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75話 お茶会

 私はロジェリオとの婚約破棄騒動があってからというもの、お父様に少しのお出かけ程度なら良いが、基本的に屋敷から出ないようにと言われた。




 お父様は心穏やかに過ごす期間が必要だからそうしなさいと言ったが、私が悪い意味で社交界の注目の的になることを避けるために、屋敷から出ないようにしてもらいたいと思っているのだろう。




 私自身、悪評の的になりたくないため、お父様の指示通り、しばらくの間、ベルレアンの屋敷に籠ることにした。




 私が屋敷に籠って一カ月が経った頃、変装をしてバレない格好をしたパトリシア様が我が家にやって来た。






「リディア様、突然押し掛けるみたいな形で来て、迷惑をかけてしまってごめんなさいね。でもこうしないと、噂好きの人たちの目をかいくぐるのが大変だったから……。リディア様が心配だったし、会いたかったから来てしまったわ」




 パトリシア様は笑いながらそう告げてきたが、私は驚きが隠せなかった。




「そんな迷惑だなんて……。むしろ、私もパトリシア様にはお会いしたかったですわ! ただ、パトリシア様、あなたは一国の王女様なんですから、そうでなくとも危ないことだけはなさらないでください。けれど、あんなことがあったから、しばらく会うことは難しくなると思っていたので嬉しいです」


「安全対策はばっちりだから安心して頂戴! リディア様がそう言ってくださるなら、私も来て良かったわ!」




 こうして、久しぶりに外部の人で、しかもパトリシア様が来てくれたということもあり、私は一カ月ぶりに楽しい時間を過ごすことができた。




 ここ一カ月の間にあった出来事を話し合ってしばらくすると、パトリシア様が重大な話をし始めた。




「実はね、お兄様が隣国のロイルと平和条約を締結したでしょう? ということで、親善交流として、ロイルの王太子と王女が来ることになったの。それで、その来る日が今から約一か月後なのよ!」




――そうよ、私の婚約破棄騒動のせいで弾劾が始まってしまって祝福感が薄れてしまったけれど、平和条約が締結したのよ!


 本当はお祝い気分で終わるはずだったのに、皆様には本当に申し訳ないことをしてしまったわ……。




 私の表情からこの思いを察したのか、パトリシア様が健気な様子で一生懸命励まそうと話しかけてくれた。




「リディア様! 隣国の高官の方は祝賀ムードのままで終わっていますし、ラストダンスまで終わっていましたから、お気になさらないで! リディア様は自己自宅謹慎をしているけれど、今、貴族の女性たちからリディア様の人気は急上昇しているんですよ!」




――え? どこに私の人気が急上昇する要素があったの?


 むしろ侯爵令嬢なのに生き恥を晒してしまって、ロジェリオだけでなく、私自身も大多数の貴族の方々からは完全に見限られてしまったと思っていたのに。




「パトリシア様、それは何かの間違いではないですか?」




 すると、パトリシア様は目を爛々と輝かせながら、説明を始めた。




「あの弾劾があったからこそ、救われた人もいるんですよ! ある人は婚約者が浮気をしていることを知っていたものの好きだから婚約破棄できなくて悩んでいた令嬢が、婚約破棄ができたとおっしゃっていました! そのうえ、婚約者の浮気を悩んでいたことが馬鹿みたいと言って喜んでいました。他にも、エイミー嬢のあの判決を知って、愛人から離れてくれたと喜んでいる奥方や御令嬢もいましたし、婚約者の方や旦那様が以前よりも優しくなって夫婦仲や恋仲が深まったと言われているんですよ!」




――そうなのね。


 嬉しいのやら悲しいのやら虚しいのやら心境が複雑で素直に喜べないけれど、皆が良い方向に向かっているのなら、最善でも理想の形でもなかったけれど、良かったと思って前に進むしかないわね……。




「そんなことが起こっているのですね……。正直皆様からは悪評ばかりが出ると思っていたので、そのように考えてくださる方もいらっしゃって良かったです」




 少し心の中で泣きそうになりながら答えた。




 すると、パトリシア様が少し声を小さくして、私の顔色を窺うようにしながら話しかけてきた。




「……あの、リディア様? ロジェリオさんのことは何と言っていいか、残念なことになってしまいましたけれど、今後の結婚について何かお考えはありますか?」




 ――パトリシア様が気にするのも無理ないわ。


 貴族令嬢として生まれたからには、結婚は避けられない。


 でも……。




「私は貴族令嬢として生まれたため、いずれは結婚しなければなりません。ですが、婚約破棄したばかりでとてもすぐ婚約については考えられません。ただ、こんなことがありましたから、もし結婚するとなったら伯爵以下の方か、離婚歴がある方になるでしょう。もしくは、状況によって修道院に入るのも手かもしれませんね」




 この私の言葉を聞き、パトリシア様は叫んだ。




「なんてことを考えているんですか、リディア様! リディア様は何も悪くないんですから、最高に良い男性と結婚するべきです! それに修道女になったら、もう簡単には私ともお話しできなくなるんですよ! 悲しいです! 本気でリディア様が修道女を目指すのであれば反対はしませんが……。心の傷が癒えていないのに、こんな質問をした私が愚かでした。ごめんなさい。ですが、結婚するのであれば爵位などは関係なく、どうか必ず何が何でもリディア様を幸せにしてくれる人と結婚してください!」




――まあ! なんて優しい方なのかしら。


 パトリシア様は本気で私のことを心配してくれているのね。




「パトリシア様、ありがとうございます。そう言って下さるだけでも、私は嬉しいですよ」


「そんな、当たり前のことを言っただけですよ! そうだ! 話が脱線しすぎてしまいました」




――そうよ!


