二十一 孫悟空、銀角大王・金角大王を翻弄する
さて、金角大王が語ったところによると、悟空はどのようにしてか山の押さえを振りほどいて筋斗雲で屋敷に乱入。
宝具を散らかしながら大声で「おーい!銀角大王よぅ!」
と呼ばわった。
「げ、孫悟空、どうやって抜け出しやがった?!」
そう応えた銀角大王が、羊脂玉浄瓶という法具に吸い込まれた。
「節操ねぇなあ!これでだめなのかあぁぁあー!」
金角大王は咄嗟に紫金紅葫蘆を手に取り悟空に呼びかける。
「孫悟空よ!よくぞ山を振り切ってここへ来たな!」
無視。
「おーい。この中に吸い込まれた者は体が溶けて酒になってしまうのだ。お前の仲間も今頃はとっくに酒になっているだろうな。わはははは!」
無視。
ちっくしょう、こいつ分かってやがるな。
ん?
と、金角大王は手にした瓢箪に違和感を覚える。
たっぷり入っていたはずの酒の音がしない。
首を捻って中を覗き込んだその刹那
「金角よ、中身を全部飲まれちまったのか?」
と、タイミングよく悟空が声をかけた。
「何だと?あんな量の酒が飲めるわけないだろう!って、嘘だろ?これでもダメなのかあぁあぁぁ〜!!」
すぽん。見事に瓢箪に金角大王は吸い込まれてしまった。
という事の顛末を聞いて今に至る。
「アホだな」
「沙和尚よ、正鵠な分析は相手を怒らせますよ」
「まあどうでも良いや。うぃっぷ」
こいつら・・・
金角大王は諦めてそこに腰を下ろした。もう好きにして。
「話もまとまったみたいですし、そろそろ外に出ましょうか」
誰?と皆が振り返ると、そこに悟空がいる。
「げ、孫悟空。貴様どこから入りやがった?!」
「あそこ」
上の口の部分を指差す。
「どどどどどどうやって?!」
「俺、小さくなれるもん。で、筋斗雲で飛び込んでみた」
つくづく規格外だなあんたら。
「と言うか、今の会話のどこがまとまったのだと?」
「じゃ、三蔵様は俺に掴まってください。猪八戒と沙悟浄は雲に乗れるだろ?」
すい〜
「人の話を聞け!それからあっさり脱出してんじゃねぇえ〜!!」
悲痛な金角大王の叫び声が瓢箪の中にこだまする。
「さて、この宝具なんですがね、確か太上老君のものですよ」
「道教の神様ですね。孫行者はそんな方とお知り合いなのですか?」
「顔だけは広いんです。他の宝具とまとめて、崑崙山に返しに行ってきますよ」
「ふごふが、ぐがー」
八戒が寝てしまったので、宝具を纏めて崑崙山に向かった悟空を待ちながら、一行はここにキャンプを張ることとした。
「しかし、猪八戒の胃袋はやはり規格外ですな」
「元々神界の住人のようですからね。沙和尚もそうなんでしょう?」
「拙僧はあんな食欲魔獣ではありませんよ?」
良識ある妖怪ってのも何だかな。とは思う。いや待て、良識あるなら何で初見で玄奘に襲いかかった?
一方、悟空は筋斗雲でひとっ飛び、たちまち崑崙山に辿り着いた。
「おやじどーん、おやじどーん!」
呼びかけると、奥からカラスの嘴を持った不思議な風貌の老人が現れた。太上老君である。
「その呼び方をするのはサル君じゃな。いかがいたした?」
「この宝具、おやじどんのじゃありませんか?」
金角、銀角を取り込んだ宝具と、その他いくつかの宝具を太上老君に差し出す。
「おやおや、見かけないと思ったら出かけておったか」
ふぉっふぉっふぉっ。
「呑気だなぁ。宝具は結構厄介なんですから、きちんと守っててくださいよ」
「そうじゃのう、きちんとしまっておかねばならんのう」
「じゃ、仲間が待ってますんで俺は帰ります」
「うむ、ありがとう。道中気をつけるんじゃぞ」
「また来ますね。おやじどんもどうか元気で!」
悟空が飛び去ると、太上老君は宝具を逆さにしてふた振り。
すると、中から太上老君に仕える童子が二人転がり出てきた。
「どうじゃ、お前たち。玄奘殿は立派に勤めを果たせそうであろう?」
「はい、もはや規格外の御仁のようで、共にすら我らでは手も足も出ませなんだ」
「そうか、試練にもならなんだか。良い良い。お主らには良い経験じゃったろう」
どうやら、金角・銀角は太上老君が玄奘一行に遣わした試練だったようである。




