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大唐西域記演義  作者: 河谷守
9/23

九 玄奘三蔵、宗論す

さて、屈支(クチャ)国に至り一行の行く手を阻んだのは他でもない、自然であった。

天山回廊の峠にあたるべダル峠に至る道が雪に閉ざされてしまった。数十日は足止めである。

地域の人々に徳の高い僧を訪ねると、モークシャグプタという高僧を紹介された。

キラキラと喜び勇む玄奘の顔は少年のようである。ここまで触れてないが玄奘、女装をすれば男どもが大概振り向くであろうレベルの美形。僧でなければ婚活女性が門前列を成すであろう。基本的に女っ気の少ないこの物語ではあんまり関係ないのでここで触れるのみで以後触れないと思う。たぶん。


閑話休題


「三蔵様、随分と嬉しそうですね」

八戒が珍しいものを見る目で問う。

「嬉しいか?嬉しくないわけがない!仏教だ!仏教の先達に会えるのだぞ?私の知らないことを色々知っているかもしれん。すぐにでも出向いて話を伺おう」

聞くとグプタ師、天竺にて学び20年以上。その学業はさまざまな経典に通じ、「声明」に最も明るいとされ国人から崇拝厚い人物である。

ただ、寺に着くと特に出迎えもなくひっそりとしている。

「三蔵様、ひょっとして歓迎されてないのでは?」

「王城ではえらい騒ぎだったので、そちらに人手を取られたかも知れませんね。まずはご挨拶をいたしましょう」

挨拶に赴くと、師は高座に座し、玄奘に下座に着けと指示してきた。

「おや、舐められてますね。私」

アレ ナンカ クチョウ チガイマセンカ

「三蔵様?」

「あ、いえいえ、我ら旅の途上の宿借坊主ですから、当然ではないですか」

何か一瞬黒いオーラ見えませんでしたか?

下座に着くと突然上座から説法が始まった。

「わしゃ「雑心」「倶舎」「毘婆沙」などの経典を天竺から持ち帰っとるんじゃ、ここで全部学べるんじゃからわざわざ危ない目を見て西に赴くこともなかろうて」

「おお、ここで全てを学べるとは有り難い。早速「瑜伽論」(ヨガとか載ってるやつ)についてご意見を伺いたいのですが」

「ありゃ邪法じや、仏の道を学ぶのにあんなもん学ぶ僧など居らぬわ」

「瑜伽は弥勒菩薩の教えとお伺いしておりますが無駄ですか。ただ、唐にも既に婆沙や倶舎はあります。ただ、どうにも足りない部分を感じるので原典を見直したいと考えているのです」

「そりゃお主が婆沙を理解しとらんからじゃ」

「師は婆沙をご存知でいらっしゃる」

「もちろん。隅々まで理解しておるぞ」

ふんぞり帰る頭が床につきそうだな。と、悟空が鼻を穿りながら思うと玄奘が攻勢に出た。

倶舎の冒頭から矢継ぎ早に疑問を浴びせ、師は間違いだらけでしどろもどろに。さらに追求すると血管の心配したくなるほど紫色になった顔で

「ほ、他の経典はどうじゃ?」

あ、逃げた。八戒が外を走るウサギを目で追いかけながら考えると、玄奘は論の語句について質問をしたが、遂には

「そんな句無いわ!」

と大声を張り上げたところで、師は周囲の目に気がついた。

弟子の一人が首を横に張る。

「師よ、その句は論にございますよ」


「やはり原典を見るしかラチはあきませんな」

宿に向かう道すがら、八戒が苦笑する。どうでも良いが腹が出てるからな。

「俺ゃ最初から何も分からんかった」

悟空が言ってから後悔したが、やはり遅かった。

「おい貴様、今何と言った?」

ダレデスカ コノクロイヒト

雪解けまで60日間、みっちりと唐代最高の仏教を叩き込まれた。後に悟空曰く、最初の殺人アッパー以上に効いたらしい。

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