『錬金の書』第1章第5節 村人の反応
小さな人形の躍動に釘付けになっていたリライとエリナ。幼なじみの助言を胸に刻み、リライは錬金術の力を慎重に扱う決意を新たにした。
しかし同時に、この新しい技術への期待と好奇心が高まっていた。命を持った人形を作り出せたということは、錬金術にはまだ見ぬ可能性が秘められていることを物語っている。
「なあエリナ、この人形をみんなに見せてみようか」
リライはエリナにそう切り出した。エリナは一瞬戸惑いの色を見せたが、すぐに納得の表情を浮かべた。
「そうね、いいわ。でもあんたが望むなら、私も構わないわ」
リライの顔から、嬉しそうな笑みが漏れた。幼なじみの理解とサポートに感謝の念を抱きながら、リライは小さな人形を手の中に乗せた。
そして2人は実験室を出て、町の広場へと向かった。
今の時間帯、広場には人通りが絶えず、多くの人々が行き交っていた。農家の主人や商人、主婦や子供たち、町の住人らがそれぞれの用事で広場を行き来していた。
そんな人混みの中を潜り抜け、リライとエリナはついに広場の中心に辿り着いた。リライは落ち着いた表情で深呼吸すると、大きく胸を張った。
「みなさん!」
リライの大声に、広場の人々は振り返った。最初は疑問を抱きつつも、次第に好奇の視線が集まってくる。
リライもエリナも、この瞬間を待ち望んでいた。世間の目を気にすることなく、錬金術の新たな可能性を示す時が来たのだ。
リライは手の中の小さな人形を、高く掲げた。そしてもう一度力強く言った。
「錬金術の偉力を目撃するがいい!」
すると、人形がゆっくりと動き出した。最初は手足を小さく動かし、やがてはしゃばけるように体を左右に振っていく。丸木細工のような小さな人形が生き物のように躍動し続けるのだ。
それを目撃した広場の人々は、一斉に驚きの声を上げた。
「わあっ!」「な、な、なんだあれは!?」「人形が動いてる!」
人形の動きに、人々は怪訝な面持ちを見せた。中には人形に石を投げつける者さえいた。
リライは慌てて制止の手を上げた。
「落ち着いてください!これは私の新しい技術、錬金術によって作り上げた不思議な人形なのです!」
しかしリライの言葉は、人々の興味をかき立てるだけの効果しかなかった。
「なんだと?錬金術?まさか古の魔術のことじゃあ...」
「こいつ何を企んでいるんだ?」
「魔術使いを許してはならぬ!」
町の人々からは怪訝な視線が次々と投げかけられ、やがてそれは敵意に変わっていった。
「ど、どうしよう...」
リライは困惑の色を隠せない。状況を収束に導けずにいた。
そんな中、エリナが叫んだ。「ちょっと待ってくださいみなさん!」
エリナの大声に、人々は振り返る。するとエリナは大きく口を開いて話し始めた。
「リライの錬金術には、危険なものは一切ありません!これはただの、不思議な技術なのです!」
エリナはさらに続ける。
「町の皆さん、試しにこの人形を見てみませんか?決して悪いものではありません!」
そう言うと、エリナはリライから人形を借り、それを周りに回し始めた。
最初は人々は警戒心を持って人形を見つめるだけだった。しかし、じっくり人形の動きを観察していくうちに、だんだんと表情が和らいでいく様子がうかがえた。
「へえ、なるほどこれが錬金術の力なのか」
「かわいらしい作りものだな」
「動くなんて、奇術でも魔法でもなさそうだ」
そうしてようやく人々は、少しずつ興味を持ち始めた。エリナはそのタイミングで、人形を地面に置いた。
するとその人形は、一人立ちして歩き始めるではないか。人々は驚きの声を上げた。
「わあ!人形が動いてる!」
「すごい!めずらしい!」
「これはホンモノの魔法かもしれませんぞ」
やがて人々は人形を円になって取り囲み、その動きに夢中になっていった。リライとエリナは人形の動きを微笑ましく見つめていた。
「うまくいったね、エリナ」リライがささやいた。
「そうね。皆も錬金術の面白さに気付いてくれたみたい」エリナが応える。