仕組まれた円満な婚約破棄
「すまない、ソフィア……」
ギレット伯爵令嬢ソフィアは、頭を下げる婚約者パトリック・アッカー侯爵令息の頭頂部を見つめていた。
ここは貴族の家系の子供が多く通う、王都の王立学園の一室だ。交流を深めるための談話室である。
ソフィアはソファーに一人で腰掛けている。その姿は凛としており、他に人がいれば目を惹きつけてやまなかっただろう。輝く金髪に碧眼、透明感のある白い肌、すらりとした、しかし異性の熱烈な視線を集める肢体。社交界の華と謳われるソフィアの美貌は、婚約者に頭を下げられている場面でも一切の翳りもない。
ソフィアとテーブルを挟んで向かいのソファーに腰掛けているのは、ソフィアの一つ上の学年の婚約者パトリック、そして一つ下の学年の編入生であるシム男爵令嬢リンダである。並んで座っているこの二人は恋人同士だ。
リンダはシム男爵の庶子で、半年程前までは平民として暮らしていたらしい。しかし母親が亡くなり、父親である男爵に引き取られ、この学園に編入して来たのである。
そう時間をかけない内に急激にパトリックと仲良くなり、やがて恋人になった。だから二人揃ってソフィアに謝罪と、婚約の解消を申し出て来たのである。真実の愛を見つけてしまった、政略結婚はできない、と。
二人がいい仲であることは学園ではとっくに広まっており、ソフィアも承知していたので驚きはない。むしろ晴れ晴れとした気分だ。
「かまいませんよ、パトリック様」
悠然とした構えで、静謐な笑顔で、ソフィアは答えた。パトリックは恐る恐る顔を上げると、ソフィアの表情が意外だったのか瞠目する。
怒りはない。悲しさもない。感じられるのは本当に、心の底からの穏やかさだけだ。七年もの付き合いのあった婚約者から婚約解消を請われたとは思えないほどに柔和な笑みを、その美貌に浮かべている。まるで頑丈な鎖や柵から解放されたかのように清々しい、綺麗な表情と居住いだった。
「真実の愛だなんて、なんて素晴らしいのでしょう。もちろんお話はお受けさせていただきます。元々そちらから持ち込まれた縁談で私もパトリック様に情などありませんし、我が家としては婚約がなくなったところで特に問題ございませんもの。むしろとってもありがたいですわ。やはり恋愛感情のない結婚など時代遅れですものね」
「そ、そうか……」
「平民上がりで慣れていないからと目溢しされるのをいいことに甘えて礼儀作法が上達する気配はありませんけれど、人には得意不得意がありますもの、シム男爵令嬢には仕方ないですわよね。そんな彼女を未来の侯爵夫人として迎え入れるのはご両親や周囲の反対もお強いと想像できますが、真実の愛があればお互いに支え合い励まし合い、どんなことでも乗り越えられますわね、きっと。どうぞシム男爵令嬢とお幸せに」
「あ、ああ……」
「ありがとうございます、ソフィア様……!」
声はどこやまでも柔らかく響いているのに、言葉そのものは棘を纏っているかのような内容だった。そのちぐはぐさにパトリックは戸惑い気味だったけれど、リンダの方は引っかかりすら覚えていないようで、自分達の関係が認められたと感激している。
リンダは普段、害のなさそうな素朴な雰囲気だけれど、婚約者のいる男性と付き合うくらいだ。その神経は図太いのだろう。
「父には私から話しておきますわ。侯爵家の方はお任せいたします」
「ああ……。すまない。本当にありがとう、ソフィア」
「お礼を言われるようなことではありませんわ」
小さく笑みを零して立ち上がったソフィアは、「そうそう」と可愛らしく手を合わせる。
「もう婚約者ではなくなりますので、お互いのためにも私のことは名前ではなく家名でお呼びください。私もそうさせていただきます。その方がシム男爵令嬢もご安心でしょう?」
あまりにもあっさり話が進むので、パトリックは依然として頭が追いついていない様子だ。ただしそこに配慮する筋合いはソフィアにはないので、洗練された動作で優雅に一礼する。
「では私は失礼させていただきますね。お二人でどうぞごゆっくり。これからはただの学友として、程よい距離感を築いていきましょうね」
