二十二 玄奘一行、康国に至りしばし旅の疲れを癒す
金角・銀角の試練を難なく乗り越えた玄奘三蔵一行。
唐から西に向けてのひとまずの到達点、康国に到着した。
康国、今でいうサマルカンドは古くは紀元前5世紀ごろより栄えてきたザラフシャン川南岸の都市である。
紀元前4世紀ごろにはアレクサンドロス大王の遠征も受けている。
シルクロード上の東西を結ぶ要衝であり、東西文化の入り乱れる豊かな文化を持つ地であった。
中東の色合いをよく受け継いではいるが、玄奘らが訪れた6世紀ごろは胡人による支配を受けており
より自由度の高い文化が花開いていたものと思われる。
現代では青の都としてブルーのタイルをふんだんにあしらった建造物などが有名だが、それらは15世紀ごろに栄えたティムール朝の影響によるものであり、まだこの時代は大きなオアシス都市のひとつという位置づけであった。
「いやあ、なかなかどうして、砂漠を越えてこんな大きなオアシスがあるもんですね」
悟空が周りを見回しながら楽しそうにいう。
「むしろ隋・唐や胡人の影響よりも西方の影響が強そうです」
「確かに突厥の都という割には、何やら西方の人々もよく見かけますな」
「東西通商の要ですからね。この辺りを通って西から唐に持ち込まれる文物も多いと及び聞きます」
「三蔵様、あそこで色っぽい美女が手を振ってますよ。ちょっと遊んで・・・・」
お前『八戒』の意味覚えてる?てかこの浮気者!(七話参照)
普通の人間にすぎぬ玄奘に首根っこをひっつかまれてぷらぷらしている巨漢というのは非常に滑稽ではあるが、力の差というのは体の大きさでは決まらない。
「ひとまず落ち着ける国に到着はしましたので、しばしこちらに逗留して旅の疲れを癒すと致しましょうか」
「三蔵様もしっかり休んでくださいね。まだここから南方にかなりの旅が残っています」
「そうですね。ここから梵衍、迦湿弥羅を目指し、その後いよいよ天竺入りです」
「まずは腹ごしらえ腹ごしらえ♪」
本気でこの豚は「八戒を破る」という意味で八戒名乗ってんじゃなかろうか。
玄奘はそのユルさに若干救われる思いもある。
「では、まずはお店探しですね。八戒が既に臭いで何かかぎつけたようですが、どうですか?」
「あちらから香り高いスープの臭いが漂ってきます」
「こういうことには実に有能ですな」
悟浄が苦笑する。
四人の旅が始まってから魑魅魍魎や妖怪などと遭遇する事も多かったので、ある意味初めての緩やかな滞在となりそうだ。
「ちょっと先に行って席とってきますよ」
「こういう時だけは俺より早いんだよな」
既に八戒は先の角を曲がっている。豚足の遁走。
滞在する間、特に何事も起こるわけでもなく、一行にとっては有意義な休息となった。
その間、悟空は先行きの調査、悟浄は旅人への聞き取り、八戒は食料の調達と、それぞれが旅の準備を進めてくれたので、玄奘は寺院をめぐって僧らとの意見交換を楽しむことができた。




