53話 自滅へのカウントダウン
エイミー嬢の衝撃的な発言に、会場中で大声が飛び交いだした。
それを止めるため、アーネスト様が声を発した。
「静粛に! 今からエイミー嬢の意見を聞こう。もし、今から話す内容に虚偽が認められた場合、罪が重くなることを理解したうえで、話すように。それと、エイミー・コールデン子爵令嬢の今日の夜会の同伴者は前に出てきなさい」
アーネスト様がそう声をかけると、酷く具合が悪そうな老人が前に出てきた。
それを確認し、アーネスト様が声をかけた。
「そなたは、コールデン子爵ではないな?」
「はい、殿下。彼女の実家が遠く、父母が来られないということで、親戚筋の私が同伴者となり来ました」
「そうか。では、其方が今日の彼女の保護者の役割というわけだな。では今から彼女が話す内容を聞き、もし、これ以上の彼女の発言を止めたほうが良いと判断したら、其方だけは途中で彼女にこれ以上話さないように指示しても良いこととする」
「――っありがとうございます!」
周りの貴族の話し声に耳を傾けると、皆同じことを言っていた。
「アーネスト殿下がわざわざあのような許可を事前に出すということは、エイミー嬢は何かヤバイことでも言いだすのか?」
――アーネスト様は、エイミー嬢の発言が行き過ぎたものにならないように、牽制しているのね。
この状況で、彼女は何を話すんでしょう?
というよりも、普通の令嬢なら効果があると思うけれど、婚約者同伴の男性にファーストダンスやラストダンスの申し込みをするようなエイミー嬢にそんな牽制が効くのかしら?
そう思いながら、私はアーネスト様に許可を出され話し出したエイミー嬢の話を聞いた。
「まず、職務怠慢についてですが、私は自分のすべき仕事がほとんど分からず、途方に暮れていただけで、職務を怠慢しようと思って、仕事をしていなかったわけではありません! それに、そんな中でも覚えている数少ない仕事だけでもしようと、出来ることから取り組んでいたのに、職務怠慢と見做されるだなんてあんまりです! それに、買い出しのときに帰るのが遅くなったのは、迷子になっていただけです!」
――良く口から出まかせの嘘を、こんなにも堂々と言えるわね!
恥は無いの?
エイミー嬢の答えに呆れていると、アーネスト様がエイミー嬢の発言に対し答えた。
「まず前提として、すべき仕事が分からないのであれば、分かっている者に訊けば良いし、道に迷っていたのであれば、道が分かる者に訊けば良いだけの話だ。勤務時間中に雑談はするのに、聞かねばならぬ肝心なことを聞かない時点で、それも職務怠慢だ。それに、買い出しのとき、迷子になり帰りが遅くなっていたと言っていたが、内部告発により、街で会った人間と仕事でない交流をしていたことは分かっているぞ。まあ、告発が無くとも、何回も行っているのに、毎回迷子という今の証言で、其方の発言の矛盾が証明されているがな」
すると、エイミー嬢はかなり怒った様子で目を吊り上げ、空中に向かい叫んだ。
「どうしてみんな意地悪なのよ! 人のちょっとした間違いの揚げ足を取って楽しいですか!? 出来る仕事はしているっていうのに、そんなにそれ以外の仕事をしないことが、いけないことなの!? 街で知り合いに会ったんだから、ちょっとカフェに行くくらい良いじゃない! 侍女はこんな少しの娯楽も許されないの!? 王都の人たちは、みんな私に冷たすぎるわ! コールデン家の領地には、こんな意地悪な人いなかったわ!」
エイミー嬢がそこまで言うと、パトリシア様がとうとう口を開いた。
「私は侍女にはきちんと休暇を与えているわ。あなたのその交流は、その休暇を用いてすることであって、勤務時間中にすることではないの。だから、あなたのしたことが職務怠慢と見做されるのよ。決して、王都の人があなたにだけ冷たいわけじゃないわ。ただ、あなたがルールを守らないから、このような状況になっているだけであって、この件に関しては場所や人は関係ないわ。自業自得よ」
それを聞き、エイミー嬢はもっと大声で、あろうことかパトリシア様を怒鳴りつけた。
「……っうるさい! 横領の件だって、ただの誤解です! 私は、パトリシア殿下の人気が低そうだと思ったから、気を遣って飴を買い与えて、貴族の中でパトリシア殿下の株を上げようとしてあげていただけなのに……。こんな風に横領と言い掛かりを付けられるだなんてあんまりだわ! せっかく、飴をあげて私が貴族のみんなから好かれたら、私の主であるパトリシア殿下も好かれると思ってしたことなのに。どうして、ここではこんなにも思い通りにならないのよ!」
エイミー嬢の同伴者は、序盤から必死にエイミー嬢に黙るように訴えかけているが、エイミー嬢は、まったくもって聞く耳を持っていない。
そして、アーネスト様も敢えて間に入ることもしない。
――一国の王女に、子爵令嬢が怒鳴った上、こんなにも失礼な発言をするだなんて、本当に命が惜しくないの?
いくら猫を被っていたとはいえ、こんな性格の人のことを、ロジェはかわいいと言っていたの?
彼女の隠された本性が露わになるのを見て、私は恐怖を覚えた。
周りの貴族たちも、一国の王女相手に怒鳴りつける彼女の様子を見て、絶句している。
ロジェに至っては、放心状態になり彼女のことを見ている。
そんな中、パトリシア様はエイミー嬢に怒鳴られ終わると、エイミー嬢に笑いかけ優しそうに話しかけた。
「どうして、私の人気が低いと思ったのかしら?」
そう言葉を放ったパトリシア様は、一見笑顔のようだが、完全に目が笑っていなかった。
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