 隣国の王太子様と王女様がいらっしゃる話をしていたんだわ。




「すみません。私が心配をかけてしまったから脱線してしまいました。王太子様と王女様の話ですよね」


「はい、そうです! そして、この御二方は1か月ほど滞在されるらしいのですが、いらした初日にパーティーを開くことになっているんです。その日が、恐らくリディア様の社交界復帰日になると思います」




――確かに私は一応結婚適齢期だし、貴族令嬢として社交界に復帰するのが早いに越したことは無いわ。


 それに、パトリシア様のおっしゃることが本当であれば、貴族の方々も私のことを受け入れてくれやすいはず。


 それに、隣国の王太子様と王女様がいらっしゃるということは、そちらに注目が集まりやすいはずだから、しれっと社交界復帰できる絶好の機会よ!




「パトリシア様! 教えて下さりありがとうございます!」


「そんな、お礼なんて! この情報をくれたのはお兄様なんですよ!」


「アーネスト様が……?」




――昔からそうだったけれど、何て気遣いのできる人なのかしら。




「流石アーネスト様ですね! リディアが感謝していたとお伝えください!」


「はい、きちんとお兄様にはお伝えしますね。……ところで、リディア様は何度かエリック様とお話したことがありますよね?」


「はい、パトリシア様とのお茶会で数回ほどですが……」




――当時15歳だったアーネスト様と交換留学という形で来たけれど、隣国の王太子のエリック様はまだ12歳だったのよね。


 少しでもエリック様がこの国に馴染むようにと、パトリシア様と私がお茶会をする時に数回同席したことが懐かしいわ。


 今、もうエリック様は17歳なのね。




 そう思い出に耽っていると、パトリシア様が言葉を発した。




「エリック様から、王女のサラ殿下のお話を聞いたのを覚えていますか?」


「はい! 覚えていますよ! 姉上みたいに仕事ができる人間になりたいから、姉上をびっくりさせるくらい僕はこの国で勉強を頑張ると張り切ってらっしゃいましたね」




――エリック様も私とエヴァンお兄様のように、姉弟の年の差が7歳差だから、変に親近感を持って応援していたのよね!




 そう思っていると、パトリシア様は嬉しそうに話し出した。




「私もサラ殿下と同じ王女という立場だからこそ、エリック様のこの話を聞いて是非この機会にサラ殿下と仲良くなれたら良いなと思っているんですが、どうしたら仲良くなれるでしょうか? お母様だけでなく、リディア様のように社交性の高いお方の話を聞きたくて……」


「私の考えで良ければ一つ案があります。まずパトリシア様とサラ殿下は初対面ですから、共通の話題から話したら良いのではないでしょうか? 例えば、それこそエリック様のお話や、アーネスト様のお話をすれば、互いに親しみやすさが増すと思いますよ?」




 そう答えると、パトリシア様が嬉しそうに言葉を返してくれた。




「8歳も年上で、しかも仕事が出来ると有名なサラ殿下と対等に話ができるか不安で緊張していましたが、その話題でしたら変に気取らず話すことができそうです! ありがとう! リディア様! やっぱり私の最高のお友達はリディア様だわ!」


「そう言ってもらえると、嬉しいです!」


「また近いうちに新たな情報を持ってくるわね! お兄様も一緒に連れて来ても良いかしら?」


「アーネスト様もですか……? 私は嬉しいので良いですが、パトリシア様はもちろんのこと、アーネスト様も忙しいと思いますし、もしこのことが露呈したら一介の貴族に王家が肩入れしていると思われますので、どうか無理のなきよう……」




 そう言うと、パトリシア様はハッとした顔をして言った。




「分かったわ! バレそうだったり危なそうだったりしたら来ないようにするけれど、もし仮に来た時はまたお話ししてくれる?」


「はい! そのときは喜んで!」


「じゃあ、私はそろそろ帰ります! リディア様、くれぐれも体調に気を付けてね?」


「はい、パトリシア様もお気をつけてお帰り下さい!」




 こうして、パトリシア様の突撃お茶会が終了した。

お読み下さりありがとうございます(*^^*)


番外編を終わらせてから第二章に入ろうと思っていましたが、第二章も始めてみました。

どうぞよろしくお願いいたします!

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