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矮星の冒険者 ~We live in each world~  作者: かきれんと
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1話 黄昏の矮星

「なあ、『矮星』って知ってるか?」


 商業都市ツィクル。

 人間族の国ノルデアの北側に位置する地方都市である。大地の中心に位置し、ありとあらゆる種族が交流している。もちろん仲の悪い種族同時が出会うこともあるが、不戦の(ルール)により諍いは抑えられていた。

 そのツィクルの冒険者ギルドで、テーブルを囲む男達。

 その一人が発した言葉である。

「『矮星』?知らないな」

 別の男が声を発する。他の男達も同じだったようで、最初の男の方に視線を向ける。

「なんでも、採取のスペシャリストらしい。依頼すりゃどんな植物も持ってこれるだけじゃなく、魔物の解体を任せりゃ良い素材がバンバン取れる。そんでもって誰にも素顔を見せないんだとよ」

「そりゃ凄いな」

 男の一人が呟く。彼らも下積み時代に採取や解体をやらされたことはあるが、それを極めようという気にはなれなかった。その手の技能が向上する異能を持っているかも知れないが、素晴らしい成果をあげているだろう。男達はそう思った。

「そいつの星はいくつだ?」

「一つらしい。増やすことも出来るが、本人がやりたがらねえんだと。危険な仕事を受けたくないんだって噂だ。んで呼び名が『矮星』」

 男達の顔に納得と同情が浮かぶ。この世界は強い者が生き残る。生き残るだけでなく富や名声も手にすることが出来るだろう。有名でもなく、ゆっくりと死に向かうその人物はなるほど、彼らから見ればまさしく矮星の様だった。

「で、そいつがどうしたって?」

 ほとんど無名の人物が、それほど他人に話したくなるものだろうか。奥様方の井戸端会議じゃあるまいし。怪訝な視線を向けられ、男はさらに話した。

「まあ、今の話は噂でしかない。ただの採取上手だと俺も思うさ。だが素顔を見せないのと星を増やさないてのがどうにも引っかかる。何か裏があるんじゃないかってな。」

「勿体ぶるな。結局何が言いたいんだ?」

 最初の男は身を乗り出す。つられて男達も男の方に顔を寄せる。

「──奴は魔族かもしれないってことさ」

 瞬間、男達の顔に緊張が走る。


 魔族。


 異能持ちの出生率が高いとされる亜人種である。

 元々の膂力が高い為に、異能の「代償」の影響が小さいとされる。

 1人でもかなりの戦力であるため十年程前に現ノルデア国王アリグに危険視され、冒険者と兵士たちの大規模殲滅作戦によって滅んだと言われる。

 この男は「矮星」がその魔族の生き残りであるというのだ。

「滅多なことを言うな。それにもし魔族だとしても一人じゃ何もできないさ」

「奴らは危険だ。王の判断は間違っちゃいねえ。ほら。」

 最初の男は左袖を捲る。そこにあるはずの腕はなかった。

「不意を突いてもこのザマさ。ラスタ様の導きがなきゃ死んでたかもしれねえ」

「神託ねえ」

 ラスタ教。

 唯一神ラスタが世界を創り、今も世界の繁栄を願って見守り続けているというノルデア王国の国教である。

 王国の地下に祭壇があり、ラスタ教大司教はそこで神託を受けるらしい。また、ラスタの為に死戦を潜り抜いたものには「祝福」が与えてられるそうだ。

 実際神託は何度か聞いているし、後天的に異能が発現した者もいるので、王国の中にラスタを信じるものは多い。

「あんたの腕、魔族にやられたのか」

「そうさ」

「じゃああんたはラスタ様の為に戦ったんだろ?どんな祝福をもらったんだ?」

「良く聞いてくれた!俺がもらった『祝福』はだな...」

 男は嬉々として話そうとするが、素早く入口の方を向いた。


「待て」


 男が指差した方を見ると、ある人物がギルドの扉を開けて入って来たところだった。

 全身を灰色マントで覆い、同色のフードを被っている。

 更に手袋をつけていて、身元を晒したくないのがひしひしと伝わってくる。

 マントからわかる輪郭とフードから飛び出した髪から髪色が黒である事がわかるが、それ以外の情報を見せない。それ故に目立つ。そんな人物だった。

 勿論冒険者という職業は身元を隠したい者も大勢いるので、その人物が特異というわけでもない。しかし、男達の脳裏には、先程話題にした「矮星」が浮かぶのだった。

 フードの人物は、扉を閉めてから真っ直ぐ進み、受付にあるカウンターに向かう。

「本日はどのようなご用件でしょう?......あら、ク──」

 受付嬢がフードの人物を認め、名前を呼ぼうとしたとき、その人物はフードに手を突っ込んだ。どうやら口元に手を当てているようである。

「──依頼達成の報告ですか?」

 受付嬢は一瞬で話題を変える。彼は時々よく分からない行動をするので、かなり慣れている。

 フードの人物は無言で、丁寧に保存処理された薬草をカウンターに置いた。

「ありがとうございます。いつも通り依頼主の元にご自分で行かれますか?」

 フードの人物は軽く頷く。

「お疲れ様でした。700バベルのお支払いになります...またのご利用をお待ちしております。」

 何故かカウンターに小銭を置き、受付嬢がお辞儀をすると同時にフードの人物は反転する。足早に、しかしマントをはためかさず扉の元に辿り着き、来たときと同じように去った。

