76話 心配〈アーネスト視点〉
弾劾から一カ月ほど経ったが、リディが今どんな思いで過ごしているのかを考えるだけで、胸が張り裂けそうな思いでいっぱいだった。
そのため、俺は辛抱堪らずパトリシアのいる王女宮を訪ねた。
「あら、お兄様! 突然どうしたのですか!」
そう言い、パトリシアは嬉しそうに俺を出迎えてくれた。そして、どうして来たのかを尋ねてきたため、俺は意を決して答えた。
「その……パトリシアに頼みたいことがあって来たんだ」
「お兄様から私に頼み事ですか! まあまあまあ! まずはお座りください」
そう言われ、俺はパトリシアに促されるままに椅子に座った。
「それで、お兄様。どんなお願いなのですか?」
「単刀直入に言おう。俺はリディがこないだの件で恐らく相当落ち込んでいると思うんだ」
「っ! 恐らく……そうでしょうね。ロジェリオさんのことは残念だったわ。リディア様はあんなことがあるまではロジェリオさんのことが好きだったから、いくら今はロジェリオさんに恋愛感情が無いとはいえ、心中複雑でしょう……」
「っ! あっ、ああ。俺もそう考えているんだ。それで心配だから、今のリディの様子を知りたいんだ。だが、俺が行くと困ってしまうかもしれないから、まずは同性の友達であるパトリシアにリディの様子を見て来てもらいたいんだ」
――今は違うとしても、リディが俺ではない人を好きだったなんて事実だとしても受け入れ難いな……。
けれど、過ぎた過去を悔やんだところで今更どうしようもない。
大事なのは今から俺がリディに恋愛対象として好かれるためにどうするかだ。
これからは遠慮なく行かせてもらおう。
そんな俺の心中を知らないであろうパトリシアは、満面の笑みで答えた。
「お兄様! そのお頼み、快くお受けさせていただきます!」
「そうか、良かった! そこでだ、いきなり王宮の馬車でベルレアン侯爵の指示で自宅謹慎をしているリディを訪ねたら、周りの貴族からよからぬ噂が立ってしまうかもしれないが、それは何が何でも避けたい。だから、パトリシアには人目をかいくぐってリディのところへ行ってもらいたいんだ。もちろん俺が補助をする。頼めるか?」
「お兄様! お任せください! 私がリディア様のご様子をしかと確認してきます」
「ああ、助かるよ。ありがとうパトリシア」
そう言うと、パトリシアは嬉しそうに質問してきた。
「それでお兄様、何かリディア様にお伝えしておくことはありますか?」
――リディに伝えたいことはたくさんあるが……。
人に頼むよりも自分の口で直接伝えたいことが多すぎるな。
けど、このことは伝えておいてもらおうか。
「今回はパトリシアが行くが、今度俺も一緒に行って良いか聞いてきてくれないか?」
「まあ! それは確かめておかなければなりませんね! きちんと確かめておきます。他には何かありますか?」
「実は、先程父上から聞いたのだが、一か月後親善交流としてロイルの王太子と王女が来るそうだ。その――」
俺が言いかけた言葉を遮り、パトリシアが叫んだ。
「エリック様に会えるのですか!?」
「ああ。そうだよ」
「まあ! エリック様に会えるのですね……! しかも、サラ殿下にもお会いできるなんて、是非仲良くなりたいわ! っていけない! お兄様の話の途中でしたね。続きをお願いします」
――急に興奮してどうしたんだ?
そういえば、同じ王女として仕事ができると評判のサラ殿下を尊敬していると言っていたな。
会えると知って嬉しいのだろう。
そうに違いない!
