『錬金の書』第1章第4節 人形の完成
森の奥で出会った古の魔導書から、失われた錬金術の知識を得たリライ。幼なじみのエリナと共に、その神秘的な力に魅せられながらも、今後の方針を慎重に考えていた。
「まずは小さな実験から始めるのがいいかもしれないね」
リライはエリナに向かって言った。2人は自宅の小さな実験室に集まっていた。
「錬金術の書に載っていた、まずは分子の構造をコントロールする方法から試そうと思う」
「それって具体的にどういうことなの?」
エリナは不安げな表情を見せた。
リライは気付かれていたことに気まずそうに笑い、説明を続ける。
「錬金術では、物質を最小単位の分子レベルから自在に操作できるんだ。つまり、例えば木の分子から別の物質を作り出せるということさ」
「へえ、それは不思議ね。でもどうやって実際にやるの?」
エリナの質問に、リライは魔導書の記述を思い出しながら答えた。
「まずは簡単な実験からだ。この木の枝をちょっと使ってみよう」
リライは庭から拾った木の枝を手にした。そしてまばたきするように目を細め、意識を木の分子構造に集中させた。
するとすぐさま、リライの手の平にある木の枝が、ふわりと宙に浮かび上がった。
「わっ!?」
エリナは驚いた様子で木の枝の動きを見つめる。確かに目の前で枝が空中に舞い上がっていた。
リライはさらに意識を集中させる。そうすると次第に、枝の形状がゆっくりと変化し始めた。まるで生き物のように蠢き動いているかのようであった。
やがて木の枝は、小さな人形の形になっていった。見事に錬金術の第一歩を踏み出したリライは、満足げにエリナに人形を見せた。
「できたよ、エリナ。これが錬金術の第一歩なんだ」
「わあ、すごいわね!」
エリナはリライの手の上の小さな人形に釘付けになっていた。細かい彫刻のような精巧な作りで、しっかりと人の形をしていた。
「でもこれ、生き物のように動いてるわよ?」
エリナがはっとした様子でリライに言うと、小さな人形は確かに、腕や足を小さく動かし始めた。まるで生きているように見える。
「そうなんだ。錬金術を使えば、作り出した物体に命を吹き込むこともできるらしい」
リライはこの上なく嬉しそうに言った。自らの手で生み出した最初の命の躍動に、心から喜びを感じていた。
一方でエリナはリライの様子に違和感を覚えていた。錬金術はとてつもない力があるということが分かった。命さえ吹き込めるのだから、この技術が万が一誤って使われれば大変なことになるかもしれない。
「ねえリライ。これからはもっと気を付けたほうがいいわよ」
「え?」
「錬金術の力は偉大だけれど、それだけに恐ろしい力でもあるのよ。ちょっとしたことで破滅的な結果を招くかもしれない」
エリナの一言に、リライは目を見開いた。今まで気づかなかったが、確かにエリナの言う通りだった。
エリナはリライの表情から、言葉の重みが通じたことが分かり、溜め息をついた。
「でも、大丈夫。私があんたを応援するから」
「エリナ...」
リライは幼なじみの寄り添いに救われた思いだった。