3話
「ところで皆さん、怪我はないんですか?」
とDカップ。僕とCカップは一応自分たちの身体に異変が無いかチェックし、問題ないことを確認した。
「何か、奇妙ですね」
と僕は言った。
「何がよ」
とCカップ。もう少し、優しい言い方は出来ないのだろうか。
「多分、このジェット機は不時着したんだと思うんです。それで、その衝撃によって数人が死んでしまった。でもそれだけの衝撃だったのに、ほら」
僕はDカップの眼鏡を指差す。
「彼女は席に座っていたとはいえ、かなり態勢が崩れていました。なのに眼鏡は無事だった。僕たちもそうです。どこかしら怪我をしていそうなものなのに、無傷。そして……」
僕は機内を見渡す。
「機内は血まみれで傷だらけですが、それだけです。激しく凹んでいたり、欠損していたり、そういった状態ではない。それどころか、窓ガラスだって割れていない。何だか、実は大した衝撃ではなかったんじゃないかって、思うんです」
僕はそう言って、Cカップを見た。
「ねえ、Cカップさん」
「ちょっと、何がCカップよっ!?」
とCカップは激昂した。しまった。つい口に出してしまった。
「ああっと、すいません。ところでCカップさんは、いつ頃に目が覚めたんですか?」
「ちょっと! Cカップで押し通さないでよ!」
「質問に答えてくれます?」
「なんてふてぶてしい……あんたが私の胸を触った時よ。変態さん」
とカウンターパンチを食らってしまった。僕はCカップから目を逸らす。すると床に、血まみれの防火斧が転がっていることに気がつく。
「まさか」
僕は呟いて、恐る恐る死体の一つを観察する。その死体はDカップに覆い被さっていた死体だ。頭がかち割れて、中身が出てしまっている。他の死体も、同様だ。全て頭が割れている。それでいて、頭以外の身体には、やはり無傷のようであった。
「死体は全て頭が割れていて、それ以外の身体は無傷。防火斧が転がっていて、その斧は血まみれ……」
僕は呟く。そして、一つの疑念が浮かび上がる。
「それって、まさか」
Dカップが言った。怖そうに、口を手で押さえている。
「誰かが、この防火斧で殺した……」
Cカップがその疑念を呟く。強気な彼女であったが、流石に怖そうであった。
「外に、出ましょうか」
僕はそういって、出入り口のドアに手を掛ける。しかし、開かない。鍵が掛かっているようだ。それもそうか。不時着ということは、その前までは飛行していたのだ。鍵が掛かっていて当然か。
「ちょっと待ってください。出入り口って、ここだけですよね」
「ええ、多分そうね」
と他を見渡しながらCカップが言った。
「ということは、密室ってことですよね」
僕は呟く。そして誰しもが、息を呑んで押し黙った。
密室の殺人現場。その中に3人の記憶喪失者。つまりはこの中に、犯人がいるということだ。記憶喪失のフリをした、人の頭をかち割る残忍な、殺人鬼が。