第七章〜わからない
宜しく御願い申し上げます。
「ちがっ・・・たか・・・な?」
母子の沈黙に耐えきれなくなって、私は問い返していた。怖ず怖ずと視線を上げてみる。
純悟郎の引き攣ったような表情が目に入った。
続いて、母親の間違いを咎めるような鋭い目。「ちが・・・いました・・・?」
母子は何も答えはしない。
そのリアクションを見て私は、今月の家庭教師の授業料はすっ飛んだな、と諦観するしかなかった。かたん、と母子のどちらかの座る椅子の脚が音を立てたので、私は震え上がるしかなかった。
「では・・・、一体、これは・・・」
私の言葉は途中で止まった。純悟郎の発言がそれを遮ったから、だ。
「これって、そんなどうでもいいくだらない場面に思えるの?・・・酷い。先生・・・、読解力ないよ。まるで子供並み、だね」
「え・・・そんな・・・、では、これはどういう・・・?」
私。母親といえば、
「息子がそえ申しておりますわ。そのとおりですわ。たまりに酷いじゃあありませんかセンセ。なんというお人なのでしょこの先生という御方ときたら」
「そんな、それは・・・、それではこれは・・・ちょっ、ちょっと待って下さいまし。お母様」
私は両の掌を彼女に晒した。
しかし、それは無駄な動きのようだった。
「純悟郎、この御方には説明が必要なようですわね。ご説明、してお上げなさい。しっかりと、ね」
有り難う御座いました。