『錬金の書』第1章第8節 エリナの協力
ガストンの下で修行を重ねるリライ。日々の学びを通して、錬金術の奥深い知識と技術を体得していった。単なる錬金術を超えて、あらゆる自然の法則や思想まで教わる贅沢な日々だった。
一方でエリナは、リライの活動に協力する形で、傍らに寄り添い続けていた。ガストンの屋敷にも時折足を運び、リライの様子を見守っていたのだ。
「ガストンさんのお陰で、リライもずいぶん大人になったわね」
リライが書物に夢中になる様子を見て、エリナはそうひと言つぶやいた。
その言葉を聞きつけたリライは、しょげた表情を浮かべながら答えた。
「そうだろうか...俺はまだガキんちょな所があると思うけど」
「ふふ、なるほどそれは分かるわ」
エリナは優しく微笑んだ。リライは仕草や言葉使いは大人びているものの、心の中では少年のような無垢さを残していた。それがリライらしさだと思えたのだ。
「だけど、あんたは間違いなく大きく成長したわ」
エリナはそう続けると、リライに近づいて手を添えた。
「あの薬の失敗の後、とてもショックだったでしょう。でも、あんたはガストンさんのお陰で立ち直れたのよ」
リライは少し考え込んだ後、小さくうなずいた。
「ああ、確かにな。あの時はエリナや、ガストン師に助けてもらったおかげで、この修行に打ち込めたんだ」
「そうそう。だからあんたは、立派に大人になれたと思うわ」
エリナの言葉に、リライは胸が高鳴った。ガキん坊だった自分が、錬金術の基礎を学び、賢者からすら一目置かれるまでに成長できたことを、改めて実感したのだった。
「ありがとう、エリナ。君がいるおかげで、道は間違えずにすんだよ」
「何をおっしゃいます。私だってあんたをサポートしているだけですわ」
エリナはリライの頭を撫でつつ、褒め称えた。
「それにしても、ここまでくると、錬金術にもっと可能性を感じるわね」
続けてエリナはそう言った。実際、ガストンの教えを受けるうちに、錬金術の奥深さが少しずつ見えてきていた。
人々を癒す薬はもちろん、生活に役立つ道具の製造や、特殊な物質の生成まで、錬金術の可能性は無限に広がっていた。
「そうだな。この先、できることは計り知れないかもしれないね」
リライは夢を膨らませながら、一冊の本を手に取った。ガストンから学んだ錬金術の書であった。
その書を解読しつつ、リライは錬金術の有用性や可能性を想像した。ページをめくるたび、新しいアイデアが膨らんでいく。
「わあ、この技術で道具を作れば、町の人の役に立てそうだね」
「ほんとうに。道具は携帯に便利でしょう」
「そうと決まれば、早速実験に取りかかろうか」
「いいわね。私も手伝うから」
二人して夢を語りながら、ついには実践に移ることを決めた。ガストンの書を参考に、生活に役立つ道具の製造を試みていくことにした。
そうしてまた日々、ふたりで実験に没頭するようになった。リライは錬金術の知識を応用し、道具の設計図を考案する。一方でエリナはその補助をし、道具の組立や細部の手伝いをした。
互いの役割が定まり、2人の活動はスムーズに進んでいった。時折ガストンも様子を見に来ては、二人に助言を与える。賢者の薫陶を受けながら、リライとエリナは着実に力をつけていった。
そうした検証を重ねる日々の中で、ついに大きな成果が生まれた。それは、万能ナイフと呼ばれる切れ味抜群の錬金製品だった。
「できた!このナイフなら何でも切れるはずだ!」
リライが喜び勇んだ様子で錬金術ナイフを手に取ると、ゆっくりとナイフを動かしてみせた。
「わあ、すごい切れ味ね!」
エリナも目を輝かせ、感嘆の声を上げた。
ナイフを持ったリライが、様々な物体に試し斬りをくわえてみる。
まずは木の板を薄く切り裂いた。ナイフはまるで熱した包丁で切るかのように、滑らかに板を両断した。
次に石を切ってみた。普通のナイフなら決して切れないはずの石すら、あっさりと切り裂かれた。
「すごい...これは本当に万能のナイフだわ」
エリナが呆気にとられた様子で、目を見開いた。リライもまた、この驚異的な切れ味に感動の色を隠せなかった。
二人で長年検証を重ねてきた賜物であり、錬金術の先端技術がついに完成したのだった。
「よし、町の人々に見せてあげよう」
リライはそう言って立ち上がると、エリナに手を差し伸べた。
「行こう、エリナ。錬金術の輝かしい成果を、みんなに見せつけてやろう」
エリナはリライの手を取り、力強く頷いた。
「ええ、行きましょう。私たち二人の力で、この町に革新的な技術をもたらすのよ」
二人は熱い眼差しを交わすと、万能ナイフを携えて、ガストンの屋敷を出た。そしてラトビレッジ中に、錬金術の偉力を示すべく歩き出したのだった。