十八 金角大王、銀角大王、一行の前に立ち塞がる
素葉を出て白水を越え、玄奘一行は平頂山という山に辿り着いた。
「ここからさらに西に向かえば、じきに康国です」
八戒を先頭に一行は進む。
「猪八戒、妙な気配がありますね」
山の陰から唯ならぬ妖気を感じる。玄奘の言葉を受け、八戒は「ちと先行して見て参ります」と駆けて行った。
「孫行者よ、どう思いますか?」
「八戒でも手こずりそうな気配ですね。俺も行ったほうが?」
「沙和尚はどう思いますか?」
「ここは下手に分かれて行動するより、まとまって行動すべきではないかと考えますが」
真面目だねぇ。
とはいえ、兵力分散は各個撃破の危険があるのも確かなので、一行はまとまって八戒を追うことにした。
三人が山頂にたどり着くと、巨大な門を構えた屋敷が聳え立っていた。
「八戒は・・・いませんね」
「三蔵様、中から只ならぬ妖気が漂ってくるのを感じます」
「恐らく、この中にいると見て間違い無いでしょう」
門を開けようと玄奘が手を伸ばしたところで不意に手を止める。猛烈な妖気を感じたためだ。
「何奴!そこにいるのは分かっている」
悟空が如意棒を構える。
悟浄は玄奘を守るように身構える。
怪しげな雲に乗って現れたのは煌びやかな衣装を身に纏った大男であった。
「吾輩は銀角大王。貴様ら先ほどの豚野郎の仲間か?この山を治める金角、銀角の兄弟大王に挨拶もせず罷り通ろうとは思っておるまいな?」
「思ってます」
「何の義理があって?」
「趣味ではありませんな」
ムキー!
「豚の命惜しければ路銀を置いてゆけ!命ぐらいは残してやるぞ」
「八戒はどの男がそう易々とあなた方の手に落ちるとも思ませんが、何ら策を施したのでしょう?」
「さて、どうだかな。須弥山、峨眉山、泰山!こやつらを封じてしまえ!」
銀角が大音声を張り上げると、何と三つの山が動き出した。
いつもなら余裕で避けそうな悟空であったが、簡単に囚われてしまった。
「おや、孫行者。ずいぶんあっさりと捕まってしまいましたね」
「あっれ?何でだろ?おかしいな」
「孫行者、ひょっとしてお主、山が苦手?」
そういえば500年も山のような大岩に封じ込まれていたな。
「どうやらそのようで。お二人は八戒を助けに行ってください。俺は自力で何とかします!」
「沙和尚、参りましょう」
「はっ!」
風のように走り去る二人。
「孫行者は置いてきて構わなかったので?」
「まあ、彼なら何とかするでしょう。それよりもあの八戒がここまで静かなのも気になります。先ずは八戒を探しましょう」
「かしこまりました」
屋敷の一番奥に、大きな広間があり、そこに先ほどの大男と似た人物が待ち構えていた。
「貴公が三蔵法師か!」
「おうよ!」
玄奘が応えると、急に体が浮かび上がった。
「何?三蔵さま!一体何が?」
答える間も無く、男の手にある瓢箪に玄奘は吸い込まれてしまった。
「驚いたか!これは紫金紅葫蘆といってな、太上老君の五つの法宝で、名を呼ばれ応えると相手を吸い込んでしまう瓢箪よ。中に入った者はとろけて酒になってしまう。さて、三蔵法師の酒はどんな味かの?」
「貴様、拙僧がまだいるにも関わらず、そんなタネをバラしてしまったら引っかかるわけなかろう?」
悟浄が呆れて肩をすくめる。
「では、かかってくるが良い!沙悟浄!」
「おう!・・・」
ひゅー
「これも応えたことになるのかー!」
すぽん
悟空は山に囚われて、玄奘、八戒、悟浄も酒の素に。
一行最大の試練。果たして彼らの運命はいかに!




