6話
名簿にあった白銀乃々という名前と、そしてその人物と思われる死体。彼女は白銀財閥のお嬢様である。
そして、白銀と書かれた表札を掛けてある、立派な館。
これは偶然か。ともかく僕は、呼び鈴を押した。しかし反応はない。玄関のノブを回すと、鍵は掛かっていないようであった。
「あのー、すいませーん!」
大声で呼ぶが、やはり反応はない。館内は薄汚れていて、しばらく使われていないようだ。
「良いんじゃない? ここを使わせてもらいましょ。私たちだって、余裕はないんだから」
そう言ってズカズカと館内の奥へ入っていってしまった。
どうしようかと、僕と黃島さんは顔を見合わせる。
「まあ、仕方がないですね。行きましょう、黃島さん」
「は、はい」
僕と黃島さんは、青谷さんを追った。玄関の先は廊下になっていてその先はエントランスホールになっていた。ホールの中央には先に行った青谷さんが仁王立ちしていた。
「すごいですね」
青谷さんの隣に立って、僕は言った。館内はゴシック調のインテリアで装飾されている。高そうな古時計、ソファ、テーブルなどが置かれていて、いかにも金持ちの家といった感じであった。
「ええ、そうね」
とそっけなく青谷さんは返事をした。もうちょっと愛想を良くしてくれても良いのに。
「ここに電話があります!」
と黃島さん。玄関からエントランスホールの右側の壁際に、電話の台と電話があった。
「あれ。でも電話線が繋がれてないですね」
黃島さんは電話の裏側を見て言った。いよいよ困ったことになった。僕たちの携帯は、不時着の影響かもしくは犯人が意図的に衝撃を与えたせいか、壊れてしまっていた。なので助けを呼べないのだ。
「ともかく。自分が使う部屋を決めて、荷物を置くわよ。それで、この島をもっと探索するの」
そう言うと、青谷さんはキャリーバックを強引に引き摺りながら、エントランスホールにあった大きな階段を登って行った。
「なんともまあ、強引な人だな」
僕は思わず呟く。青谷さんが犯人だろうか。それはまだ分からない。あんな強気な人が殺人を犯す理由って、なんだろう。それとも、彼女は犯人じゃないのだろうか。だとしたら……。
「赤屋さん。行きましょう」
と黃島さんが声を掛けてきた。青谷さんが犯人じゃないとすれば、彼女しかいないのではないか。でも、彼女は見るからに良い人そうだ。それにおっぱいも大きい。何より、彼女が人を殺すなんて考えられない。しかしそれは青谷さんにも言えることだ。
僕と黄島さんは一階にある部屋を利用することにした。部屋には番号が振ってある。僕の部屋は101号室。彼女の部屋は105号室。僕の向かいの部屋だ。
部屋に入ると、カードキーが刺さっていた。なるほど。ホテルでよくある、カードが刺さっている間は電力が供給されるタイプのやつだ。そしてカードキーを抜いたままドアを締めると、自動的に施錠されるのだろう。
僕はカードキーをそのまま刺した状態で、部屋の照明のスイッチを入れた。すると照明はきちんと点灯した。館にはきちんと電気が通っているようだ。
部屋の内装は、ホテルでよくあるワンルームの部屋であった。玄関から廊下があって、その途中にトイレと風呂がある。部屋には机があってベッドがある。冷蔵庫と金庫もあった。
「カードキー、カードキーか」
僕は部屋の壁を見つめる。その先には102号室の部屋があるだろう。最奥は104号室か。僕はキャリーバックからノートとペンを取り出した。