十九 孫悟空、山の神を呼び危地を脱する
さて、一方の孫悟空は、未だ三山に抑え込まれたままであった。
「厄介だな、何で山が動くんだよ」
さしずめマウントを取られた状態とでもいうべきか。
「誰が上手いこと言えと」
冗談はともかく、身動き一つ取れない。
「どうしたもんかね、と」
悟空は周囲を見渡すが、誰一人として見当たらない。
元々はシルクロードのオアシスを結び、唐から西へ向けて伸びる街道ではあるが、雪解けして間も無く、商隊などもまだあまり通らない時期でもある。
更には山を動かした挙句に無理やり通行料を取るなんて妖怪が住まうとなれば、一体誰がこんな山を通りたがるだろうか?
こんな時期にこんな所を好き好んで通るのは、とにかく喧嘩を買いたくてしょうがないどこぞの名僧ぐらいのものである。
「しまったなぁ、いっそ三蔵様に吹っ飛ばして貰えばよかったのか」
悟空がぼやくと、ふと山がざわつく気配を感じた。
「ん?」
気のせいか?
「このまま埋まったままだと、きっと三蔵様、一人で勝手に相手を倒して、ついでに山を打ち崩して俺を助けちゃうんだろうなぁ」
ぞわぞわぞわ
いや、気のせいじゃ無い。確かに悟空を封じている山がざわついている。
「おお、山の神よ、どうかこの私を解き放っておくれ。このままではきっとこの三山も三蔵様の餌食になってしまうに違いない」
「うわー、餌食って何ですかー!」
引っかかったな山の神。
「な、何だお前らは!」
「我が名は須弥山」
「峨眉山」
「泰山」
あっさり出てきちまった上に自分から名乗るとは情けない。まあ、魔王にこき使われる神など、この程度か。
「ぬぅ、お主らこの山の神たちであるのか」
「そうじゃ。して妖仙よ、先程の話は本当か?」
「何のことだ?」
とぼけて見せる。
「お主言うておったではないか。山を砕いて助け出すとか」
「そうじゃの。我が主は剛力無双、天下の大天才にして邪魔する奴は指先一つで木っ端微塵の三蔵法師様じゃからの」
玄奘が聞いたら悟空が木っ端微塵にされるぞ。
「我々は砕かれてしまうのか?」
「さてな。少なくとも俺は五行山の大岩の下から、三蔵様に救い出されたことに間違いはない。むしろ山の仲間であらば風の便りに聞いておろうが」
しめしめ、うまく食いついてきたぞ。もうひと押ししたらどうだ?
「山の神というのは、山がすっかりなくなっても存在できるものなのか?」
地がガタガタと震え始めた。チョロいなコイツら。
「解放します。解放します。流石に粉々にされて消されては困ります」
悟空を封じた時の逆の動きで三山が身を引いた。
無事に山から解放された悟空。
筋斗雲を呼び屋敷の奥に飛び込んでゆく。
はてさて、瓢箪に飲み込まれた三人は未だ無事でいられるのか。




