NPCはフラグを見る
ここはイングリス王国の辺境に位置する、始まりの街トゥーデ、俺はそこでコツコツと小遣い稼ぎにしかならない冒険者家業をしながら日々を過ごしていた。
一ヶ月前に神の啓示により『神の使者』、己をプレイヤーと呼ぶ者達が召喚される事が世界に知れ渡ることとなった。世界の危機を救う為や世界の闇を暴く為など大層な事を言ってはいたが正直俺からしたら見ている世界が違い過ぎて実感などは湧かなかったが、神の使者が召喚されてからその影響力を直に受けたのが最初に冒険者家業を勤しんでいるもの達だっただろうと言える。召喚されてから1週間経った現在は、討伐依頼はほぼ受けられず、達成報酬も右肩下がり、唯一需要があると言われている採取や採掘の依頼が多少以前より報酬が上がっているとはいえ、生活が出来る程貰える訳でもなく、現在では同業者の殆どが引退、もしくは他の都市に移転を余儀なくされている。冒険者ランクが高ければとも思ったが、それも神の使者が修練を積みランクが上がれば自ずと需要がなくなる可能性が危惧され現在の冒険者家業に未来が無いと噂されている。
(まぁ…不死身に任せればいいもんな………)
何千、何万と居る神の使者全員が不死身の肉体を有している為、わざわざ命ある者が命を張ってまでやる意味を問われれば正直、無いのかもしれない、引退する際、冒険者ギルドから仕事を紹介して貰えるようになっているのも引退する者に歯止めがかからない所だろう。調合、鍛冶、宿屋、料理屋、人手不足な所も多く存在しそれらに通ずる者が新たな転職先に志願する流れが出来上がっていた。
なら、なぜ俺は転職しないのか、単純に調合も鍛冶も料理すら人に振る舞える程の技量を持ち合わせていないからだ。営業など人と話す事も出来なくは無いが極力したくない。そして、こんな事が理由で冒険者家業をしている者などこの街には既に居らず、物好きな奴が数人同じく冒険者家業を勤しんでいると言った所だ。
(とりあえず、今日も薬草採取頑張るか……)
依頼ボードを確認するとここ1週間見慣れた採取・採掘以外ほぼ全ての依頼書に神の使者専用の文字が記されている。これが冒険者ギルドの意向、命ある者が態々やる事ない...の意思表示である。数少ない俺らでも受諾できる依頼書はどれも高ランクな依頼書であり、神の使者も手が出せない様な依頼書のみとなっている。
俺のランクが現在Dランクと下から3番目程度の冒険者、神の使者は登録当初からEランクであり、既にDランクに上がっている神の使者も出始めてる為、俺に出来る事は採取依頼以外ないのである。
「此方の薬草採取でよろしいですね?」
(コクリッ)
「ではギルドカードのご提示をお願いします。」
★
依頼を受けて俺がやって来たのはトゥーデの森、モンスターはゴブリンが多く、森の奥に進むにつれて上位種のゴブリンメイジやゴブリンアサシン、ホブゴブリンが出現するようになる。推薦ランクは浅瀬でEランク奥地でDランクと、俺の入れる最高ランクの場所となる。ゴブリンは単体では出ず常に複数体で行動し、個体差はあるが連携もしてくる。だから決して油断できる相手という訳ではない。だが、俺もDランク冒険者だ、ゴブリンの10や20は造作もない。ぞ、造作も無いのだが…
(やはり今日もか…)
目の前で行われているのは神の使者によるゴブリンの蹂躙…この森に着いてからそう時間は経って居ないが、既に100人以上の神の使者とすれ違い、ゴブリンに出くわす事無くお目当ての場所までたどり着いてしまう。
まぁ、俺の目的はゴブリンの討伐ではなく、薬草採取なのでこの状況は好機だと思うことにするか。
森の奥に進み『この先上位種のゴブリン出現可能性あり』の看板を過ぎる。この先からは油断は出来なくなる。上位種のゴブリンは個の力が上がり、更に知恵を有する個体も多い為、連携に磨きが掛かるだけでは無く甲骨な罠などを仕掛けてくることもある。
そして俺のお目当ての薬草もこの上位種が出現する位置から数が飛躍的に増えてくる。
昨日はあっちルートだったから、今日はあっちのルートに行ってみるか。
★
これで、薬草30束採取完了!今日は、何時もより数が少なかったせいでかなり奥の方に来てしまった。その所為で神の使者の数が激減した事により今日初めての戦闘をした。ゴブリンメイジが6体ゴブリンアサシンが3体と倒すことが出来たが依頼受けれないため、今回倒したゴブリンはタダ働きになる。ゴブリンだとドロップ品も売れないし……
時間にして5時間、周囲も夕日が掛かって来ているので俺は引き返す事にする。その時、背後にゾワッとした嫌な予感がし振り返る。
「………」
長年冒険者をしてきてこの感覚がした時はいい思い出がまるでない…見に行くなんて馬鹿馬鹿しい、ありえない、今すぐ逃げないと、そんな感覚が全身を襲うような感覚。
しかし、人間というものは怖いもの見たさという物も存在する、感覚で分かっていても、頭で理解しているとは言い難い。この感覚から幾ら危険な目に遭っていたとしても、少年の時、世界をもっと見てみたいと抽象的な事を思い冒険者を夢見たあの日を思い出す。
(確認だけしていこう……)
奥地に進んだ先に、それは存在した、存在してはならない者、今の俺では太刀打ち出来ない相手。
(ゴ、ゴブリンジェネラルだと………)
ホブゴブリンの更に上位種、ゴブリンジェネラルが存在していた。トゥーデの森でゴブリンジェネラルが確認された事例なんてない。
(これも神の使者様の影響って奴か………?)
それに何か様子がおかしい気がする、まるで意識が無いような、何処か虚ろげな様子が伺える、遠目で分かりずらいが、この数十秒の間にゴブリンジェネラルは起きているのにまるで動きが無いと言った様子で、先程まで戦ってきた、ゴブリン達とはまるで様子が違いすぎる。
(考えるのは後だな……一先ずギルドに戻って報告しないと……)
今度こそ本当に引き返すため、踵を返し帰路に着くのだった。
衝動書きのため次話は遅めです