上機嫌で、ソフィアは談話室を後にした。
◇◇◇
屋敷に帰ったソフィアは図書室にいた。読み終わった本を棚に戻し、次は何を読もうかと本の背表紙を眺めていると、後ろから伸びて来た腕がふわりもソフィアを抱き締める。嗅ぎ慣れた香りが鼻腔をくすぐった。
背中に感じた温もりに身を委ねると、耳元に頬が寄せられる。ソフィアよりも色の濃い金髪が視界の端に映った。
「お帰りなさい、デューク」
「ただいま帰りました、義姉上」
ソフィアを抱き締めている後ろの少年は、義弟であるデュークだ。
デュークはギレット伯爵家の遠縁に当たり、両親を亡くしたのをきっかけに伯爵が養子として引き取った。夫人の体が弱くソフィア以外に子ができなかったので、万が一のことを考えて跡継ぎ候補としての意味合いもあったのだろう。
社交界の華として慕われるソフィアと同様、デュークも令嬢夫人達に人気だ。まだ幼さの残る顔立ちは美麗で、十六歳ながら身長はソフィアよりも頭一個分ほど高い。優しく気遣いができて、表情の変化は大きくないものの落ち着いた性格は評判が良く、自慢の弟である。
「領地はどうだったの?」
「何も問題ありませんでしたよ」
「それはよかったわ。お疲れ様」
デュークも王立学園に通っており、リンダと同じ学年だ。数日ほど所用で父と領地に行っていたので、会うのが随分久しぶりのように感じた。
「義姉上の方は? 学園では何もなかったですか?」
「そうねぇ……。アッカー侯爵令息から婚約の解消をお願いされたわ。真実の愛を知ったんですって」
義姉の婚約解消の話に、デュークが驚くことはなかった。「そうですか」と一言、淡々と口にしただけだ。
「順番がおかしいわよねぇ。婚約者がいながら恋人を作って婚約解消、だなんて。付き合う前に婚約の解消を申し出るのが誠実で礼儀でしょうに。しかも、不貞を働いた彼に瑕疵があるのに解消ですって。家の爵位が上だから自分でも知らずに高慢な認識を持っているのよね、あの男。そういうところが昔から嫌いなのよ」
パトリックはわかりやすく高慢ちきなのではなく、優しさを持ち合わせていながらも根底に慢心がある男だ。実力が伴っているのならともかく勉学も剣術も教養もせいぜい中の上程度なので見合っておらず、そこが好きになれなかった。
今回だって、最終的にソフィアは婚約解消を受け入れるしかないと踏んでいたのだろう。少なからずソフィアに好かれていると思い込んでいた勘違い男なので、スムーズな話し合いに拍子抜けしていたのが丸わかりだった。
「解消で済ませるわけがないのに、本当にお花畑な頭ねぇ。そう思わない? デューク」
柔らかく細められたソフィアの瞳には愉悦が滲んでいる。
「ええ。あれは馬鹿です」
「まあ。直球すぎるわよ。辛辣ね」
「事実ですし、気を使う必要なんてありませんから」
ソフィアとパトリックの婚約は、元々は確かに侯爵家優位のものだった。幼い頃にパトリックがソフィアに一目惚れし、婚約をごり押ししてきたのだ。当のパトリックはそんなことも忘れているらしい。都合の悪いことはさっさと忘却されたしまう能天気な思考回路の持ち主である。
パトリックは知らないことだが、ギレット伯爵家とアッカー侯爵家、その立場は最早逆転している。
アッカー侯爵家は現在、侯爵が手をつけた事業が次々に失敗し、多額の借金を抱えている。婚約の縁でギレット伯爵家が多少は援助をし、そのおかげで貴族らしい生活をなんとか送れている状態なのだ。
パトリックは帰って両親にソフィアとの婚約解消の話をして、嫌でも知らされることになるだろう。己の選択を後悔するかどうかは疑問に思うまでもない。彼は真実の愛に酔っているのだ、例え生活が苦しくなろうとも、リンダと結ばれることを強く希望するはずだ。
「婚約がなくなることを、彼も私も望んでいるのだもの。円満な婚約破棄、しっかり済ませましょうね」
パトリックが描いていた予定とはまったく違う展開となるけれど、そんなのは知ったことではない。こちらに瑕疵はないのだ。侯爵家が借金を抱えていようが関係ない、たっぷり慰謝料はもらう。今まで援助していた分も全額回収するつもりだ。
