71話 欲が招いた結果
その内容はエイミー嬢からすると、最悪な情報だったに違いない。
「其方は今日からただの平民になった。よって、貴族たちが収容される牢獄ではなく、平民たちが使っている牢獄に収容することになる」
すると、へたり込んでいたエイミー嬢は驚きの表情になり、涙を流し両膝を突いて、胸元で両手を握りしめ懇願するように、陛下に告げた。
「どうか、お願いです。今まで私は貴族だったのです! 収容されるような平民たちと同じ場所にいたくないです! 耐えられません! 私が罪を犯したときは貴族でした! だから収容する場所も、せめて貴族と同じ場所にしてください!」
――彼女はそんなわがままを言える立場ではないでしょう!?
何様のつもりよ!? いい加減にしなさい!
自分の立場をまだ分かっていないし、それどころか全く反省していないのね!
どんな神経を持っていたら、この場でそんな嘘みたいに非常識な発言ができるのかしら……!
彼女は平民たちのことを守る立場の人間ではなく、ただただ見下す存在としか思っていないに違いないわ!
それに、耐える耐えられないの話ではないでしょう?
これは、己の犯した罪による罰なのだから。
彼女の自己中心的な言い分を聞いていたら、本当に腹が立ってくるわ……!
周りの貴族たちも、自分の立場を理解していない彼女の発言に、呆れ果てた様子になっており、一部の貴族に至っては蔑視している様子だった。
彼女の両親に至っては、必死に彼女を止めようとしていたが、これ以上勝手に話したり動いたりして罪が重くなることを避けたかったのか、彼女の方を見て、必死の形相で首を横に振っていた。
一方でこの発言に対し、陛下は取り乱し怒ることもなく、ただただ冷静にエイミー嬢に言葉を返した。
「よし、分かった。其方がそんなに平民たちと同じ場所にいたくないというのなら、其方の最後の願いとして、そのように取り計らうこととしよう。場所も、貴族が収容される場所にしてやろう。ただし、私の指示する場所は素直に受け入れるんだ。そこも嫌だというのはもう許さない。絶対にそこに収容するぞ。変更はもう無しだ。良いな?」
この陛下の言葉に、エイミー嬢は感謝の言葉を述べた。
「この国の太陽であらせられる国王陛下の御慈悲に、深く感謝いたします! 平民たちと同じ場所でなく、貴族が使用する場所であるのなら、陛下の指示なさる場所のどこでも構いません」
――やはり、この言い回しが出来るということは、貴族教育の一部はきちんと受けているみたいね。
けれど、本当に浅はかで業の深い子ね。
初めて会ったときは、まさかこんな性格だなんて1ミリも思わなかったのに。
エイミー嬢に言われて自分が嫌な思いをしたから、こんなこと思いたくないけれど、この子がいなかったら、なんて思ってしまうわ……。
それにしても、陛下は罪人の願いを聞くなんて、そんな性格ではないはずなのに、どうしてそのようなことを言い出したのかしら……?
しかも、よりによって不敬罪までも犯したエイミー嬢のこのわがままを聞き入れるなんて……。
そんなことを思いながら、私は陛下の言葉を待った。
このとき、他の参席している貴族たちも同じことを思ったのか、訝し気な表情や不信感を纏った表情で陛下の言葉を待っていた。
すると、陛下はエイミー嬢の返答を聞きうんうんと頷きながら、衝撃の発言をした。
「其方の願いを考慮し、独房に入れてやろう」
この発言を聞いた瞬間、エイミー嬢はピキンと凍り付いたような表情になった。
しかし、それに構うことなく、陛下は口を開いた。
「そうだ、刑務官長」
陛下は突然、弾劾に刑務代表者として参席していた刑務官長に声をかけた。
「はい、いかがなさいましたか?」
「今空いている貴族用の独房は、確か1つしかなかったよな?」
「はい、長期収容対応の貴族用の独房は1つしか空いていません。しかし、貴族の中でもかなり悪質な人間が入る場所です。そのため、窓は本当に有って無いほど小さく明かりが無いと暗い場所なうえ、鉄格子がはめられており、壁も床も石でできている部屋で、夏もですが冬は特に寒く、雨が降ると湿気が酷いような場所ですが……」
「良いのだ。本人が貴族の牢獄が良いと言ったのだから。そうだろう? エイミー・コールデン」
すると、ものすごい速さで立ち上がり、ひきつった顔でエイミー嬢が陛下に言葉を返した。
「ぃ、ぃゃょ……嫌。へ、陛下、あ、あの私、まさかそのような場所とは思っていなくて……それなら、平民と同じでも……」
この彼女の発言を聞いた陛下は、とうとうエイミー嬢に怒鳴りつけた。
「私は其方に、私の指示する場所且つその場所の変更は無しで良いと皆の前で言質をとったぞ! 其方は罪人だ! 何もかも思い通りになると思うな! 自分で選択したのだっ! それに其方は自分の犯した罪に対する罰を受ける立場だ! 先程からの言動の数々、いったい何様のつもりだ!? これ以上何か言おうものなら、覚悟しておけ! そうだ言い忘れていたが、娯楽はもちろんのこと、手紙のやりとり等の外部との交流も一切無しだぞ。隔絶された場所で1人で反省するが良い」
その発言に、参席者たちは安心したような顔をしていたが、エイミー嬢や彼女の両親は参席者とは正反対の絶望的な顔をしていた。
そんなエイミー嬢たちの反応は関係ないと言うように、陛下は言葉を続けた。
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