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孤島色のトラップ  作者: violet
プロローグ
1/25

0話

 防火斧で人の頭をかち割るのが、こんなに気持ちの良いものだとは思わなかった。





 強烈な頭痛を感じて、意識を取り戻した。頭を押さえながら、ゆっくりと目を開ける。フロントガラスから、海と砂浜、そして生い茂る木々が見える。


「大丈夫、みんな」


 声を掛けるが返事は無い。皆のところを見ると、全員が意識を失っていた。プライベートジェット機の席にて、それぞれがシートベルトを付けながら、ぐったりとしている。


 ハッとして、ポケットに手を入れる。布の感触がしたのでそれを掴み、ポケットから取り出す。出てきたのは、白いハンカチであった。ハンカチの端には、自分の名前が小さく刺繍されている。


 ホッと、一息つく。大事な人から貰った、世界でただ一つのハンカチ。それが破けていないかが心配であった。


 そして、その大事な人のことを思い出す。あの人は自殺した。こいつらに虐められて、自殺に追い込まれたのだ。


 その奴らが、不時着による衝撃によって意識を失っている。チャンスではないか。あの人の仇を取る、チャンスではないのか。


 そうだよ。あの人が死ぬ必要はなかった。お前らが死ねば良かったんだ。


 機内に備え付けられた防火斧を取り出し、構える。そして虐めの主犯であった一人に振りかぶる。昂ぶる殺意。


 お前らが死ねば良かった。お前らが死ねば良かった。お前らが死ねば良かった。


 死ね、死ね、死ね。


「あああああああああぁっ!!!!」


 思わず叫ぶ。力み過ぎて震える両手。しかし構わず、振り下ろす。


――ザシュッ!!


 刃物が皮膚を引き裂き、頭蓋骨がかち割れる音が響く。


 すると一瞬、頭が真っ白になったような気がした。その後に、スッと身体の中から何かが抜けていくような気もした。身体の中に蓄積された、悪い何か。恐らくは、憎しみとか、悲しみとか、そういった類いのものだろう。


「き、気持ち良い……」


 うっとりと、そう呟いた。性的快楽とはまた違った、中毒性の高い快楽であった。あまりの気持ちよさに、身体が震えている。


「他も、殺さなきゃ」


 二人目の席に立った。同じく斧を振りかぶって、そして振り下ろす。同様の音が響く。滅茶苦茶になった死体の頭部。血が飛び散って、顔に掛かってしまう。何だかそれも、気持ちが良い。


「あの人の苦しみはこんなものじゃない。あの人を失った苦しみだって、こんなものじゃない」


 同じ要領で、三人目も殺した。


「あはは、あははははっ!」


 あまりにも楽しくて、気持ちが良いものだから、つい高笑いをしてしまった。


 もっと殺さなくては。特に、残りの……。


 意識を失っている残りの二人を、ねっとりとした視線で見た。


 しかし煩くし過ぎたせいか、残りの二人は目覚めそうであった。


 目覚めたら抵抗されて面倒だ。残り二人は後で殺害する方が良いだろう。そのためには一旦、気絶したフリをして……。


 おっと危ない。血飛沫を浴びてしまっているのだった。一人だけ血まみれでは犯人は明らかである。そうだ、この二人にも血液を塗りたくってしまおう。


 皆きちんと席に座っているが、それも崩してしまった方が都合が良さそうだ。


 よし、準備を終えた。では気絶したフリをしよう。

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