もちろんあの家にほとんどお金がないことは承知しているので、絞れるだけ絞り、労働で払ってもらうことになる。侯爵家の事情を知ってもリンダが本当にパトリックと結婚するなら、男爵家に払ってもらうのもいい。
きちんと手順を踏んで婚約解消の件を持ち込んできたなら、また違った対応になっていたかもしれないけれど。彼の選択は不貞の末の婚約解消だったのだ。遠慮するつもりは微塵もない。
なんにせよ、アッカー侯爵家は爵位を手放すことになるだろう。男爵家の力を借りるにしても高が知れているし、なによりこの義弟が、あの一家が貴族であり続けることを許すはずがない。
侯爵家の間違いはただ一つ。愚かにもギレット伯爵家の至宝ソフィア・ヴェラ・ギレットに目をつけたことだ。たったそれだけのことではあるけれど、それだけのことが全てで、致命的だった。
「ふふ。――すべて貴方の思い通りになって満足かしら? デューク」
微笑を浮かべながら問いかけるとデュークがぴくりと反応したのが、その腕に包まれているソフィアにはよく伝わった。
デュークは腕を解き、ソフィアを解放する。温もりが離れて振り返ったソフィアが楽しげに見上げると、デュークは濃い金髪から覗く青の目を伏せて視線を受け止めた。
「なんのことです?」
「惚けるの?」
ソフィアは出窓の天板に軽く座るように体重をかけ、両手をつく。
「貴方が何をしていたか、私が知らないとでも?」
アッカー侯爵家を借金地獄に追い込んだのは他でもないデュークである。裏で手を回し、侯爵の事業を悉く、徹底的に潰していたのだ。
そして、パトリックとリンダが恋人になったのも、デュークのお膳立てだった。周囲の人間がいいように操られているとは気づかないように動かし、情報を操作し、あの二人を引き合わせたのだ。リンダが落としたハンカチをパトリックに拾わせて届けさせるとか、休日の出先で偶然にも邂逅させるとか、編入したばかりのリンダが講義についていけず一人で勉強しているところに通りかからせ、二人きりで勉強する機会を作り上げるとか。「運命」を感じるシチュエーションをいくつも用意し、「真実の愛」を見事に生み出した。
すべてはソフィアとパトリックの婚約を、全面的にパトリックの有責で破棄するためだ。
「自他共に認めるブラコンの姉を見くびらないでほしいわね」
「……僕、義姉上を姉だって思ったこと、一度もないですよ」
「あらまあ、酷いわ。私は良き姉であろうと努力してきたのに、まったく実っていなかったのね。一方通行で迷惑なだけだったのかしら。至らない点があった? 反省しないといけないわ」
デュークの真意を看破していながらも、そこを指摘せずからかうことに精力を注いでいる。頬に手を添えて声音だけは困ったような悲しそうな雰囲気を醸し出しているけれど、表情はどこまでも楽しそうに微笑を湛えている。
次には、わざとらしく眉尻を下げるのだ。
「でも、そうね。頑張った弟にはご褒美をあげないといけないと思うの。鬱陶しがられても、私には大切で可愛い弟だもの」
「……鬱陶しくはありません」
「あら。不満そうな顔をしているわよ?」
不貞腐れている義弟が更に剥れた。それでも視線を逸らさず、青の瞳はソフィアだけを映している。まるで他には何も存在していないかのように。
いつも安らぎを与えてくれるその色を、ソフィアはにっこりと見つめ返す。
「ねぇ、ご褒美は何がいいかしら。私にできることならなんでもしてあげるわ。貴方に喜んでほしいもの」
ソフィアの提案に、デュークはぱちりと目を瞬かせた後、「なんでも……」と反芻する。
「本当に、なんでもいいんですか?」
「ええ、なんだっていいわよ」
余裕たっぷりのソフィアとの距離を、デュークは詰める。僅かに上体を倒し、天板に置かれた華奢な手を包み込むように片手を重ねた。もう片方の手が、ソフィアの頬に伸ばされる。
すり、と。親指の腹が滑らかな肌の上を滑る。猛烈な熱を閉じ込めた青の瞳は、間近で真摯にソフィアを捉えていた。
