表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/130

81話 安心

 来るとは聞いていたものの、思っていたよりも早いうえ、まさかこんな方法で来るとは考えていなかったため、アーネスト様の来訪に私は驚きを隠せなかった。


 だが、外にアーネスト様を締め出したままの状態にするわけにはいかず、私は急いで窓を開け、アーネスト様を部屋に招き入れた。


「アーネスト様、来るとは聞いていましたが、まさか今日来るとは思っていなかったので、本当に驚きましたよ……!」


――それにまた登って来たのね。

 まあ、ここは2階だしアーネスト様の身体能力を考えると、絶対に安全なんでしょう。

 この高さなら、もう止めなくても良いわね。

 それよりも、この家の警備はそんなに甘くないはずなのに……。


 そんなことを考えていると、アーネスト様が満面の笑みを浮かべて、来た理由を話し出した。


「パトリシアからリディの話を聞いて、顔が見たくて来てしまったんだ。あれ以来、落ち着いて話をすることも出来なかっただろう?」


――顔が見たくてだなんて、ちょっと照れるわね。


「私もアーネスト様とお話ししたかったです! 遅くなりましたが、今回の件、本当にありがとうございました」

「いやいや、礼は良いんだ。それより、リディが俺と話しをしたいと思ってくれていたことが嬉しいよ!」

「当たり前じゃないですか! アーネスト様は私の大切な恩人であり、お友達ですから。留学していた間の出来事とか色々とアーネスト様とお話ししたいことが、たくさんあるんですよ!」


――何だか昔を思い出すわ……。

 アーネスト様が留学に行くまで、私の話は全部アーネスト様が聞いてくれていたものね。


 しみじみと過去の思い出に耽りそうになりながら、こうして私はアーネスト様を出迎えた。


 そして、お互い椅子に腰掛けて話し始めた。


「パトリシアから話は聞いていたが、リディが思っていたよりも元気そうに過ごしていて安心したよ」

「おかげさまで、たくさんの人に支えてもらってここまで回復しました」

「それなら良かったよ。俺はいつでもリディの味方になる準備は出来ているから、もし頼りたいことがあったら、無理せず、いつでも遠慮なく頼ってくれ」

「っ……! ありがとうございます。そのように言っていただけると本当に頼もしいので安心できます」


――アーネスト様と話していると、なぜかいつも自然と安心できるわ。

 それに、前も同じように心配して来て下さったわね……。

 あのときのアーネスト様からは、今思い出したらかなり恥ずかしいことを言われたけれど、あのときの私は、その言葉で本当にどれだけ救われたか計り知れないわ……。


 以前夜中に来てくれた日のことを思い出しながらアーネスト様の顔を見ると、自然と顔がほころんでくる。

 そんな私の様子を見て、アーネスト様は不思議そう尋ねてきた。


「どうしたんだい? リディ。 もしや! 俺はどこかおかしいか!? 登ってくるときに頭に葉っぱが付いていたり――」


 控えめな笑みではあったものの、アーネスト様からすれば自分を見て私が笑ったと思っても無理はない。

 その誤解を解くため、私は被せ気味に暴走しかけのアーネスト様に伝えた。


「アーネスト様はどこもおかしくありませんよ。葉っぱもついておりません。以前来てくださったときのことを思い出していたのです。それで、あのとき言ってくださったアーネスト様の言葉が嬉しくって、アーネスト様のお顔を見て、つい顔がほころんでしまいました」


 そう言うと、アーネスト様は焦った様子から一転して、そうかそうかと微笑みながら話し出した。


「あのとき言ったことは、心の底からの本心だ。今でもその考えは変わっていないよ」


 そう言った後、アーネスト様は私の顔を見ると、ふふっと突然笑い出した。

 今度は立場が逆転したみたいだ。


「アーネスト様、私、もしかして今何か面白いことになっていますか?」


 そう問うと、アーネスト様は焦ったように訂正した後、また少し笑いながら理由を話し出した。


「あのとき、リディは本気で夢の中での出来事だと思っていただろう? あのときの、可愛いリディを思い出したら……。っ……!」


――えっ? 可愛い……?

 ま、まあ、幼馴染だからそう思ったのよね。

 アーネスト様にしては珍しいけれど、お兄様も良く私が間違えたり、失敗したりしたときによく言うものね!



 話し方からしてまだ続きがありそうだったが、アーネスト様はハッと息を呑んで固まった後、そのことを取り繕うように急に別の話をしだした。


 私としても、少し戸惑ってしまったため、別の話にしてくれたことは有難かった。


「そ、そうだ! パトリシアからリディのパーティーのエスコートの話を聞いたよ。リディも社交界復帰の相手としてエヴァン卿が相手なら心強いな」

「はい、私もそう思います。ですが、お兄様がペアと言うのは本当に久しぶりなので、そういう面では少し緊張してしまいます。今までは、ほとんどロジェリオがペアだったから……」


 最後の方は消え入りそうな声になってしまった。


 そして、私の話を聞いたアーネスト様の顔から笑顔が消えた。

 かといって、威圧的であったり不機嫌であったり、無表情という訳でもない。

 妙に切なげな表情をしていた。

 けれど、それと同時に何でも受け止めてくれそうな表情にも見えた。


 だからか、アーネスト様には誰にも言えなかった話をしても良いと思えたため、私はロジェリオのことについての話をしてみようと思った。


 ただ、ロジェリオの話をしようと思ったものの、アーネスト様がロジェリオの話を聞きたくない可能性もあるため、まず質問をすることにした。

ここまでお読みいただきありがとうございます(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