2話
「うーん」
その死体の一つが唸った。いや、死体ではなかったようだ。
その人は女性であった。自分に覆い被さっていた死体を鬱陶しく退けて、眠そうに目を薄っすらと開けた。
その彼女が、僕たちを見る。血塗れの僕と、その僕に胸を揉まれた、やはり血塗れの女性。
「……きゃあっ!? な、何ですかあなた達は!」
その女性は、ありふれた女性らしい悲鳴を上げて、僕たちに警戒した。
「いえ、怪しいものではありません。僕の名前は……」
と、そこで頭痛が激しくなって言葉が途切れてしまう。頭を押さえて痛みに耐えながら、そして僕はあることに気がつく。
「あれ、僕の名前って、なんだっけ」
僕はそう呟いて、そして僕たちを警戒している女性を見た。
「あなたこそ、誰なんですか?」
僕がそう言うと、その女性はやはり僕同様に頭を押さえ、苦しみだした。
「分からない。私も、自分が誰なのか分からないです」
彼女のその言葉を聞いた後、次にCカップの女性を見た。
「分からないわよ。私だって」
ふん、とCカップはそっぽを向いた。
「ところで、早くこっちに来た方が良いですよ。ほら」
と僕は女性の脇を指差して言った。
「えっ……?」
とその女性は僕が指差した方を見る。そこには後頭部がかち割れて色々なものが出てしまった、大変グロテスクな死体があった。
「……きゃあっ!? 嘘っ!? 何ぃっ!?」
彼女は慌てて僕たちの方へ移動した。やはり、先ほど鬱陶しそうに死体を退けていたが、寝ぼけていただけだったようだ。
「これ、死んでるんですか……!?」
彼女はそう言いながら、僕の後ろに立って、僕の二の腕部分にしがみついた。
「うん、多分ね」
「ええ、そんな……」
腕から彼女の体温と、怖くて震えている感触が伝わってくる。さらにちょっとだけ彼女の胸が触れていた。
か、可愛い。眼鏡にお提げの子。地味だけど実は可愛い系の女の子だ。僕の好みである。
「って、あれ」
僕は思わずそう呟いてしまう。先ほどまで凄く怖かったのに、もう平気のようだ。目の前には死体の数々。凄惨たる状況。なのに、僕はこの短時間で慣れてしまったというのか。
「ここは、どこなんですか?」
お提げのDカップが言った。それは僕にも分からない。
「見たところ、プライベートジェット機の中のようだね。そして外は、どこかの島かな」
僕は窓ガラスの先を見る。木々と、砂浜が見えていた。
「ねえ、皆はどこまで覚えているのよ」
と強気なCカップが言った。
「そう、ですね……」
Dカップがそう呟いて考え込む。僕もそうする。自分の名前は。住所は。職業は。どうして此処にいる。何が起きた。彼女たちは誰だ。
「ダメだ。何もかも、分からない」
僕は観念したように言った。彼女たちも同様であった。