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94話 明かされた気持ち〈アーネスト視点〉

 入場前のサラ王女の言葉を聞き、サラ王女はとにかく、ロイルに居た頃の俺との会話で知ったリディの存在が気になるのだと再確認した。


 ただ、サラ王女がリディの話をする時に、これという説明は出来ないが、漠然と少し危うさを纏った雰囲気が感じられることが、帰国の1年前くらいからあった。


 今日はその様子にさらに拍車がかかっていると感じる。




 だからこそ、俺はサラ王女から振られない限り、リディの話は絶対にしないようにしていた。


 しかし、サラ王女は話を続けた。




「何を深刻そうな顔をしているのよ。別に取って食いはしないから安心しないさいよ。私とアーネストの仲じゃない」




 サラ王女がそう言った矢先、横からエリック王子が話しかけてきた。




「姉上、アーネスト殿下を困らせないでくださいよ」


「だって、アーネストったら面白いのよ? リディアの話をするだけで――」




 言いかけたところで、遮るようにエリック王子がサラ王女を諭すように話しかけた。




「姉上、先程から気になっていましたが、リディア嬢にもきちんと敬称をつけてください。僕たちがこの場にいる意味を忘れてはいけません」


「あんなに小さかった子にこんなことを言われる日が来るなんてね。はいはい、分かったわよ。リディア嬢ね」


「その言い方も……っ姉上、必ずですよ。あっ! そうだ! 姉上が会う前にリディア嬢について教えてあげましょう。リディア嬢はとってもお優しい方で、この国に来たばかりの僕のことを励ましてくださったんです。なのでリディア嬢は僕の恩人でもある、本当に素敵なご令嬢なんです。そうですよね、アーネスト殿下?」




 そう言って、エリック王子はニコッと笑いかけてきた。


 その笑顔に答える形で微笑みを浮かべたものの、頭の中では様々な考えが駆け巡っている。




――エリック王子はリディとそんなに親しかったのか?


 それに、俺がいくら忠告してもリディアと呼んでいたのをすぐに直すとは、姉弟の忠告だからか?


 俺の中で、エリック王子についての情報が少なすぎる。


 今後調べる必要がありそうだな。




「はい。全くもってその通りです。……では、そろそろ入場の合図がなる頃ですので位置に着きましょうか」




 そのときちょうど、王族入場の合図が聞こえた。




 そして、会場に入り、すぐにリディを見つけた。




――やはり俺の見立ては正しかった!


 いつも綺麗だが、今夜はいつにも増して綺麗だ。


 ……周りの貴族とも馴染めているようだな。




 そんなことを思っていると、ロイルの2人も入場してきた。


 チラッとエリック王子を見ると、一点を見つめていた。


 その視線を辿ってみると、そこにはリディがいた。


 その事実に、胸がもやもやしてキュッと痛む。




 その後、リディが挨拶に来た。


 偶然にもサラ王女が席を外していたため安心していたが、リディの去り際に戻って来て、俺にリディかを確かめるとリディにいきなり抱き着いた。




 そのとき、リディの顔色が一瞬曇ったのを見逃しはしなかった。


 その後、サラ王女とリディが握手をしているときも普通のように見えて、リディの表情は少し硬かった。


 そして、握手後しきりに手を気にしている。




 よく見ると、リディの手が赤くなっていた。




――サラ王女、まさかリディに何かした……のか?


 手が赤くなるなんで何をしたんだ!?


