第一章〜超ラノベ?
宜しくお願い致します。
『ばしっ』
始め、なんのことだかさっぱり理解出来なかった。
何らかの擬音を表現しているのであるらしいことだけは、何となくわかった。わかるは、わかった。いや、わかる訳もなかった。
しかし、だ。仮に擬音の一種だとしても果たしてそれがなんの音を表現したものなのか、何を表現しようとした音なのか、私にはわかり得ないと思われた。
或いは、これはいわゆる擬音語ではなく、擬態語の方なのではないかとさえおもわれるのだった。
私もそれなりの読書経験を経てきたつもりなのであるから、やはりそれなりに読解力や、想像力、創造力を持ち合わせているつもりではいるのであった。
それでも、である。冒頭のその擬音らしきからは何を想像することも出来なかったのである。冒頭に突然、出てきた単語だからである。
それでもめげずに、続いての文章を読み進めてみた。
『どかっ』
やはり、これは擬音の一種なのだろうか?私にはそうとしか思えなくなってきた。
このまま、音を表現するオノマトペだけでこの文章は構成されているのではなかろうか?そんな不安と或いは、期待とが入り混じった複雑な感情が、脳裏を過るのであった。
「うちの息子が書いたので御座いますわ。御読みになって下さいませ。先生。小説家を目指している息子が生まれて初めて書いて、あたくしに読ませてくれた渾身の力作のハズですわ。いわゆるライトノベル、ラノベとでも呼べばいいのでしょうか。とにかくそのようなジャンルの小説作品で御座いますわ。先生、とうか息子の作品を読んで上げて下さいましな。先生は文学部にお通いでいらっしゃるのでしょう?ならば、この手の小説の評価をつけたり批評したりアドヴァイスをくださったりなどは朝飯前にお出来になることなのでしょうi?でしたら是非、うちの息子の作品を読んでみてくださいましね」
そう勢いよくたのみこまれて、どうしても断わることが敵わなかったのである。
私は、先生、とは呼ばれているけれど、法的に認められたいわゆる教師としての免許、資格を持っている教師などではなくてただ単に、家庭教師連合という組織に家庭教師として登録し、加入者である一般家庭の中学生や高校生などのお宅に派遣されて、学習の指導に当たっているアルバイトの家庭教師にすぎないのであるけれど。
婦人の言う息子とは、今年で小学2年生になる近衛純悟郎クン、八歳のことである。
今回、近衛家の邸宅にいつもの授業をするために訪問した刹那に、いきなり頼み込まれた仕事の内容が、純悟郎クンの書いたという小説の朗読とその評価をつけること、もしこれを雑誌編集者が読んだとする時に下されるであろう客観的批評と採点、雑誌採用の合否。知らせて欲しいというものだったのだ。
報酬として、家庭教師としての授業料の他に、一作あたり、二万円だという提案があった。
貧乏や学生である俺にとってはまたとない臨時収入を得るチャンスにほかならないのであった。
それだから、私はその依頼を気安くも引き受けてしまったのであった。
御読みになって頂きまして、有難う御座いました。