十三 玉龍
沙悟浄を加え4人となった天竺への取経の旅。
ふと八戒が現状に問う。
「時に三蔵様、お乗りになられているその白馬についてなのですが」
「まだ話していませんでしたね、彼もまた、只者ではありませんよ」
白馬の首を優しくさすりながら、玄奘は笑う。
「孫行者も沙和尚も既に気付いているとは思うので、ここではっきり伝えておきますが、この見事な白馬「玉龍」は竜王の子が変化しています」
「なーんだ、道理でって・・・ええええええーーーー!」
「あれ?意外ですね。あなた方でも驚くんですか?皆自分自身が怪異の親玉みたいなもんだから、その程度では驚かないと思っていましたよ」
「いやいやいや、他人をバケモノみたいに言ってますけど、一番のバケモノは三蔵様自身ですから」
「只者ではない馬とは思っていましたが、あのプライドの高い生き物が何でまた馬に変化してるんですか」
「竜王も三蔵様の軍門に降っていたとは・・・」
ん?
「猪八戒以外のお二人は、私を何だと思っていらっしゃるんで?」
「妖仙殺しの暴力無敵坊主」
「妖仙相手でも天にも昇る気持ちで地獄行きを味合わせられる人」
「ほら、猪八戒、沙和尚、よく見なさい、あの北斗七星の脇に輝く星、アレが悟空ですよ」
「はひっ!」
日も暮れたのでキャンプを張りながら、玄奘は玉龍との出会いについて語り始めた。
まだ五行山に着く前の山道で、突如現れた神龍がパクリと三蔵の乗った馬を食べてしまった。
咄嗟に身をかわした玄奘だが、つい体が勝手に動いて急所に五発、顔面に八発の掌底や膝蹴り、突きを入れてしまった。
「『つい』って、普通の妖怪なら死んでますな」と沙悟浄。
あまりの痛さに神龍が泣くので、仕方なしに慰めつつ話を聞いてみると、元はこの神龍、西海竜王敖閏の第三子で玉龍と言い、かつて敖閏の屋敷に火事を出して大事な家宝に傷をつけてしまい、勘当され人界に落とされたのだそうだ。
人界で途方に暮れていると、観音菩薩と出会い、観音菩薩はこの後、ここを通る取経者を載せて天竺まで至れば天界への復帰が叶うと言ったので長年待っていたらしい。
「観音菩薩実は違うセリフ言えないんですかね?」と猪八戒。
ただ、500年も待たされ腹が減って死にそうになったので、たまたま通りがかって食った馬の主が・・・
「歴代最強の三蔵法師だったわけですね。運が良いのか悪いのか」
「と、まあ、その詫びにと一飛びで天竺まで飛ぶと言っていたんですが、取経の旅というのはそういうものではない。どの経路を辿ってどのようにして伝わったかを知らねば、誤訳の素もわからないのだからと説得してですね、このような馬の姿を取ってもらい、観音菩薩の言う通り、共に天竺を目指すように申しつけて、ここに至る訳です」
玄奘の話で無ければ確実に与太としか思わないだろうが・・・
「何なら龍神の姿に戻らせても構わんが・・・」
「いや充分であります。これ以上は我等とて心臓が持ちません」
「そういや俺、コイツ四海竜王の棲家で見たような気がするわ」
「おや孫行者、意外に早く帰ってきましたね」
いつの間にか帰ってきた悟空が玉龍の首筋を優しく撫でる。
「あー、そうかそうか、お前も覚えててくれたのか、もっと早く教えてくれても良いじゃないか」
玉龍はぶるるん、と、鼻を鳴らした。
「さて、明日も旅路は長くなります。今日はそろそろお休みにいたしましょう」
ぱちぱちと音を立てて燃える薪の炎を囲んで、男たちはそれぞれ眠りについた。