ゆっくり近づいて、唇が触れる。ほんの少しの時間だけ触れて、離れる。けれど距離は大して取ることなく、吐息がかかる程度でまた見つめ合った。
「これだけでいいの?」
「……いえ」
重ねていた手の指が、自然と絡む。そうしてまた、お互いに近づいて唇が触れた。今度はさっきよりも長く、離れると角度を変えてまた重ねる。
合計してもせいぜい数十秒の触れ合い。それだけなのに、こんなにも心が満たされる。幸福感と高揚感に、自然と体が熱を持つ。
キスを終えると、デュークがこつんと額を合わせた。幸せを噛み締めた表情で、その瞳に宿る熱は引く気配がない。
普段から隠されていなかった好意だけれど、多少は抑えていたのだとよくわかる。今は激しい欲が見え隠れしていて、火傷してしまうのではないかと思えるほどだった。
「まだ正式に婚約が破棄されたわけではないのだけれど、これも不貞になるのかしら」
「もうなくなったも同然なので問題ありません」
しれっと断言したデュークに「そう?」と返しながらも、ソフィアも同意見だ。
「好きです、義姉上」
「ふふ。知っているわ」
「義姉上はどうですか」
「もちろん大好きよ、私の可愛いデューク」
子供扱いをされているようで、デュークが眉根を寄せた。
「その顔も好きよ」
どんなデュークも好きだ。髪も目も顔も性格も、年齢が一つ下なのを気にしているところも、弟扱いで甘やかされる特権を手放したくないながらも複雑な思いを抱えているところも、ソフィアのことが大好きで独占欲を燃やしているところも、ソフィアを手に入れるためにひたすら努力しているところも、他も、全部全部。
誰にもあげない。あげたくない。ソフィアだけのデュークだ。
「お父様とお母様の許可はもらっているのよね?」
「はい。後は義姉上が頷くだけで婚約成立です。書類も全部用意してます」
「周到ねぇ。そんなに私と結婚したいのね」
「あの男が七年も義姉上の婚約者の座に収まっていたことが業腹でなりません」
「アッカー侯爵家が相手ならいつでも貶められるから都合がいいとも考えていたのでしょう? お父様を説得するまで、下手に手を出しにくい家と婚姻が結び直されるより断然いいって放っていたのも知っているのよ?」
婚約も家同士の契約の一つだ。昔は政略結婚が当たり前だった。今でも特に上位の貴族や王族は婚姻での利益を無視できないのだ。恋愛にうつつを抜かせるのは、地位も名誉も権力も財力も、すべて余裕のある家だけだろう。
デュークは養父にソフィアとの結婚を認めさせるため、パトリックの価値を叩き落とすのと同時に、己の価値を高め続けた。養父はとっくにアッカー侯爵家を見限って次を探そうとしていたけれど、デュークが待ったをかけたのだ。婚姻の手段を使わずとも、他の家との縁を――確固たるコネを、自らの手で広げてみせると。その約束を成し遂げ、ソフィアとの婚約を勝ち取った。それが人付き合いが嫌いなデュークが積極的に社交に力を入れ、人気を得た背景である。
ギレット伯爵は貴族としての責務を重要視しているが、娘が可愛くないわけではない。娘には好いた相手と、娘を幸せにしてくれる相手と添い遂げてほしいのが本音だ。
デュークなら安心だと確信が持てたから、伯爵は申し出を受けたのである。
「時間がかかって申し訳ありません」
「仕方ないわ。お父様ったら変なところで頑固なんだもの」
そもそも、この婚約に不満を持っていた父だって侯爵家を没落させるために動いていた。そこにデュークが加わり、気持ちの本気度と能力の判断材料にちょうどいいからとほぼデューク任せにしたのだ。そのくせ簡単に娘を渡してなるものかと、のらりくらりとソフィアとデュークの婚約を拒否し続けていた。とっくにデュークのことは認めていたというのに。
「何もしなかった私のことは怒ってない?」
「いえ。僕のことを信頼してくれていたゆえだと理解してます。……今思えば、奔走する僕の姿を楽しんでいる節はありましたが」
「ふふ。ごめんなさい」
笑いを零すソフィアとの距離を、またデュークが詰めてくる。熱を孕んだ眼差しに惹かれるまま、ソフィアがそっと目を伏せて温もりが触れるのを待ち望んで――。
バタバタン!
