表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/130

9話 隠した想い1 〈アーネスト視点〉

 夜になり自室で休んでいると、コンコンコンコンッとドアをノックする音が聞こえた。


――いつもなら、こんな時間に誰も来ないんだが。いったい誰だろうか?


「誰だい?」

「アーネスト殿下、ポールですよ! アーネスト殿下にお手紙が届いていますので、急いで持ってきたんです!」


 ポールは5年前、俺が現在交換留学先として滞在している、隣国のロイルについてきてくれた、唯一の従者だ。

 基本的に、秘書の役割をしてくれているが、武術も得意としてるため、護衛も兼ねている。


――ああ、ポールだったか。こんな時間持ってくるなんて、誰からの手紙だ?

 まさかっ、リディからの手紙か!?


 こんな時間にポールが持ってくる手紙は、リディからの手紙に違いないと思い、俺は急いでドアを開けてポールを部屋の中に引き入れた。


「ポール! 手紙の相手は誰だ!?」

「殿下の御想像通り、リディア・ベルレアン侯爵令嬢からの手紙ですよ。良かったですね。はい、どうぞ」


 俺はポールに差し出された手紙を、奪うように受け取った。


「本当にリディからの手紙だっ! いったいどんな内容なんだろうか!」


――リディからの手紙は久しぶりだ! 早く開けて読んで、早く返信しなければ!


 リディからの手紙というだけで、口元が勝手に緩んでくる。


 文通ができるとは言っても、しょっちゅう手紙を送っていたら、国際スパイだとあらぬ疑いをかけられてしまう。

 リディもそれを分かっており、互いに文通は続けるものの、3か月に一度くらいしかやりとりはしない。

 だからこそ、リディからたまに送られてくる手紙は、とても嬉しかった。


「そんなに慌てなくても、手紙は逃げませんって……」


 ポールの声は聞こえるものの、それどころではないと、破らないように急いで手紙を開けた。


「さてっ! リディは何の手紙を送ってくれたんだろう………………は?」


 俺は膝から崩れ落ちた。


「殿下! どうされましたか! 大丈夫ですか!?」


 ポールが何か言っているが、そんなことはどうでもいい。


――リディがロジェと婚約した…………だと? 俺がいない間にこんなことになるなんて。


「嘘だろ……。そんな……くっ……!」


「殿下、失礼は重々承知ですが、少々手紙を見させていただきますよ」


 ポールがそう声をかけてきたため、無言で手紙を突き付けた。

 そして頭を抱え込むように、顔を両手で覆った。


「では、失礼してって……ええ!? リディア嬢が婚約したんですか!? しかも、あのロジェリオ卿と! 殿下……なんと声を掛けたらいいのか……」


 ポールは俺になんと声を掛ければいいのか困った様子だ。


――それはそうだろう。ポールは俺が昔からずっと、リディのことを愛していると知っているのだから。



 リディに恋心が芽生え始めたのは、10歳の頃だった。


 俺とリディとロジェの母親は仲が良く、気付けばいつも3人でよく遊んでいた。

 しかし、俺は王子だから国王になるために帝王学を学ばなければならず、6歳ごろから2人と会えない日が増えた。

 そして10歳で王太子になり、ますます2人と会える日が減っていった。


 それでも、2人は会いに来てくれて、その時間は俺の唯一の安らぎとなった。


 会いに来てくれたロジェとは、いつも基本的に剣術の練習をしていた。

 一方リディは、帝王学の勉強では知ることのない話や、面白い話、他愛無い話を聞かせてくれた。

 逆に、俺はリディに勉強を教えたり、リディの相談に答えたりして、互いにいろいろなことについて話し合った。


 そんなある日、俺はとうとう堪えきれず、リディに帝王学の勉強がつらいと漏らしたことがあった。


 すると、リディはこう言った。


「アーネスト様がつらくて苦しい思いをしているのは、何となく気付いていました。ですが、アーネスト様の性格上、国王になって国を背負う立場の自分が弱音を吐くなんて、と思われていたでしょう?」


「えっ、何で分かるんだ……?」


――リディは俺が苦しんでいることや、俺自身が弱音を吐かない理由に気付いていたのか……!


 その驚きを隠せない俺に、リディは続けた。


「分かりますよ! だってアーネスト様は昔から一緒に過ごしている、大切な幼馴染ですから。だから、アーネスト様が自分で言ってくれる日まで、()えて触れなかったんです。けれど、今日初めて、アーネスト様はご自身の気持ちを教えてくれましたね」


――リディは気付いていたのに、敢えて気付かないふりをしてくれていたのか。

 それにしても、まだまだ幼い妹のような存在だと思っていたけど、そうじゃなかったんだな。


 そんなことを思っている俺に、リディは続けた。


「かなり勇気を出して教えてくれたんですよね。ありがとうございます。けれど、そろそろ無理やりにでも聞き出すところでしたわ! 本当に心配していたんですよ!」

「ありがとうだなんて、そんな……。俺は余程リディに心配をかけていたようだ。実は、話したら心配すると思って隠していたんだけど、もっと早くに自分の気持ちを話しておけばよかったようだね」


「そうですよ! アーネスト様、約束してください。アーネスト様が私にしてくれたみたいに、今度は私がアーネスト様の苦しいときや、つらいときにお話を聞きます。だから、1人で何でもかんでも抱え込まずに、これからは私と一緒に痛みや苦しみを分かち合いましょう」


――分かち合おうだなんて初めて言われたぞ。なんだ……俺は何から何まですべて一人で抱え込んでいたが、こんなにも近くに理解し、支えてくれる相手がいたんだな。


 俺はこの言葉で救われた。

 この日から、俺の中のリディは「ただの妹のような存在」ではなくなり、歳を重ねるごとにリディのことがどんどん気になりだした。


 リディと会った日は、今までよりもずっと嬉しかったし、ドキドキワクワクしていた。リディと会わない日は、今リディは何をしているのかを考え、早く会える日が来ないかと首を長くして待っていた。


 そして、それと同時に、ロジェに対する嫉妬心も出てきた。


 最初は、俺よりもロジェの方がリディと会う回数が多いことに嫉妬した。

 次に、俺には王家の人間のだからと、ロジェと違い(かたく)なに敬語を使うリディが、同じ侯爵家のロジェには敬語を外していることに嫉妬した。


 そして、今まではまったく気にしていなかったが、ロジェがリディを引っ張って走るときに握っている手や、リディの頭を撫でるロジェが目につくようになった。


 だが嫉妬する反面、ロジェのことも大切な幼馴染と思っているため、自分のロジェに対する気持ちに罪悪感も覚えた。

 だから、俺はリディにロジェよりも自分の方に振り向いてもらうため、ロジェに負けないように勉強や剣術も頑張った。


 けれどこのときの俺は、ロジェに負けたくないという気持ちや、リディが気になるという感情が恋心からくるものだと、あまり自覚していなかった。


やっと、5年後のアーネストを出せました!

もう1話、アーネスト視点が続きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
わああああ……やはりアーネストはリディが昔から好きだったか…… どうなもならない留学で強制的に裂かれて、元々嫉妬していた相手と婚約されてしまうとか……地獄ですか……? 切ない(´;ω;`)ウッ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