第八章〜それは
寝ます。
私は息を呑み、唾を呑み込みながら成り行きを待つしかなかった。
リヴィング内の大きなシェルフの中程の段に置かれた置き時計が秒針を刻む音だけが、室内に響いていた。
「これは、ね」
突然、純悟郎が静かに口を開いた。その声は少し震えているようであった。
「この作品の唯一最大と言える濡れ場だよ。そう思わなかった?思わなかったとは言わせないよ」
純悟郎の口調はしかし、刺すように鋭いものだった。
息子に同調するように母親も頷いていた。
━━いや!思わなかったよ。間違っても。濡れ場だとは・・・。
私は声を大にしてそう言いたかったが、言葉は発することが出来はしかった。
煮え切らない私の態度に痺れを切らしたのか、純悟郎が声を荒げた。
「そんなこともわからないの?先生って、文学部を専攻して文学について学んでいるのでしょう?そんなことでいいの?まったく、フツーわかるでしょうに」
「まったく、そうですわ。普通、おわかりになるでしょうに」
母親も同調するように。
━━いや・・・。そうか?わかるか?どうやったら・・・?
私はどういう訳かそれを口に出来なかったのだ。やはり、自分の文章読解力について、自信を失ってしまったセイであろうか。
と、母親のが追い討ちをかけるように、
「先生にご説明死てあげなさい純悟郎!この先生、なんだか頼りないし、使い物になりませんわ。しっかりいってあげるのよ」
━━いや、それは・・・。
私の心の中の声。
有り難う御座いました。