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6話 勢いの告白

 部屋を出ると、目を合わせるようにロジェが話しかけてきた。


「リディ、僕が王女宮に異動して忙しすぎてしばらく会えなかったけど、元気だった?」


 ロジェが私に話しかけてくれた。

 今までは当たり前のように思っていたけれど、こうして気遣って心配してくれるロジェに今更ながらドキドキしてしまう。

 しかし、このドキドキがロジェにバレてはいけないと思い、私はロジェから目を()らして答えた。


「え、ええ。元気だったわよ」


――せっかくロジェが話しかけてくれたのに、目を逸らしてぶっきらぼうな返事をしてしまったわ!

 私ってばどうしてこんな天邪鬼(あまのじゃく)なことをしてしまうの!?


 こんなにもぶっきらぼうな返事なのに、またもロジェが笑顔で話しかけてくる。


「元気なら良かった! 今日のリディはいつもと少し違う感じがしたから。もしかして、僕としばらく会えなかったから()ねていたの? かわいいな~、リディは」


 そう言いながら、ロジェは私の頭を撫でてきた。

 確かにロジェと会えなくて寂しかったし、拗ねていた部分もなくはない。

 しかし、今はそんなこと考える余裕もない。


――ロジェに撫でられた! 今まで何とも思わなかったのに、意識しすぎてもう心臓が爆発寸前よ!


「別に拗ねてないわ」


 心の内を隠すことを意識するあまり、また冷たく言ってしまった。

 それに、頭を撫でているロジェの手をさりげなく払ってしまった。


 すると、ロジェは先ほどまでの笑顔を消し、少し真剣な顔になった。


「リディ、あのさ……」


 ロジェに声をかけられたが、すでに馬車の前にたどり着いていた。


「話は中でしましょう」

「あっ、ああそうだね」


 そうして、2人で馬車に乗り込んだ。


「リディ……僕は知らないうちにリディを怒らせるようなことをしたのかな? もしあるなら言ってくれ。謝るよ」


――ロジェは全然悪いこと一つもしていない。きちんと説明しなくちゃ。


「ロジェが悪いんじゃないの。私の気持ちのせいなの」

「リディの気持ちのせい? どういうこと?」


 ロジェは心配そうに、私の話に耳を傾けてくれた。

 だから、私は意を決して自分の気持ちを素直に伝えることにした。


「単刀直入に言うとね、私、ロジェのことが好きみたい……恋愛対象として」


 私はロジェの顔を真っ直ぐに見ることが出来ず、またもロジェから目を逸らしてしまった。

 多分今の私の顔は、相当赤面だろう。


「えっ……? リディが僕のことを恋愛対象として好き?」


 ロジェは混乱している様子だった。


「私は今まで、ロジェのことを恋愛対象として考えていなかったわ。けれど、周囲の人には、ロジェのことを恋愛対象として好いていると思われていたの」

「そ、そうだったんだ……」


 ロジェはまだ混乱中のようだったが、私は続けた。


「それで本当に、ロジェを恋愛対象として好きなのか、自分の本当の気持ちを確かめるためにポーラと話をしてみたの。それで、話せば話すほど、私はロジェのことを恋愛対象として好きなんだって気付いたの」


――人のことならどんな感情でも察知しやすい方なのに、まさか私が、自分自身のことになると、こんなにも鈍感な人間だなんて思ってもみなかったわ。


「でも、今まで兄のような存在と思って接していたのに、ロジェのことを好きと自覚した瞬間、どんな態度をとったら良いか分からなくなっちゃって……」


 私は恐る恐るロジェの顔を見た。すると、ロジェは赤面して見事にフリーズしていた。


「ロジェ? 聞いてる?」


 ロジェの目の前で何度か手を振ると、ハッと覚醒した。


「あ、ああ! 聞いているとも! リディが僕のことをその……す、好きなんだよな?」


 裏返りそうな声で質問するロジェに、私は肯定の意を示した。


「そ、そうか。それであんな態度をとっていたのか。リディに嫌われたんじゃないかと思って焦ったよ」


――私に嫌われたかと思って焦っただなんて、思わせぶりなこと言って期待させないでよ! もしかして、こんな台詞に慣れすぎていたから、恋心を自覚できなかったのかしら?


「嫌いになるわけないわ。だって、ロジェのことが好きなんだから」


――好きと言ってしまえば、意外とためらいなく言えるものね。


「私はもう婚約・結婚の適齢期に入っているから、そろそろそのことについて考えないといけないの。だから、当たって砕けろってことで、今この私の気持ちをロジェに伝えたの。ロジェは私のこと恋愛対象として見ることが出来る? 婚約や結婚することを考えられる? それだけ先に教えて」


――本当はこんなことまで言うつもりじゃなかったけど言っちゃった!

 恋愛対象として見ることが出来ないと言われたら、失恋確定ね。

 けど、もう全部言い切ったから、悔いはないわ!


 私の話を真剣に聞いていたロジェは、片手で赤らめた顔を覆って話しだした。


「……リディ、勝手に砕けないでくれる? 今まで僕はリディのことを妹みたいな存在として好きと思っていた。だから、恋愛対象として見られるかは正直分からない。けど、もしリディと僕の婚約が決まったとしても、嫌じゃないし、むしろ嬉しいとさえ思うかもしれない。僕に3日、時間をくれないか? それまでに考えて、必ず返事の手紙を送るよ」


「分かったわ。突然困らせるようなことを言ってごめんね。お返事、待ってるわ」


――すぐに断られるかもしれないと思っていたけれど、断られなかったわ!

 それに、勝手に砕けないでくれる?って、砕けない可能性もあるということよね!?

 3日後にならないと分からないけれど、少しは期待していいのかしら?


 そうこうしているうちに、馬車は我が家に着き、今までにない微妙な空気のままロジェと別れた。



「お嬢様、どうでしたか? まさか、ロジェリオ卿と帰ってくるとは思っていませんでした」


 帰ってきた私にポーラがすかさず質問した。


「私もロジェと一緒に帰ってくるとは思っていなかったし、それどころか帰りの馬車の中で、勢いで告白してしまったわ」


 今思い返すと、気が動転してハイになっていたとしか思えない。


「お嬢様、よくやりました! 告白したことで、ロジェリオ卿もお嬢様のことを意識し始めたことでしょう。お嬢様もだいぶですが、ロジェリオ卿はお嬢様を遥かに(しの)ぐレベルで恋愛ごとに鈍感のようですので」


――正直図星すぎて何も言えないわね。

 というか、そんなにも私ってロジェのことが好きだと分かりやすかったのかしら?


「それで、告白の返事はどうだったんですか?」


 真顔ながら、らんらんとした期待に満ちた目でポーラは私を見つめる。


「3日後までに、返事の手紙を送ってくれるって」

「3日後ですか! それは3日後が楽しみですね」

「そんなの返事次第よ……」


 ポーラには素気なく返したが、実のところ私も少し期待していた。

 しかし、手紙は3日目の夕方になっても届かなかった。



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