二十 玄奘三蔵、猪八戒の胃の中を知りて大海を思う
さて、少し時を遡る。紫金紅葫蘆という瓢箪に囚われた三人はどうなったかというと・・・
「おや、猪八戒、特に何ともないようですね」
「うぃ?あんれ?三蔵様まで捕まっちまったんですかい?」
瓢箪の中は広い空洞で、その底にのんびり構えた豚がちょこんと座っている。
「何やら、ここに吸い込まれると溶かされて酒になってしまうとか金角大王が自慢していましたが」
「特に酒など見当たりませんな」
「んあ?ここにあった水なら美味そうだったんで飲んじゃいましたよ?」
「八戒?」
「あい?」
「八戒の意味?覚えていますか?」
「や、やだなあ三蔵様、満面の笑顔で目だけ笑ってないって、とても怖いんですよ?」
「五つ目に禁酒もあったはずですが?」
若干酔いも覚めてきた。
「ち、ちちち・・・力水です。そう、私は力水を飲んだのですよ。あはは、あは。あはは・・・」
まあそれは良いとして
「沙和尚、この珍妙な瓢箪について何か知っていたりしますか?」
「特に何かを知っているわけではありませんが、金角大王の言葉をそのまま信じるなら、あまり長居だけはしたくないですね。飲むならともかく酒にされるのは御免被ります」
「取り敢えずその辺ぶん殴ってみましょうか」
なぜこの脳筋坊主はそんなにぶん殴るのがお好きなのでしょうか?
「孫行者がまだ外にいますので、少し待ってみましょうか」
「しばらく観察してみましょうか」
「入り口はどうやら上の穴一点だけのようですね。構造としては瓢箪の徳利そのもののようです」
「うぃっぷ」
「名を呼ばれて反応すると吸い込まれるようですね」
「しかし、入ってからどうすると酒にされてしまうのかが分かりませんね」
「うぃっぷ」
「そのタネもひょっとして猪八戒の中ですか」
「まあ、恐らく」
「うぃっぷ」
うるせえなあ。
「むしろこっちぶん殴って」
「全部出ちゃいますよう」
「というか、平気なんですか八戒は?」
「良い気分ですよ?」
「酒はどれぐらいあったんですか?」
「大体あの辺までですね」
瓢箪の中程を指す。
「八戒の胃袋はどうなってるんですか」
「身体より多い量のものをどうやって入れてるんでしょうね?」
「八戒の腹はまるで海のような広さを内包しているということなのでしょうか」
「酷いや、人を化け物のように言うなんて」
「豚だし」
「化け物だし」
「うわぁーん!」
と、そこへ誰かがまた吸い込まれ飛び込んできた。
金角大王だった。
「おや、金角大王も酒になりに来たのですか?」
「んな訳あるか!って、さ、酒が無い!」
「私が飲みました」
絵に描いたように絶望し崩れ落ちる金角大王。
「な、なんという規格外・・・」
「わーい、褒められた」
「良かったですねぇ」
「呆れてんですよ」
沙悟浄がツッコむ。
「金角大王でしたな、ここに来たのは我らと一戦交えるおつもりか?」
「もうわし耐えられん。降参します。吸い込まれたし」
「あとはどうやってここを出るか、ですね」
「出られんよ。皆酒になるだけだもん」
いじけた金角大王は事の次第を語り始めた。




