映画サークル
大学の映画サークルに所属している亮太は、今日も仲間達と自主制作映画の撮影をしていた。
「じゃあここですれ違うシーン撮ろうか」
人通りの少ない道路を選び、カメラを回す。
4年生の亮太は、監督のポジションを担っていた。演者やカメラマンなどに細かな指示を出しながら全体を統括している。
しばらく撮影を続けていると、ふいに後方の民家から1人の男が出てきた。
画角に入ってしまっているようだ。
「ごめん、1回中断しよう」
亮太の掛け声に全員が動きを止めると、男が立ち去るのを待つ。
許可を取って撮影しているわけではないので、たまにこういったことが起きてしまうのだ。
その男は驚いたような顔をしながら、こちらを何度も振り返ると、反対方向に歩いていった。
「よし、じゃあ今のところもう1回お願い」
その後、息のあったチームワークでスピーディに撮影をしていくと、夕方には全てのシーンを撮り終えた。
解散後、亮太は家で映像の最終チェックをしようと、カメラをテレビに接続する。
接続されるまでの間、夕方のニュースが写し出されていた。
女性キャスターが新しいニュースを読み上げる。
「今日の午後3時頃、練馬区の民家に男が押し入り、現金数百万円を奪って逃走しました。なお、その家に住む67歳の女性が、男に襲われて意識不明の重体だということです」
テレビに映っているのは、見覚えのある道路だった。
「目撃者の情報によりますと、男は身長180cm前後で、迷彩柄のパンツを着用。茶色のニット帽を被っていたとのことです」
カメラの接続が完了すると、亮太は急いでとあるシーンを再生した。
人通りの少ない道路で、すれ違う2人を撮影したシーン。
その後方の民家から、迷彩柄のパンツに茶色のニット帽を被った男が出てくる。
全身の血の気が引き、心臓が脈打っているのが分かる。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「誰だこんな時に」
インターホンの通話ボタンを押して返事をすると、来訪者が言った。
「突然すみません。関東ガスのものですが、先ほどこちらにガス臭いとの通報がありまして、部屋の中を検査させていただけないでしょうか」
「ガスですか……少々お待ちください」
良太が玄関のドアを開けると、そこには見覚えのある男がナイフを持って立っていた。
「分かるだろ?撮られちゃまずかったんだよ」