そう思いながら、俺は話の続きを伝えた。
「そこでだ、2人が来るということで、パーティーを開くことになった。恐らく伯爵家以上の貴族たちが招待されることになるだろう。その日だが、リディさえ良ければ社交界の復帰日にするのが良いのでは、という情報を伝えて欲しい。今リディは貴族の特に女性の間で人気だとポールが言っていた。だから、少し早いタイミングだが復帰するには良い機会だと思うんだ」
「それは良い機会ですね! 私も賛成です!」
「パトリシアもそう思うなら良かった。あっ、ただこれはリディがこのことを伝えても大丈夫な様子の場合のみ伝えてくれ。本人の心が体に追いついていない状況で、周りから社交界復帰の話をされたら、きっと誰であろうと苦痛に感じるからな。けれど、ベルレアン侯爵はもうそろそろ社交界復帰を、と何人かに相談して考えているようだった。私からもこの話を軽く侯爵に伝えておくよ。だから、もし伝えるとするならもう社交界復帰日はその日になるだろうと伝えてくれ。心の準備は早いに越したことない」
そう伝えると、パトリシアは分かりましたと言ったあと、一言付け加えた。
「まあ、私、これでもリディア様の御心は誰よりも分かる自信がありますので、塩梅はお任せ下さい!」
こうして、パトリシアは明日リディの家に行くことになった。
このパトリシアから言われた言葉は、かなり悔しかった。
ただ、いくら幼馴染でも直近の5年間離れていた人間より、直近の5年間一緒にいたパトリシアの方が、リディの心情を理解できるということは大いに納得できる。
しかし納得できたからこそ、より悔しい気持ちが募った。
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そして俺は、今ベルレアン邸からパトリシアが帰ってくるのを待っているところだ。
――いったいいつになったらパトリシアは帰ってくるんだ?
もう3時間も経っているじゃないか……。
そう思っていると、ホクホクと満足そうな笑みを浮かべたパトリシアが、俺の執務室までやって来た。
「パトリシア! リディはどうだった!? 辛そうじゃなかったか? 泣いてなかったか?」
急いで問うと、パトリシアは言った。
「はい、全快という訳ではありませんでしたが、お兄様が心配しているよりもずっと元気でしたよ。それに、とっても楽しく充実した時間を過ごすことができました! お会いできて本当に良かったです。このような機会をくださりお兄様には感謝しかありませんわ!」
――パトリシアがこう言うということは、リディは病んでやつれているということはないんだな。
一先ず、良かった。
……本当に良かった。
「っ! じゃあ、社交界復帰の話もできたか?」
「はい! できましたよ! あの反応を見る限り恐らく、その日を社交界復帰の日にするはずです」
「そうか! リディのことを応援している貴族たちが大多数だって知ってもらいたかったから、リディがパーティーに来られそうで良かったよ」
「はい! そうですね!」
そうパトリシアが答えた後、俺は質問をした。
「それで……俺が会いに行っても良いか聞いてくれたか?」
「はい! ちゃんと聞いてきましたよ! 来てくれるのは嬉しいけど、お兄様は忙しいだろうし、王室の肩入れ疑惑が出てくるかもしれないから無理はしないでって言ってました。でも、お兄様と一緒にまた来たらお話ししてくれるか聞いたら、喜んでと言ってくださいました!それも、とても嬉しそうに言ってくださって、本当に可愛らしかったですよ!」
ーー来てくれるのは嬉しいって本当か!?
それに忙しさや疑惑についてまで考慮するとは、気遣いまで抜け目がない。
はあ、本当になんてかわいいんだ。
その思いがこみ上げすぎて手を口に翳した途端、声に漏れた。
「……そうか。リディは可愛いな」
「お兄様! リディア様が可愛いのは分かりますが、何か……ちょっと違う気がします!」
パトリシアの言葉を聞き我に返ったものの、俺の顔にはしばらく笑みが浮かんでいた。
パトリシアも久しぶりにリディに会えて嬉しかったのか、ずっと笑顔だった。
――さあ、そろそろ本格始動しなければ。
近々ベルレアン侯爵には話をするとして、俺はリディに好きになってもらうために全力を尽くすしかないな。
皆様大変長らくお待たせいたしました。
待っていてくださった方、本当にありがとうございます(*´ω`*)
更新頻度を上げていきますので、よろしくお願いいたします!
番外編の方ですが投稿の仕組みの問題があるため、新規小説として構えました。
お手数おかけしますが、そちらからご覧くだされば幸いです<(_ _*)>