 流石にそこまでする人だとは思っていなかったが……。




「サイラス卿、ちょっとこちらへ」




 こうしてサイラス卿に指示を出し、サイラス卿が薬を取りに行っている間にリディはトラブルに巻き込まれたものの、すぐに気付けたため俺が対応できた。


 ただ、リディを傷付けたはずのサラ王女が助太刀に来たことは予想外だった。




 それから、リディと踊る約束をし、サラ王女と踊りに行った。


 先程リディを助けてくれたことには感謝しなければならないものの、それ以前にリディのことを傷付けたことに対して話をしなくてはならないと思い、ダンスの序盤からサラ王女に切り出した。




「先程は助太刀して下さりありがとうございます」


「どういたしまして。……だけど、リディア嬢のために働いてあげたんだから、もっと感謝しても良いんじゃない?」




 この発言で俺の中でより怒りの感情が湧き上がる。


 その勢いで、サラ王女に思い切って聞いた。




「感謝だけしたかったのですが、サラ王女。挨拶の際、リディに何かしませんでしたか?」


「彼女があなたに何か吹き込んだの? 意地悪されたとか? 酷いわ~。そんなことしていないのに~。そんなの濡れ衣よ!」


「リディはそんなことを一言も言っていません。わざといつもと違う話し方をして、はぐらかそうとしないでください」




 この言葉に対し、王女は真面目な様子に切り替えて話しかけてきた。




「で、私が彼女に何をしたって言うのよ?」


「あなたと話してからリディの表情がおかしい。それに、あなたがリディと握手した後、ただの握手とは思えないくらいリディの手が赤くなっていました。それなのに、何もしていないというのですか?」




 そう問うと、サラ王女はポカーンとした顔をしたかと思うと、ニヤッと笑い話し出した。




「なーんだ、気付いていたのね。いつも周りに甘やかされてばかりで、どんな時でも絶対に誰かが助けてくれたり、庇ってくれたりして苦労なんて一度もしたことなさそうな顔をしてたから、何か腹が立っちゃってつい試したくなったの。けど、顔に出さなかったのは意外だったわ。それとも、普段からすべて計算している子なのかしら。それにしても、赤くなるほどだったなんて私ったら鍛え過ぎたかしら」




 俺はこの言葉を聞き、怒りが抑えられなかった。




「サラ王女、いい加減にしてください。あなたは親善交流に来たのですよ? 限度というものがあります。今後リディに手を出すことがあったら、俺はあなたを一生許しません」




 この言葉に呼応するように、サラ王女は俺に非難の眼差しを向け話し出した。




「ほらね。こうやって、アーネストが助けるとか、そんなこと言うから、余計に試したくなるんじゃない。それに、証拠は? 私は隣国の王女。あなたが見たというだけでは、なーんにも証拠にはならないのよ? それに、あなたがこの5年間思い続けていたにも関わらず、あの女はあなたじゃない別の男と婚約したのよ!? たった5年なのに……。しかもその結末は、貴族令嬢の恥でしかない婚約破棄! そのくせ、のこのこと社交界に戻って来られる神経ときたら……。ふっ、どうかしてるわ」




 聞こえてくる発言すべてに腹が立つ。


 しかし、周りにはバレてはいけない内容だからこそ、怒りに堪え冷静さを保ち告げた。




「証拠を提示できないからこそ、次が無いように警告しているんです。それに、婚約破棄に関してはリディに非はありません。次に調査をすることがあれば、そこまでしっかり調査出来る者に頼んでください。しかも、俺は未だリディに自分の気持ちを伝えられていません。ですから、リディを責めるのはお門違いです。まず前提として、あなたには一切関係ない話でしょう?」




 この言葉に、サラ王女の眼差しは悲痛を孕んだ様なものへと変化した。




「どうしてそんなことを言うの? 私があなたのためを思ってした行動なのに。私はあなたの人生において濃い5年間に関わった人間よ!? どうして分かってくれないの? こんなにも自分のことを思ってくれている人がいるのに、別の男とくっついたかと思えば婚約破棄をして、不幸みたいに振る舞うことで皆に可哀想がられて、だけどちょっと美人だからっていう理由で皆に受け入れられてる。……おかしいじゃない! 他でもないアーネストの長年の想いに気付かない時点で、最低よ? 何の苦労もしたことが無い小娘一人に固執し続けているあなたもどうかしてるわ! 何でそんな子がずっとアーネストの心を縛ってるのよ……」




 この王女の常軌を逸した言動に俺は驚きを隠せなかった。

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