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孤島色のトラップ  作者: violet
事件編
3/25

2話

「うーん」


 その死体の一つが唸った。いや、死体ではなかったようだ。


 その人は女性であった。自分に覆い被さっていた死体を鬱陶しく退けて、眠そうに目を薄っすらと開けた。


 その彼女が、僕たちを見る。血塗れの僕と、その僕に胸を揉まれた、やはり血塗れの女性。


「……きゃあっ!? な、何ですかあなた達は!」


 その女性は、ありふれた女性らしい悲鳴を上げて、僕たちに警戒した。


「いえ、怪しいものではありません。僕の名前は……」


 と、そこで頭痛が激しくなって言葉が途切れてしまう。頭を押さえて痛みに耐えながら、そして僕はあることに気がつく。


「あれ、僕の名前って、なんだっけ」


 僕はそう呟いて、そして僕たちを警戒している女性を見た。


「あなたこそ、誰なんですか?」


 僕がそう言うと、その女性はやはり僕同様に頭を押さえ、苦しみだした。


「分からない。私も、自分が誰なのか分からないです」


 彼女のその言葉を聞いた後、次にCカップの女性を見た。


「分からないわよ。私だって」


 ふん、とCカップはそっぽを向いた。


「ところで、早くこっちに来た方が良いですよ。ほら」


 と僕は女性の脇を指差して言った。


「えっ……?」


 とその女性は僕が指差した方を見る。そこには後頭部がかち割れて色々なものが出てしまった、大変グロテスクな死体があった。


「……きゃあっ!? 嘘っ!? 何ぃっ!?」


 彼女は慌てて僕たちの方へ移動した。やはり、先ほど鬱陶しそうに死体を退けていたが、寝ぼけていただけだったようだ。


「これ、死んでるんですか……!?」


 彼女はそう言いながら、僕の後ろに立って、僕の二の腕部分にしがみついた。


「うん、多分ね」

「ええ、そんな……」


 腕から彼女の体温と、怖くて震えている感触が伝わってくる。さらにちょっとだけ彼女の胸が触れていた。


 か、可愛い。眼鏡にお提げの子。地味だけど実は可愛い系の女の子だ。僕の好みである。


「って、あれ」


 僕は思わずそう呟いてしまう。先ほどまで凄く怖かったのに、もう平気のようだ。目の前には死体の数々。凄惨たる状況。なのに、僕はこの短時間で慣れてしまったというのか。


「ここは、どこなんですか?」


 お提げのDカップが言った。それは僕にも分からない。


「見たところ、プライベートジェット機の中のようだね。そして外は、どこかの島かな」


 僕は窓ガラスの先を見る。木々と、砂浜が見えていた。


「ねえ、皆はどこまで覚えているのよ」


 と強気なCカップが言った。


「そう、ですね……」


 Dカップがそう呟いて考え込む。僕もそうする。自分の名前は。住所は。職業は。どうして此処にいる。何が起きた。彼女たちは誰だ。


「ダメだ。何もかも、分からない」


 僕は観念したように言った。彼女たちも同様であった。

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