表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/130

68話 己の罪

 エイミー嬢が、会場の中央に辿り着いた。

 連れて来られる際、暴れ出さなかったため、衛兵に挟まれているものの無理矢理引きずられるということはなく、俯きながら自分の足で歩いてきた。


――ついに来たわね。

 やけにおとなしくて、不気味だわ。

 弱り切って見えるわ……。


 そう思いながら、エイミー嬢に目を向けた。

 皆も同じことを思っているのだろう。

 参席している他の貴族たちも、おもむろに顔に出すわけではないが、驚いた様子を垣間見せていた。


 すると、陛下が口を開いた。


「エイミー・コールデン、今から其方の弾劾を再開する。再開に当たり、其方の犯した罪を述べよう。今現在、其方は合計で5つの罪を犯している。1つは王女宮の風紀を乱したこと、2つは職務怠慢、3つは横領、4つは名誉棄損、5つは王室侮辱による不敬罪だ。これに関して、間違いがあるという者は、今申せ」


 そう言うと、少々くたびれ気味の服装で、青ざめた顔をしているコールデン子爵が、挙手をした。

 そして、それを見た陛下がコールデン子爵に声をかけた。


「コールデン子爵、何か言いたいことがあるようだな? 良いだろう、申せ」


 そう返され、コールデン子爵は恐る恐ると言った様子で話し出した。


「お、王室から届いた手紙に、今陛下が述べられた罪状が書かれておりましたが、私共は具体的な出来事を知りません。それに、これらの罪状の行為を私共の娘がするということが、とても考えられません。失礼を承知の上で、どうか質問させてください。……っな、何かの間違いではないでしょうか?」


 その言葉を聞くや否や、エイミー嬢がバッと顔を上げて、コールデン子爵夫妻を見た。

 そして、目に涙を溜めながら、なぜか首を横に振っている。


――自分は何もしていないとでも言いたいのかしら?


 そう思いながら、私は彼女の様子を窺っていた。

 一方で私の考えとは反対に、弱り切った自分の娘の姿を見た、子爵同様少々くたびれ気味の服装のコールデン子爵夫人は、ひどく痛ましげな顔でエイミー嬢を見つめていた。


――夫人のあの表情……エイミー嬢がこんなことをしたということ自体を信じていないような表情ね。

 それか、こんなことをしても怒らないことが当たり前で、甘やかしすぎたの?

 いや、流石にそんなことは有り得ないわよね。

 ということは、本当に今まで今回の出来事を起こしそうといった片鱗を見せたことが無かったということなのかしら?


 私は、コールデン子爵夫妻の表情を見る限り、エイミー嬢が罪を犯していないことを信じている様だったため、内心少し戸惑っていた。


 しかし、そんなことは意にも介さないと言った様子で、陛下はただ淡々と事実を述べた。


「間違いということは有り得ない。其方の娘は先の日にあった夜会の弾劾の際、皆の前でこの罪を証明したしな」


 すると、その陛下の言葉を肯定するように、参席していた貴族たちが次々と肯定の頷きを見せた。


 そして、陛下はコールデン子爵夫妻に娘がしでかしたことを理解させるように、夜会での出来事、その際の言動について説明するよう、記録官に指示を出した。


 その説明を聞いている途中、コールデン子爵夫妻は顔を赤くしたり青くしたり白くしたりと百面相の状態になっていた。


 そして話を聞き終わると、コールデン子爵が口を開いた。


「へ、陛下、愚かな私たちに丁寧に説明してくださり、感謝いたします。わ、我が娘は取り返しのつかない、と、と、とんでもない罪をぉ、お、犯してしまいました。どうか、娘には己の犯した罪相応の罰をお与えください」


