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錬金術師の技術革命  作者: ちゃぷた3
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『錬金の書』第1章第2節 古びた魔導書

「な、なんだったんだあれは!?」


竜のような巨躯が町の上空を通過したあと、リライは呆然とした表情を浮かべていた。初めて目にする光景に、驚きとともに強い好奇心を覚えていたのだ。


一方、エリナはリライの反応に慌てふためいていた。彼女からすれば、突如として現れた脅威に怯えるのが自然の反応だったはずだ。


「リライ、あれは危険なものよ! 早く家の中に避難しないと!」


エリナは不安げにリライの手を引っ張った。しかしリライは強く拒否し、エリナの手を振り払った。そしてリライの目には、異様な輝きがあった。


「ダメだ、エリナ。あんな不思議なものを見過ごすわけにはいかない」


「え?」


「あれは一体何だったんだろう。竜に似ていたけど、別の生き物に違いない」


「ちょ、ちょっとリライ! 無暗に行ったら危ない!」


エリナが制止の言葉を発したものの、リライの頭からは今見た驚異的な光景が離れなかった。その生物が消えていった森の方へ、リライは急ぎ足で走り出した。


「ま、待ってよ! もうっ、こいつは!」


エリナは焦りながらも、リライの後を追わざるをえなかった。


「リライ、待って!本当に危険なんだってば!」


「エリナ、大丈夫だよ。僕には何か大きな発見が待っている気がするんだ。」


「でも、そんなこと言って何かあったらどうするのよ!」


そうして二人はラトビレッジの外れにある森の中へと足を踏み入れた。周りの木立ちが生い茂り、陽射しは少なく薄暗い雰囲気が漂っていた。しかし、相変わらずリライの目には探究心が宿っていた。


「ほら、あの先に何か跡があるんじゃないかな」


リライはしげみの中を這うようにして進んでいく。エリナはリライに従うしかなく、しぶしぶ付いて行った。


「リライ、本当にここで何を探そうとしているの?」


「エリナ、僕も正確にはわからない。でも、この森の奥に何かがある気がするんだ。」


「でも、こんなところで何か見つけても、どうするのよ。」


「それでも、試してみないとわからないだろう?何か面白いことが待っているかもしれない。」


二人で5分ほど進むと、いくつかの木の根が折れ散らばっている小さな平地があった。そこからさらに進んでみると、ついに答えが見つかった。


「こ、これは!?」


リライの前に、巨大な本が転がっているのが見えた。その姿にリライは唖然とする一方、エリナは安堵の表情を見せた。


「ふう、よかった。あれは本なのね」


「でも、ズンと重そうだし、一体どうやってここまで?」


リライは本の大きさに疑問を抱きながらも、楽しげな表情で近づいていった。


「リライ、その本は何なの?」


「わからない。でも、きっと何か特別なものに違いないよ。」


「特別って…どういうこと?」


「見たこともないほど大きいし、ただの本じゃない気がするんだ。何か秘密が隠されているかもしれない。」


ところが、本に近づいた途端、何かが起こった。本の表紙から紫色の煙が噴出し、まるで生き物のように動きだしたのだ。


「きゃぁっ!」


エリナは悲鳴を上げた。しかしリライはそわそわと煙の動きを追っており、注視し続けている。やがて立ち昇る煙は、翼を広げたような形状を取った。


「あれは、本なのか? いや、違う。生き物みたいだ」


リライの眼から見る煙の流れは、まるで本物の鳥のようであった。そのうごめくたたずまいに、リライは夢中になってしまう。


「リライ、本当に大丈夫?あれは危険かもしれないよ。」


「大丈夫だよ、エリナ。僕にはわかる。これは危険じゃない。」


「でも、もし何かあったら…」


「それでも、試してみる価値があるんだ。僕の直感を信じて。」


ふいに、煙の鳥は羽ばたきを強めた。そしてリライの方へと飛んでくる。リライは煙から逃げ遅れ、額に煙を浴びせてしまった。


「ぐっ」


リライはごほごほと咳き込んだ。しかし不思議なことに、煙に包まれたリライの体は何事もなかったようだ。


「リライ! 大丈夫?」


エリナが心配そうに声を掛けた。その時、リライの頭の中が次第に明瞭になっていった。煙によってリライの意識が、何かと一体化しているようであった。


《私は、魔導書の精霊。この森の奥から、あなたの好奇心と探究心の強さを感じ取ったのです》


リライの脳裏に、しとやかな声が響いた。その声は透き通るようで、何者かの存在を感じさせた。


《この書には、失われし錬金術の秘術が記されています。その知識をあなたに授け、私の目的を果たしたいと存じます》


「え、錬金術?」


リライはこの世界から離れた遠い昔の学問を思い浮かべ、不思議に思った。声の主も察したように続けた。


《はい、錬金術とは物質を自在に操る技術のこと。この世界に残されたたった一冊の書物に、その秘伝の術が書き記されています》


その言葉に、リライは目を見開いた。自分の心の内なる虚しさを埋められるような、新しい可能性を感じ取ったのだ。


《是非、この書の知識を胸に宿し、新たな世界を開いてみてはいかがですか?》


煙の精霊はそれだけ告げると、静かに立ち消えていった。


「リライ、大丈夫?何が起こってるの?」


「エリナ、大丈夫だよ。ただ…この本には何か特別な力があるみたいだ。」


「特別な力?それって、どういう意味?」


「説明は難しいけど、この本はただの本じゃないんだ。僕に何かを教えようとしている。」


「でも、それって安全なの?」


「わからない。でも、試してみる価値があると思うんだ。」


そして、巨大な本の表紙が静かに開かれた。リライはゆっくりとその中身を覗き込む。するとそこには、謎めいた紋様が次々と浮かび上がってきた。


「リライ、ど、どうするの?」


エリナが不安げに問うた。しかしリライの顔は、明るい探究心に満ちていた。


「分からない。でも、一生に一度の機会なんじゃないかな」


リライはそう言うと、真剣な表情で本の中身を読み始めた。やがてリライの前には、新たな扉が開かれようとしていた。


「リライ、本当に大丈夫?何が起こるかわからないのに…」


「エリナ、僕にはこれが必要なんだ。何かを見つけるために。」


「でも、リライが無事でいてくれないと…私は心配なの。」


「大丈夫だよ、エリナ。君が一緒にいてくれるから。」


「本当に…?」


「本当に。」


リライは本のページをめくり、深く読み進めた。その中には未知の知識が詰まっており、リライの心を揺さぶった。


「エリナ、この本には本当にすごいことが書かれているよ。錬金術の秘密がこんなにたくさん…」


「本当なの?信じられない…」


「でも、これが現実なんだ。僕たちの前に新しい道が開かれている。」


「リライ、私も一緒に学びたい。君と一緒に。」


「もちろんだよ、エリナ。僕たちは一緒に進もう。」


こうしてリライとエリナは、古びた魔導書を通じて新たな冒険の始まりを迎えた。未知の知識と可能性に満ちた未来が、彼らを待っていた。

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