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妖怪と魔法少女

楽しんでいただけたら幸いです。

 木漏れ日が降りそそぐ朝、ナオはエリアス国の大地に降り立った。整備された林道には近くの村への標識が立っていた。


「そうそう、最初はやっぱこういうとこやねん!あのアホ天使今回はちゃんとしとんな!ええと……とりあえず村に向かおか」


 そう呟き、標識を頼りに村への道を歩き出そうとするナオであったが、傍らの花木の茂みからひょこんと飛び出してきた動物によってそれは遮られた。


「なんやぁ?……あらぁぁウサチャンやないのぉ❤どしたのこないところでぇ❤」


 妖怪のような気色の悪い猫なで声を出しながらナオはその場に座り込み、ウサギを抱きかかえた。


 ウサギの事情など関係なく独り善がりに奇声を発しながら撫で繰り回したり頬擦りをしていると、周囲に同種のウサギがナオを取り囲むように集結していた。


「うひゃあぁ❤たまらんてこれは❤ここは天国かいな❤」


 涎を垂らしながら狂喜する妖怪、ナオの胸元に3匹のウサギが飛び乗ってきた。


「ぐえ~やられたぁ~❤」


 芸術的に寒い芝居をしながら後方に倒れこむナオを30匹ほどのウサギが取り囲み、頭を擦り付けたり、走り回ったりしていた。見ようによっては涅槃会の釈迦のような様相を呈しているが、この女は釈迦とは対極に位置する煩悩の妖怪である。


 大の字に寝転がり、しばらくウサギのモフモフを堪能するナオであったが、そこへ一人の少女が通りかかる。


「えぇ~!?ちょ、ちょっとぉ!君ぃ大丈夫ぅ?」


 少女はナオが倒れているのかと心配して声をかけた。ナオは「大丈夫やで」と返したが実際には涎を垂れ流しながら奇声を発している状態の人間を大丈夫だとは言わない。


「そっかぁ、無事ならいいけど……そうだ!ちょっと動画撮ってもい~い?」


 スマホのようなものをヒラヒラと振りながら少女はナオに訊いた。


「動画ぁ?別にええけど……この状況おもろいか?……いやこれメッチャおもろいわ!後で見してな!」


「ありがとねぇ、面白いのが撮れそうだよぉ。それじゃあポチっとね」


 少女は録画を開始したが、目の前で繰り広げられる妖怪と小動物が戯れる奇怪な光景に堪え切れず、イヒヒという笑い声も録音された。


「みんなウチの子やぁ❤ウチが全員養ってやるんやぁ❤」


「えぇ~?魔物を養うなんて聞いたことないよぉ。変なコだねぇ」


「魔物?こんなキャワイイのに魔物なわけあるかい!ねぇ~❤ちゅっちゅ❤」


「でもさっきからずっと攻撃されてるよぉ?痛くないのぉ?」


「はぁ?そんなわけ……」


 ナオはそう言いながらムクリと起き上がり、周囲に目をやる。ウサギ達はナオに頭突きをしたり、尻を向けて後ろ足で蹴り飛ばしたりしていた。


「これ攻撃なん?」


「そうだよぉ、魔ウサギは頭と足が固いからそうやって攻撃するんだよぉ、結構痛いハズなんだけど君は頑丈だねぇ」


 その言葉を聞いたナオはスッと立ち上がり、冷静に周囲、そして手に抱えた魔ウサギの様子を確認する。


 魔ウサギ達の目はギラギラとナオを睨みつけていて、手に持っていた個体は「シャー」と威嚇しながら暴れていた。


「……なんかよぉ見たら全然カワイないし、攻撃されてるって分かったらムカついてきたなぁ!?」


 そこにはナオのお花畑フィルターを通してカワイイ補正がかかったウサチャンたちの姿はなく、敵意を向けた小型の魔物の群れが存在していた。手に持った魔ウサギもナオの手を蹴り飛ばして群れの中へと戻っていく。