 そう言うと、話を全く知らなかった当初と違い、夫婦は2人揃って怒りの表情でエイミー嬢を見た。

 すると、本当は勝手に話し出してはいけないが、エイミー嬢がコールデン子爵夫妻に声をかけた。


「お父様! お母様! ち、違うんです! 皆が私を――」


 また自分は悪くないと言い出すかと思ったが、コールデン子爵がエイミー嬢の声に被せるように淡々と話した。


「本当に違うと言うのなら、今から自分で証明するんだ」

「っそ、そんな! 無理に決まっているじゃないですか! お父様! 私のことを見捨てるのですか!? お母様も何とか言ってください!」

「見捨てているわけではない。罪を犯していなければ罰されない。ただそれだけだ。それに、それなりの証拠がないと弾劾なんて出来ないはずなんだ……」


 そう淡々とエイミー嬢に言葉を返すコールデン子爵は、怒りの中に悔しさが垣間見えるような顔をし、堅く拳を握りしめていた。

 夫人の方も、最初は怒っているようだったが、勝手に話したりもちろん叫んだりするわけにもいかず、両手で顔を覆い、怒りを何とか落ち着けている様だった。


――許可も出されていないのに話し出すのはご法度だけれど、それでもエイミー嬢の言葉を無視せずに、エイミー嬢のために最低限の言葉を返しているし、コールデン子爵はエイミー嬢のことを愛しているからこそ、恐らく突き放しきれないのよね……。

 ただ、娘だからと言って励ます言葉や甘い言葉をかけているわけではないわ。

 コールデン子爵夫妻は初めて見たけれど、この人が自分の子どもに貴族教育を受けさせていないとは思えない。

 それにもかかわらず、エイミー嬢はどうしてあのような性格になってしまったのかしら?


 そう疑問に思いながら、私はコールデン家について考えた。

 すると、陛下がかなりドスの利いた声で声をかけた。


「静粛に! 今は私語を許しておらぬぞ。今回は見逃すが、以後は許さん」


 そう言われ、コールデン子爵もエイミー嬢もビクッとした様子になり、子爵は深く一礼して口を噤んだ。

 その様子を見て、陛下が話し出した。


「先日はエイミー・コールデンが弾劾中に錯乱した状態になったためできなかったが、今日こそはエイミー・コールデンが受ける罰を発表する。発表後、反論がある者はその場で述べよ」


――最終的に陛下の判断だから、どのような処分に至ったのかしら?

 王室侮辱罪もあったから、相当重いはずよ。


 私はドクドクと自分の心臓の音が聞こえるくらい緊張しながら、陛下の言葉を待った。


「発表する! まず、5つの犯した罪を総合しエイミー・コールデンを懲戒免職とする。その中でも、横領罪、不特定多数に対する名誉棄損罪、不敬罪等の罪に関しては別の罰を与える。まず横領罪を3年、名誉棄損を5年、不敬罪を3年とし、その累計として禁錮11年の罰に処す。その後は反省次第で、修道院に送るかどうかを判断しよう。また、死刑になる場合もある不敬罪があまり重くない理由を述べておくが、エイミー・コールデンのそのときの精神状態と、王女宮の主であるパトリシアが対応できる段階で、きちんと対応できていなかった不手際があったからだ。よって、このような処分にした。逆に、名誉棄損が他の罰よりも重い理由としては、夜会後の告発により、エイミー・コールデンの虚偽による名誉棄損で1名自殺未遂者が出たということが判明したからだ。ただ、自殺させてやろうという意思がエイミー・コールデンにあった訳ではない。よって、自身の言動により名誉棄損を受けた人間が自殺に走ったという事実を重く受け留めさせるという意図があるため、名誉棄損の罪が重くなっている」


 この国では、科料、拘留、罰金、禁錮、懲役、死刑の順に罰が重くなる。

 ただ、11年という長い歳月、妙齢の貴族令嬢が働くことも出来ず、社会から隔絶された場所に閉じ込められたまま過ごすというのは、懲役より禁錮刑が軽いとはいえ、かなり重い罰だと容易に読み取ることができる。


――禁錮11年……陛下の説明を踏まえた上で彼女の犯した罪を考えたら、至極真っ当な判決ね。

 不敬罪だけで死刑になる可能性すらあるのだから。

 それに、未遂に終わったとはいえ、自殺者まで出たのよね。

 言葉は人を生かしも殺しも出来るもの……。

 陛下の判断に私は異論無いわ。

 ところで、「まず」ということはまだ処分があるのよね。

 どうなるのかしら……?

 

 私はエイミー嬢の方を見た。

 すると、ばっちりとエイミー嬢と目が合った。


ここまでお読みいただき、大変ありがとうございます!


そして、変換ミス等の誤字や脱字の報告をしてくださる方、お手間を取らせてしまい申し訳ございません。

ですが、おかげさまで大変助かっております。

本当にありがとうございます<(_ _*)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