棒状のものを握って白い液体を出す行為
楽しんでいただけたら幸いです。
※前の話の終わりを改変しているので改変後を読んでいない場合は違和感がある可能性があります。
「おーここかぁ、ええやん。広ぉ」
少し歩いた先に牧場はあった。数ある牧場の中では決して広くはないが、それでもナオの目にはとても広く映った。放牧されている牛の他に、いくつかの木製の建物が建っていた。三人が母屋へ向かうとちょうど中からカッタと共に牧場を経営している彼の祖父が現れた。
「おうカッタ、帰ったか」
背が高く、ガタイの良い老人の声はよく響いた。
「ただいま、爺ちゃん」
「おじゃましまぁす」
「こんちゃー初めまして、ナオちゃんで~す。爺ちゃんガタイええなぁ!パンパンやん!」
力仕事をしているおかげか、カッタの祖父は年齢に似合わないほど筋骨隆々な身体をしていた。その逞しい腕をナオはポンポンと手のひらで叩いていた。
「バハハ!そうじゃろ、まだまだ若いモンには負けとられんわい!それよりカッタァ!両手に花とはなぁ!さすがワシの孫じゃのう!」
カッタの祖父は笑いながらカッタを褒めた。
「やっやめろよ!そういうんじゃないって!」
「ナハハ、まぁ~まだガキすぎるわ、あと5年もしたら考えてやってもええでぇ」
顔を赤らめるカッタをナオがからかう。
「うっせ~!」
3人のやり取りをシュリィは笑顔で見ていた。
「今日はこいつらに仕事させっから爺ちゃんは休んでていいぜ、二人とも付いてきな」
カッタは仕事用具をまとめ、厩舎へ向かおうとする。
「ホホ~こりゃ助かるわい!ほいじゃワシは昼間から酒でも飲んじゃろ」
「ええなぁ、ウチにも飲ましてぇ」
ナオはこの世界の酒はまだ口にしたことがないので興味津々だった。
「おいっナオ早くしろ!」
仕事に入る前からサボろうとするナオをカッタはどやした。しぶしぶナオが仕事に向かう姿をカッタの祖父は手を振って見送った。
少し歩いた先にある牛舎には5頭ほどの乳牛が並んでいた。牛舎に着くとカッタは二人に指示をする。
「シュリィはここで牛の乳搾りをやってくれ、前もやったことあるしわかるよな?」
「いいよぉ、私乳搾り好きぃ」
以前にも手伝いをしたことがあり、勝手を知っていたシュリィは早速作業を始めた。続けてカッタはナオにシャベルが入った猫車を指さして言った。
「じゃあ俺も牛の世話すっからナオはこれ使ってあっちの豚小屋のクソ掃除な」
格差がありすぎるカッタの指示にナオは口をイーとさせて渋い顔をした。そして作業中のシュリィを見てピンと何かを思いつく。ナオはカッタの頭をヘッドロックするように抱え込み、耳打ちした。
「なぁカッタぁ、後でシュリィのええもんやるからさぁ、お掃除はアンタがやってやぁ……」
「いいものってなんだよ……?」
ナオの胸が押し付けられているカッタは赤くなりながら尋ねた。
「まぁ後でのお楽しみや。で、どうなん?」
「わ、わかったからもう離せ!」
ちぇっと舌打ちをしてカッタは猫車を押して豚小屋へ向かった。「ちょろ」とナオは呟き、ほくそ笑んだ。ナオはシュリィの横へ戻ると彼女のスマホを借りようと頼んだ。
「いいよぉ、はい」
二つ返事で自分のスマホを渡すシュリィ。ナオは録画機能を使って乳搾りをするシュリィを撮り始めた。
「イヒヒ、なんで撮ってるのぉ」
「ええからええから」
ナオは照れながら牛乳を搾るシュリィをにやけ面で録画していた。容器が牛乳でいっぱいになると、ナオが訊く。
「牛乳どんくらい出たぁ?」
「いっぱい出たねぇ!」
シュリィの屈託のない笑顔から発せられる言葉に、ナオは声が入らないようにブルブルと震えながら笑っていた。
「なんで笑ってるのぉ?」
「いや~、ええもん撮れたわぁ。スマホもうちょっと借りててええ?」
「いいよぉ」
二人は牛乳を入れる容器を替え、作業を続けながらカッタが戻ってくるのを待った。様々な角度でシュリィの姿を撮っているナオの姿は悪質カメコそのものであった。
二つ目の容器がいっぱいになる頃、カッタは戻ってきた。
「よぉ、今日はもうこれくらいでいいよ。助かったぜ」
そう言いながら、カッタはナオに目配せをした。
「ほなウチちょっとトイレ行ってくるから先戻っといてや」
ナオはカッタに目で返事をしながら言った。
「わかったぁ、じゃあカッタ君戻ろっかぁ」
「お、俺もちょっとトイレ行ってから戻るから」
「は~い」
シュリィの姿が見えなくなってからカッタはナオに詰め寄る。
「で、いいものってなんだよ?」
「まぁまぁそう焦んなや。ほら、これ見てみぃ」
ナオは先ほど録画した映像をカッタへと見せる。シュリィの乳搾りをするその姿は、彼女に好意を寄せるカッタにとっては刺激的だった。