「今んなって体、痛なってきたわ!いや、それよりも弄ばれたウチの心のが痛なってきたわ!」


 一人で勝手に心を弄ばれる愚かな妖怪"独り善がり"、別名直江ナオの姿がそこにはあった。


「攻撃してくるってことは、攻撃されても文句言えんよなぁこんボケどもがぁ!」


 そう言いながらナオは周囲の魔ウサギ達を蹴り飛ばす。魔ウサギ達もナオの反撃に怒り、攻撃が苛烈になる。それをナオは蹴り飛ばし投げ飛ばし捌いていた。


「うらっ!かかってこいやタコハゲっ!ボケ共がぁ!」


「おほー、すごぉい!」


 少女はナオの身一つでの戦いぶりに感嘆の声を上げた。しばらくすると、魔ウサギ達は疲れたのか攻撃をやめ、森の中へと帰っていった。


「ハァ、ハァ、おととい来ぃやカスどもがぁ!」


 肩で息をするナオに少女が駆け寄る。


「いやぁ、面白いのが撮れたよぉ、ありがとねぇ。」


「ええんやで、そういや自分どちらさん?」


「そういえば挨拶がまだだったねぇ。私はシュリィ・アクアライトだよぉ。君はぁ?」


「ウチは直江ナオ、ナオちゃんや、よろしゅうな、シュリィ」


「よろしくねぇ、ナオちゃん!」


 シュリィはナオが差し出した右手を両手で握りながら上下に振った。くせっ毛ボブカットの彼女はゆったりとしたフード付きの黒のローブを身に纏い、腰に巻いたベルトには前腕の長さほどの杖が刺さっている。その姿はいかにも魔法使いであった。


「あんた見たとこ魔女っぽいけど、もしかして魔法使えるん?」


「ままま、魔女だなんてそんな大それたもんじゃないよぉ……イヒヒヒ……」


「いや笑い方はしっかり魔女」


 魔女は女魔法使いの最高ランクの称号であるとシュリィは説明した。


「私は見習いだから下級魔法しか出ないけど、見たい?」


「見たぁい、見してぇ!」


 異世界初の魔法にナオの心は踊る。アニメや映画でしか見たことのない魔法とは一体どのようなものか、期待が膨らんでいた。


「じゃあ一番得意なのやるねぇ……あっ出るよぉ、ウォーター!!」


 シュリィが杖を前方にかざしながら魔法を唱えると、杖の先から一筋の水がチョロチョロと流れ始め、地面へと滴り落ちた。これから凄くなるのだろうと期待してしばらく水の流れ出る様を見ていたナオであったが、どうやらこれ以上出力が上がらないらしいと察してしまった。


「いやジジイのションベンか!勢い無さすぎるやろ!」


「ヒヒヒ、もぉ、変な例えだねぇ。確かにほかの子と比べてあんまり出ないけどぉ……そうだ、次は火の魔法やるからね!」


「おお、ええやん、見してぇ」


「見ててねぇ、出るかもぉ、あっ出る!ファイア!」


 そう唱えると杖の先にマッチ程の火が灯り、前方へと放たれたかと思うと数センチで失速し地に落ちて消えた。


「どう?」


 ドヤ顔でナオの顔を見るシュリィであったが、ナオは期待外れといった表情をしていた。


「いぃやジジイの吐いた痰か!何がどう?やねんなんでその威力でドヤ顔できんねん!ジジイの吐いた痰みたいな軌道やんけ!威力も勢いも老人のそれや!ほんで魔法打つとき『出る!』ってなんやねん!なんで受動態やねん!『打つ』とか『放つ』のがしっくりくるやろ!ちょ、ウチに貸してみぃ!ウチのが上手くやれる自信あるわ!」


 そう言うとナオはシュリィから杖をひったくり、前方に向けて杖を振りながら呪文を唱えた。


「いくでぇ、見ときや!燃やし尽くせ!ファイア!」


 辺りが静寂に包まれる。二人の耳には風が木々を揺らす音がやけに大きく聞こえた。暫くしてナオは静寂に耐えられず、「ウォーター!」と呪文を唱えるが、やはり何も起きることはなかった。


「どう?出そう?」


 シュリィはにやつきながらナオの表情をうかがう。


「……まぁこういうこともあるわな」


 ナオは己の言動を振り返り、顔を赤らめ、恥ずかしさと悔しさが混ざったような顔をしながら杖を返した。


「今の全然魔法出ないナオちゃんも撮っちゃったぁ、後で見せてあげるねぇ」


「ちょお、勘弁してやぁ」


 シュリィはイヒヒと笑いながら動画を見返していた。


ご精読ありがとうございました!面白いと感じていただけたら評価やブクマなどしていただけると励みになります!続きます!

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