『錬金の書』第1章第3節 錬金術への興味
深い森の中で出くわした古びた魔導書。リライはその中に記された錬金術の知識に夢中になり、真剣な表情で読み進めていた。
一方、エリナはリライのそんな様子に戸惑いを隠せない。古い知識が書かれた謎めいた本に、いくら好奇心が強いからと言って、そこまで熱中する理由がリライにはあったのだろうか。
しかし、リライの目には旺盛な探究心が宿っていた。ページをめくるたび、リライの視線は輝きを増していく。そんな幼なじみの姿を見守るエリナの胸中にも、徐々に理解が芽生え始めていた。
「ほぅ、なるほど。こうすれば金属をいくつもの形に変えられるのか」
リライは感心し、古の文字が刻まれたページをさらに読み進める。
本当に不思議な本だ。これまでの世界観から一変して、まるで異空間に飛び込んだかのような、畏れ多い雰囲気に包まれていた。
そしてそのページを読み進めるうちに、リライの心の奥底にあった違和感がだんだん和らいでいくようであった。平穏な日常に物足りなさを覚え、なにかを求めていたリライの心の空洞が、次第に満たされていくのが分かった。
「すごい...これなら、世界を変えられるかもしれない」
リライがひと言つぶやくと、エリナは心配そうな表情になった。
「何を言ってるのよ、あんた」
「錬金術とは、あらゆる物質を自在に変え、新しい物を生み出す技術なんだ。つまり、この世界に革命を起こす力があるということさ」
リライの言葉に、エリナは目を見開いた。世界を変えるという強い言葉に、どこか危うさすら感じていたのだ。
「ちょっと待ってリライ。そんな強力な技術を習得したら、大変なことになりはしないの?」
「大丈夫だよエリナ。錬金術は善用すれば、この世界にとてつもない恩恵をもたらすことができる」
「でも...」
エリナの不安そうな表情を見て、リライはほっと微笑んだ。そして優しく言葉を続ける。
「エリナ、俺はただ、この変わらない世界に新風を吹き込みたいだけなんだ。この小さな町から、世界を少しずつ変えていきたい。きっとそうすれば、俺の心の虚しさも満たされるはずだよ」
リライの言葉に、エリナは頷いた。はっとしたように、このとき初めてリライの心情が理解できた。
平和な日常に慣れ親しんできた幼なじみの心の内に、新たな可能性を求める強い想いがあったのだ。そしてその想いこそが、リライの探究心の源になっているのだと気づいた。
小さな町に生まれ育った二人にも、世界を変えたいという大きな夢があってもいいはずだ。それは実現するのは難しいかもしれないが、リライの純真な心に従うならば、その願いが叶うかもしれない。
エリナはそう考え直し、安心した表情でリライの頭を撫でつつ、言った。
「分かったわ。わたしはあんたを心から応援するから」
「エリナ...ありがとう」
リライはうれし涙を浮かべ、改めて魔導書に視線を戻した。そして心に決めた。この偶然の出会いから始まった錬金術の知識を、いつかきっと役立てよう、と。
すぐにでも錬金術の実践を始めたかったが、リライはとりあえずここで打ち止めにした。そしてエリナと共に、森の中を町へと引き返した。
2人の心に、新しい目標が芽生えていた。
この出会いを機に、これまでの平凡な日常が変わりはじめようとしていた。