「なっ……」
声が詰まる程動画に見入るカッタを見て、ナオは意地の悪い笑顔で動画の再生を止めた。
「どや?この動画ええやろぉ。後でいっぱい見返したろっと」
「い……いいものってその動画かよ……じゃ、じゃあそれくれるんだろ?」
「ど~おしよっかなぁ?カッタ君はちょ~っと礼儀がなってないみたいやしぃ?その辺ちゃ~んとしてくれれば?送ってやってもえぇけどぉ?ほらぁ、まずは呼び捨てをやめてみよっかぁ」
ナオは眉をハの字にして憎たらしい笑顔で言った。
「ぐっ……!わ、わかったよ!ナオ……姉ちゃん」
「んん~?声が小さくて聞こえんかったわぁ。なんて?」
勝ち誇ったような顔でナオはわざと聞き返した。
「な、生意気言ってて悪かったよ!ナオ姉ちゃん!」
心の完全勝利を果たしたナオは気色の悪い笑顔でグフグフと笑い、空を見上げ勝利の余韻に浸った。
「バハハハハハ!」
夕暮れにナオとカッタが母屋へ戻ると、酔っ払った祖父の笑い声が響いていた。
「ったくうるせーし酒くせーなもう!」
カッタは戻るなり悪態をつきながら窓を開けた。
「イヒヒヒ、二人とも飲もぉ?」
真っ赤な顔をしたシュリィは、フラフラした足取りでグラスに注がれた酒を口に流し込みながら訊いた。
「いやまだ5分くらいしか経っとらんのになんでアンタも出来上がっとんねん!早すぎるやろ!」
シュリィはヒヒヒと笑いながらソファに横になると、酔い潰れて眠り始めた。
「いやこれ飲み会2時間後に部屋の隅におる奴やろ!なんで5分足らずでここまでなんねん!アンタだけ流れる時間が常軌を逸しとるんか?」
「バハハハ!ほれ、二人ともこっちにきて飲まんかい」
祖父は両手に酒瓶を掲げ上げながら二人を誘った。
「ほな頂きま~す」
ナオは眠るシュリィの手から空になったグラスを取り上げ、オレンジ色の酒を注いでもらう。
「俺はいいや」
そう言ってカッタは奥の部屋から掛布団を持ってくると眠るシュリィに掛けてやった。
「おっ優しいねぇ」
ナオは椅子に腰かけると、上機嫌で酒を一気飲みする。
「うおっ!なんやこの酒ぇ、めっちゃ甘くて美味いやん!これなんですぅ?」
ナオはおかわり、とグラスを祖父に突き出しながら言った。
「みかん酒だよ、うちの村の特産品だ。近所に農園があるから気になるなら行ってみたらどうだ?」
カッタが眠るシュリィの横に腰掛けながら言った。
「はぇ~、みかんかぁ。いやこれホンマ美味い。無限に飲めるわぁ……爺ちゃんもう一杯!」
2杯目も一瞬で飲み干したナオはもう一度おかわりを要求した。
「バハハハ!嬢ちゃんいい飲みっぷりじゃのう!イケる口ならこっちの酒もどうじゃ?」
そう言って取り出した酒瓶には大きな蛇が浸かっていた。ナオは驚いて口を開けたが、すぐに不敵な笑みに変わる。
「ええですよ。こういうの一度飲んでみたかってん」
生前から酒好きのナオであったが、こういった類の酒は初めてであった。
「まあ、まずはこれくらいじゃな」
そう言って祖父は一口にも満たないほどの量の酒を注いだ。
「ほな頂きます」
ナオが酒を口に含むと、脳に電撃が走ったような感覚に襲われた。
「がはあぁっ!?なんやこれぇ!?えっぐぅ!ウチ今毒飲まされました?」
ナオは喉を抑えながら用意されていた水をがぶ飲みした。
「バッハッハッハ!まだ嬢ちゃんには早かったようじゃなあ!ほれ」
祖父は自分のグラスにヘビ酒をたっぷり注ぐと一気に飲み干した。
「おお~……もしかして舌の感覚無いなってます?」
ナオは信じられないものを見たような目で呟いた。
「バーッハッハッハ!そうかもしれんのう!バーッハッハッハ!」
カッタの祖父はナオの失礼に値する発言にも笑って返した。
「ああアカン、ウチも酒回ってきたわ。ちょおカッタぁ、おんぶしてえ」
ダル絡み女ナオはソファに座るカッタにもたれかかりながら言った。
「だーなんだよ!酒くせえしめんどくせえな!」
カッタがナオを押しのけると、ナオはシュリィの上に覆いかぶさる形で倒れる。そしてするりと掛布団に潜り込んで眠り始めた。
「ず、ずりい……!そうだ、俺も酔っ払えば違和感なく……!爺ちゃん、今日は俺も飲む!」
「バッハッハ!駄目じゃ。嬢ちゃんらは放っといて、風呂に入るぞ」
カッタの浅知恵を読み取った祖父はそれを断った。
「ぐうぅ~」
カッタは悔しそうな声を上げながら祖父に抱えられて部屋を後にした。翌朝、早めに眠ったシュリィとナオの二人は日の出前に目が覚めた。牧場の二人はまだ眠っていたので、お礼の書き置きをし、シュリィの家へと帰ることにした。
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