大きい音が響き、甘い雰囲気はどこへやら、お互いに動きが止まる。
二人して音がした方を見れば、顔を真っ赤にして体を硬直させているメイドの姿があった。
手は何かを抱えていたような形で、足元には本が数冊、乱雑に散らばっている。どうやらさっきの鈍い音は本が落ちた音だったらしい。
メイドははくはくと口を動かし、見てはいけないものを目撃してしまったような、そんな衝撃に体だけでなく思考も停止していたようだけれど。「大丈夫?」とソフィアが優しく声をかけたことでビクッと肩を揺らし、我に返った。おろおろと視線を忙しなく彷徨わせる様は、どれほど彼女が動揺しているかを表している。
「あ、あのっ……わ、私はにゃっ、……何も! 何も見てませんっ!」
落とした本もそのままにメイドは両手で顔を覆い、「見てないんですぅぅお邪魔して申し訳ありませんー‼︎」と叫びながら走り去って行ってしまった。メイドが飛び出した扉の方に、ソフィアは心配げな眼差しを向ける。
「あらあら。視界を塞いで走ったら危ないわ」
「……気にする必要はないですよ」
あれでも伯爵家のメイドだ。転んだりすることはないだろう。誰かに盛大にぶつかることはしそうだけれど。
「これで暫くは人が来ないでしょうね。あの子、気が効くもの」
「……」
あの動揺っぷりでは人払いを期待できるか甚だ疑問なのだが、そこはどうだっていいかとデュークは結論づける。
誰に見られたところで困ることは何もない。これから婚約を結ぶことになるし、そもそもデュークは自分の気持ちを隠すつもりなどなく、明確に言葉にこそしなかったものの、態度は常に堂々と好きにしていた。屋敷の者達も、余程鈍感でなければとっくに察しているはずだ。
「ねぇ、デューク」
甘えた声で呼ばれると、デュークの意識は義姉に注がれた。メイドのことはもう頭の片隅にもない。目も心も体も、すべてがソフィアだけを認識している。
「七年、ずっと我慢して見守ってあげたのよ? 私にもご褒美があっていいのではないかしら」
「僕へのご褒美と何か違いはありますか」
「ないわねぇ」
ソフィアが両手を伸ばすと、デュークは身を屈めて応えた。近づいたデュークの首の後ろに両手を回したソフィアは、満足そうに柔らかな笑みを零す。
「愛してるわ、デューク」
「っ……色々と、我慢しているのですが」
「まあ。珍しく照れているのね、可愛いわ」
愛おしいと語る瞳に、麗しく艶然とした微笑。動揺なんてなくてなんでも見透かしているようで、いつも一枚上手。
そんな義姉に意趣返しするように、デュークはソフィアの後頭部に手を添えて引き寄せる。
「――可愛いのは貴女の方だ」
ぱちりと、ソフィアが瞬きをする。
また、唇が重なった。