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しばらく歩いていると、地面には色とりどりの小さな花が咲いてきていた。このまま進んでいくと、薄暗い大扉が見えてきた。両脇を巨大で灰色な鬼の石像が両手を上げて双方睨めっこしている。
その鬼の恐ろしい形相は、今まで見たことのある怒りのどんな表情よりも怖かった。なるべく、二つの鬼の顔を見ないようにと、音星と手を繋いで俯いて歩いた。地面はもはや、小さな花が生えている地面から灰色の土へと続いている。
シンと静まり返った殺風景な道だった。
天井には、度々振ってくる水滴を垂らす種々雑多な岩が突き出ていた。でも、この空間は、寒くもなく暑くもない。
「火端さん。いよいよですね。この扉の向こうには……」
「ああ……」
大扉に近づくにつれて、濁流の音がする。当然、大量の水が下方へと落ちる音だ。大量の水の音は、どこか物悲しく聞こえてしまった。
まるで、今まで生きていた時間。感じたこと、喜び。涙を流してしまうこと、怒り、何かが終わって一息吐くことや、勉強したこと、恋をしたこと、疲労も、苦労も、そんな全ての人生で感じてしまうことを押し流してしまうかのような……。
そう、人であった時間すらも、消えてしまいそうだった。
俺は大扉の取手を回すと、カチっと音がして開いたようなので、思い切って勢いよく開け放った。
灰色の地面が途切れた。
その先には、大海が広がっていて、その中央には大穴が空いていた。
轟々と大音量の水が押し流される音がする。
穴の底は、ここからは決して見えないんじゃないかな?
二人で、手を繋いで下を向いていると、微かだけど、大穴の底の方から地獄から何かが這い出てくるような不気味な悲鳴が聞こえてくる。その悲鳴はどこか唸り声にも似ていた。
「こ、ここが阿鼻地獄でしょうか? ここが、火端さんの終着点。で、私の旅の終わりの地なのですね……」
「いや、違うさ。弥生はもっと下だよ。ここは始まりの地さ」
よしっ!
「音星はここで、絶対に待っててくれよな! じゃ、行ってくる!」
嗚呼と音星が急に、泣き崩れる気配がしたけど、俺は振り向かなかった。
俺は音星の返答も聞かずに、大穴へと飛び込んだ。




