72話 錯誤
「先程から其方が自分の犯した罪の重さを理解していると一切思えない。其方の今回の起こした出来事の中で、最も被害を受けている者が誰か其方は理解しているか? 言ってみろ!」
そう言われ、エイミー嬢は絞り出すような声で、ぼそりと呟いた。
その言葉に耳を疑った。
「最もということは……誰、でしょう……。陛下……ですか?」
すると、陛下は大激怒と言った様子でエイミー嬢に怒鳴った。
「違うであろう!」
そう陛下が怒鳴ると同時に、エイミー嬢の父親もエイミー嬢に怒鳴りつけた。
「エイミー! 陛下も被害を受けているが、エイミーが最も傷つけた人はリディア嬢ではないか! エイミーは自分が若いから分からないかもしれないが、リディア嬢はまだうら若き未来ある御令嬢なんだ。エイミーは、そんなリディア嬢の婚約を破談させ、名誉を傷付け、心を痛ませたんだ! エイミーはリディア嬢の人生にとんでもない損害を与えたんだ! エイミー、貴族令嬢にとって結婚がどれほど大事なものか分かるだろう?」
すると、エイミー嬢は告げた。
「私だって……私だってリディア嬢に傷つけられました! 私の方が人生もめちゃくちゃにされました! リディア嬢がいなかったら――」
その言葉を聞いた途端、もう我慢できないという様子でコールデン夫人がツカツカとエイミー嬢の前まで来たかと思うと、思い切りエイミー嬢の頬を打った。
「お母様! 何――」
言いかけたエイミー嬢の声を遮るように、コールデン夫人は逆側の頬も打った。
そして、エイミー嬢に向かって叫んだ。
「これだけの罪を犯しておいて、それも一番のあなたの被害者のリディア嬢にそのような濡れ衣を着せるような発言をするなんて、いい加減にしなさい! しかも、あなたは子爵家の人間で、リディア嬢は侯爵令嬢なのよ! もし、あなたがいなかったらリディア嬢が今回のような被害を受けて、お辛い思いをすることはなかったはず……! 相手の立場に立って考えなさい! あなたは今自分が一番辛いと思っているかもしれないけれど、一番辛いのは被害者の方たちよ! あなたが辛がるなんて、図々しいにも程があるわ! 母親だからこそ、はっきりと言うわ。今のあなたは最早、悪人よ! いや、コールデン領地では天使のような子と思っていたけれど、今や天使の皮を被った悪魔よ! それに……こんな風に育ててしまった私も悪魔よ……」
そう言うと、コールデン夫人は力なく項垂れた。
エイミー嬢の方は打たれた頬の一方に手を添えながら、放心状態になっていた。
その様子を見て、私は陛下の方をチラッと見た。
すると、陛下とばっちり目が合った。
――何か意図があってこちらを見ているのは分かるけれど、どういうおつもりなのかしら……。
それにしても、コールデン夫妻は私の気持ちを慮ってくれていることは分かるけれど、どうしてその人たちの娘なのにこうも違うのかしら?
私に対してエイミー嬢が恋心によるライバル心を抱いているからなの……?
そう思っていると、陛下が話し出した。
「コールデン夫人、これ以上は何もするでない。今回は許そう。さて、エイミー嬢の罰も収容所も決まったがこれは国が決めたものであり、ベルレアン家からの要望罰を聞いていなかった。ベルレアン侯爵。もし要望があれば、今この場に参席している者が証人となるため述べよ。その要望をこの場で多数決を取りながら検討し、それにより決まったものを最終結果とする」
そう言われ、お父様がついに口を開いた。
「刑務期間や罰等は法に則っているため陛下の決定通りで一向に構いません。ただ、娘の心の平穏を保つためには、エイミー・コールデンに関わらせたくありません。なので、今後一切娘がエイミー・コールデンに会うことのないようご配慮お願いいたします。また、本来ならば高額の慰謝料を請求したいところです。ですが、コールデン家の今ある貯蓄は結局のところ領地民の金です。もし、コールデン家に慰謝料を請求したら、コールデン家から何らかの形で還元されるはずだった領地民の金を奪うことになり、それは結果として、ただでさえ苦しい状況にある領地民をより苦しめることになります。領地民に罪は無いので、そうなることは避けたいと我が娘も思っています。そのため、家等の財産や貯蓄をコールデン家から没収し、元コールデン領地の今後の運営費に充てるようにしてください。そして、慰謝料はいりませんから、どんな手を使おうと、何が何でもエイミー・コールデンに己の罪を自覚させてください」
お父様がそう言うと、陛下はある提案を出した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます<(_ _*)>
次話はエイミー父視点(1話だけ)の予定です。




