3話 雑貨屋の語り
クソ遅投稿頻度、我ながら笑っちゃうね
17年前、俺たちはコルラ山周辺の森で暮らしていた。何にも縛られず、人間や他の種族に迷惑をかけずに。
当時から人間や森の民は争いを続けていた。異世界人やら、ラスタ教の噂はこっちにも届いていたよ。
あの年はひどい大雨が続いた。川が氾濫し、土砂崩れがおこった。他の地方でも酷かったらしい。
そんな時におまえが見つかった。そう、おまえはマヴ氏族の誰の子でも無い。誰も言わなかったのはおまえの見た目が今とは違っていたのに関係している。
昔のおまえは見た目が俺たちと違っていた。魔族特有の黒い肌ではなく白い肌に三眼、角までついていた。眼は赤かったけどな。
今まで見てきた、いや、伝え聞いてきたどの種族とも異なる見た目をしたおまえを族長は養子に迎え入れると言った。当然反対意見の嵐だったさ。だが族長は頑として譲らなかった。
「この子には何かを感じる。我らの久しく忘れていた感覚だ。我らはこの子を守らねばならぬ」
とか言っていたかな。わけがわからんという意見が大多数だったよ。しかし族長はこう続けた。
「我ら魔族に伝わる神話がある。私は先祖が残した碑文を偶然目にしたが、この子のような見た目の人物が書かれていた。まだ魔族が一つだった頃、我らは神と共に居たのだとそこには書かれてあった。これは迫害され、散り散りになった我らの他種族への交渉の鍵となるやもしれぬ」
そして族長はおまえが村にきた日から数えておまえの年齢を定めるとした。驚いたか?そうだろうな。大人たちはこのことは固く口止めされていたし、子供たちはそもそも知らなかった。
おまえが3歳の頃、おまえの姿が変わった。驚いたことに、おまえの見た目は魔族そっくりになったんだ。村の民は神とやらのことは半信半疑だったが、これでおまえが普通では無いことはわかった。
それから俺たちは、族長の指示によりおまえを他の子供と同じように接するようにした。おまえも村の子供たちと良く遊んでいたよな。
そして10年前、おまえが7歳の頃、ああ、そうだ。俺もあの日を思い出すのは辛い。
村が焼かれた後、俺はおまえにボロ切れを被せてここへ来た。「変装」の異能持ちの俺が生き残ったのは運が良かった。いや、それもおまえの異能の力だったのかな。
なぜ急に襲撃されたかはわからん。だが、それ以来ラスタ教により魔族は今までになく迫害されている。
どうして今この話をしたかって?それはなクルサネ、族長のおまえに対する考えが間違っていたんじゃないかと俺は思っているからだ。
族長はおまえに何かを感じると言っていたが、俺は何も感じなかった。おまえは特別ではあったが、族長のいうその「主」とやらはおまえでは無い「何か」か、長い年月をかけ歪められてしまった歴史なのだろう。
ここまで話して店主は一息ついた。
クルサネは混乱していた。自分が村の誰の子でも無いということが今まで伏せられていたことに驚いたし、もちろん族長の考えも知らなかった。
「だからな、クルサネ」
店主は言った。
「旅に出ろ」
「へ?」
固まるクルサネに店主はさらに話す。
「俺たちがなぜ襲撃されたかわからない以上、コルラ山の近くであるここに留まっているのはまずいだろう。種族の交流が俺たちの隠れ蓑となってくれていたが、最近どうもきな臭い。俺のところにもみるからに暴力沙汰が得意そうな奴が来たよ。軽くあしらったがな」
「……!なら親父も一緒に──」
焦るクルサネに向かって店主は寂しそうに微笑んだ。
「──行けたら良かったんだけどな。俺の状態はおまえも良く知ってるだろう」
クルサネは俯いた。視線の先、カウンターの向こうには店主の焼け爛れた足がある。異能で誤魔化してはいるが、長旅は出来ないだろう。
「……親父だってここに留まるのはあぶないだろ。俺には昔と違って薬草の知識があるから、それを使えば旅くらい」
「出来ないさ。薬草だって全能じゃない。そんなことができるのはラスタの奇跡くらいさ」
顔を上げたクルサネに店主は優しく諭し、片目を瞑って見せた。
「……俺のことは心配するなよ。この見た目で襲われることはなかなかないだろうさ」
力こぶをつくる店主に、クルサネは店主が変装する前の姿、つまり痩せた小さな老人の姿を幻視し、ため息をついた。
「何を言っても、一緒に来てくれないんだな?」
「前途ある若者の旅路を邪魔したくはないからな」
お互いに危険な未来が待っているだろう。だからこそ。これが今生の別れとなろうとも。
「クルサネ、行ってこい。世話になった人に挨拶するくらいの時間はあるだろう。」
別れの言葉は最低限に。少数故に昔から差別の対象だった魔族の慣わしの一つだ。
異能:「変装」
身体の特徴を大きく逸脱しない限り、あらゆるものに変身できる。
変身元は特に必要ない。
類似異能:「変化」、「模倣」