保健室へ着いた。

ガラガラと引き戸を引いて中に入ると消毒液の匂いがした。


「包帯と他に何が必要?」

焔の手には包帯が3ロール握られていた。

「えっと、何が必要なんだろ……」

「とりあえず湿布と保冷剤、あとこれ持っとけ」

そう言って裁ち鋏のような大きな鋏を渡してきた。

「護身用。まあそんなんじゃ役に立たないと思うけど」

「あ、ありがとう……」


必要な物を回収した僕らは保健室を後にした。

「僕は零と少し話をする。焔は教室の前で待ってて……って言っても、焔は先に行ってしまうか…」

「気が変わらない内に戻ってこい。待っててやるよ」

その言葉を聞いて少し安心した。


戻っている道中僕は深く考え込んでいた。

焔とは友達になれそうと思っていた。

でも僕が距離を詰めようとするとすぐに突き放される。

なんだろう、うまく掌で転がされているような気がする。

どこかのタイミングで餌と捕食者の関係だけではなく、対等になれないかちゃんと話をしたい。いや、これは平和ボケしすぎか?

こういう話をしようとしたらまた逃げられそうだな…

まあもう少し様子を見てみるしかないかな。


思考を巡らせているうちに僕らが元いた教室の前まで戻ってきていた。

「護衛ありがとう。じゃあ焔は少しここで待っててくれ」

「あい」

焔は階段を登った所で立ち止まった。


零が逃げ出してる可能性が不意に頭によぎり、慌てて教室のドアを開けた。

良かった……居た。

足元にはお菓子の袋が転がっている。

お菓子を食べたいのに指が使えなくて苦戦しているようだった。

「はは……なんだ、食欲はあるんだな。開けてやるよ」

僕はお菓子の袋を両手で開封した。袋から香ばしい油の匂いが漂った。


焔を待たせすぎると置いていかれてしまう。

零の応急処置を急ぎつつ、話をしよう。


僕は消毒液の匂いが残った包帯を1つ手に取って零の方へ向き直った。

お読み頂きありがとうございます。

初作品ですので至らない部分が目立つかと思いますが楽しく書いて行こうと思います。

少しでも続きが気になると思ってくださった方はブクマ、評価して頂けるとモチベになります。

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