7話
数分後。エントランスホールに行くと、すでに青谷と黃島がいた。二人とも顔面についた血液は取っていたが、しかし血まみれの衣類はそのままであった。
「着替えたら良かったのに」
と僕は言った。幸い、僕の服にはそこまで血が付いていなかった。だから僕はそのままであったが、二人は衣類も血まみれであった。
「バカね。この3人の中に犯人がいるかも知れないのよ? 風呂や着替えをしている時が、一番無防備じゃない」
青谷の言葉に、僕は納得した。確かに、この中に犯人がいるかも知れないのだ。そして二人にとっては、僕も犯人の候補に挙がっている。
鍵を掛ければ充分だが、しかしスペアを既に犯人が見つけている可能性もある。
「さてと。手分けして島を探索するわよ」
館の鍵はちょうど3つあったので、僕たちはそれぞれ手に取った。一度館の戸締まりをした後、玄関に出た。その矢先に、青谷が言ったのだった。
「え、一緒に探索しないの?」
と僕。
「バカじゃないの? 手分けした方が早く済むじゃない!」
と青谷。でも殺人鬼に狙われちゃうじゃん、と僕は言えなかった。何度もバカと呼ばれることは、さすがの僕でも耐え難い。
それに恐らく、本心では彼女も警戒しているのだ。犯人に狙われやすいから風呂や着替えをしなかったのも、手分けをして僕たちから離れようとするのも、僕たちの中に犯人がいることが前提の考え方だ。
無論それらが全て演技である可能性も考えなくてはならない。彼女が犯人で、その犯人にとって都合の良いように動かされているのかも知れない。
*
それから1時間後。どうやら此処は小さな島のようであることが分かった。島の住人は一切いない。探索中、何度か黄島と遭遇するくらいに小さな島だ。
そんな島で、連絡手段がない。どうやら僕たちは、完全に外界から隔絶された孤島で、犯人と一緒にいなければならないらしい。
――ズキンッ!
島を歩いていると、唐突に頭痛に苛まれた。僕はあまりの辛さに頭を抱えて、その場で蹲ってしまう。
目を閉じて、痛みをただひたすら堪える。すると、妙な光景が浮かんでくる。誰かが、誰かを殴っている。それも、一方的に。
――黒田ぁっ!
殴っている方がそう怒鳴った。
頭痛が止んで、僕はゆっくりと目を開ける。
「黒田……? 誰だそいつは」
僕はポケットにしまっていたパンフレットを取り出して確認する。名簿には黒田という名前の人物は載っていない。
しかし、名前に黒という色が含まれている。美術サークルに関係ありそうだ。では、なぜ名簿に載っていないのだろう。彼だけ不参加だったのだろうか。