 少しの間男達は扉の方を見ていたが、突然最初の男が立ち上がり、無言で扉の外へ出ていった。

 挨拶もなしに出ていった男に男達は何か思うところがあったかもしれないが、少しすると残されたメンバーで話し始めた。

 自分達もフードの人物のように、稼がねばならぬのだ。




 男はギルドを出て、フードの人物を探し始めた。

 時刻は昼過ぎ、陽が落ちるまでまだ時間はある。大通りが暗くなる気配を感じないのは僥倖だった。

 フードの人物はすぐ見つかった。見つかればこっちのものである。男は主から授かった「祝福」を発動し、フードの人物を追跡する。

 何度か曲がり角を曲がり、路地裏に出た。流石にもう見失うことは無い。フードの人物は立ち止まると、こちらを向いた。観念したのだろうか。

「何の用だ?何故俺に付き纏う?」

 フードの人物、いやフードの男は質問した。男は答えず、質問で返した。

「お前、魔族だろう?」

「……何故わかる?」

「祝福の力だ」

 男はニヤリと口を歪め、抜刀した。

「こんな路地裏まで逃げてくれてありがとうな。この街では殺人は『一応』禁じられているが...」

 男は剣を構える。フードの人物からは少し離れた位置。だが、男の膂力なら一瞬で距離を詰められる。相手に戦闘で勝てることを「祝福」で見抜きながら、男は言い放つ。

「魔族よ、世界のために死ね。」


「一つ聴いて良いか?」

「……何だ?」

 フードの男は質問する。こいつは自分の置かれた状況が分かっているのだろうか。男はそう思うが「祝福」に裏打ちされた絶対的な自信から、質問なら答える方にした。

「その祝福で、俺の名前は見えているのか?」

「いや、俺は魔族を滅ぼすだけだ。お前が魔族ならお前が何者だろうと関係ない」


 フードの男はそれを聞くと、ものすごい速度で駆け出した。行き止まりだと思っていた箇所はよく見ると細い道が続いており、大通りへと繋がっている。男はフードの男を追って駆け出す。が、フードの男との距離が中々縮まらない。何度も足がもつれそうになる。左腕を失ったからだろうか。しかし俺は、十年、十年この生活を続けて来た。そして今、目の前にいるあいつは、俺の、世界の敵だ。


 逃してなるものか。


 突然、男は何もないところで足を滑らせた。剣を右手に持っていたので、顔面を地面にしたたかに打ち付ける。痛みを堪えながら何とか起き上がると、フードの男は大通りの群衆の隙を走り抜けたところだった。


「待──」


 その時、目の前に群衆が流れ込み、フードの男は完全に見えなくなった。男の「祝福」は視界に入っていないものを捉えることはできない。狂信者は路地裏で一人呆然していた。


ちょい補足。

 狂信者の足がもつれたり、最後にこけて見失ったりしたのはフードの男(すっとぼけ)の異能です。

 細い道を見落としてたのは狂信者の土地勘がないだけです。

 狂信者の祝福は、「視認した相手の種族と自分が戦闘して勝てるかどうかがわかる」というものです。

 眼を閉じると解除されます。

 この情報は相手から少し離れた位置に表示されるので、大体の位置が狂信者にはわかってました。

 さらにこの祝福の発動は、自動ではなく任意です。

 最後の方で狂信者は顔面を打ち付け、その拍子に目を瞑ってしまい、祝福を起動する前にフード君が見えなくなっちゃった訳です。

 ちなみにフード君の頭の中を覗くと、

(よし、薬屋のおばさんに薬草を届けにいこう。......なんか尾けられてるな。あの人ギルドにいた時もこっち見てたけど話しかけてこなかったし、人目があると話しづらいことがあるのかな?)

 って感じです。かなり平和的(皮肉)ですね。

 後なんでフード君がカウンターに小銭を置いたのかですが、割と分かりやすいしここに書くようなことでもないので活動報告の方に書いときます。

 今後も物語で明らかにならなかったわりと重要っぽい説明はここ、小ネタ的なのは活動報告に書くと思います。

 長くなっちゃいましたが、最後に。

 作者は小説を書くのはほぼ初めてです。至らぬ点あるかと思いますが、大目に見てください。

 意見、評価は精神が壊れてない程度にして頂くと助かります。作者も精神が壊れない程度に見ます。

 次回をお楽しみください。

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