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51話 弾劾の序章

ポールに連れて来てもらい、サイラス卿からやりとりの内容を聞くことが出来た。


――ロジェはラストダンスの誘いを断ったのね……。

 では、追放処分に関しては変更しましょう。

 冷静に考えると、ロジェも始まりは被害者だもの。

 私にした行為自体は許せないけれど、この行為に繋がるまでに、様々な要因や人物が入り混じりすぎているわ。


 そう思い、私はアーネスト様に話しかけた。


「アーネスト様、ロジェの追放処分の具体的な内容を変更したいので、弾劾のときは処分名目と、追放処分以外の処分内容に止めてくださいませんか? その後、改めて個人間で追放処分にあたる処分について告げたいのです」


 すると、アーネスト様は頷きながら、話した内容についての答えを返してくれた。


「ああ、構わない。ロジェはラストダンスをきちんと断ったんだ。ロジェの性格上、かなり勇気のいる決断だったと思う。それに、ロジェが自分のしたことの重大さを理解したとすれば、必要以上に晒し物にする必要もない。貴族令嬢と両家家門の体裁を著しく損ねたことが民事裁判では重罪になる。また、風紀を乱したこともいわゆる国家公務員の法に照らし合わせると罪になる。国に直属で仕える者として、国の威厳を損なわせたため、いずれにしろ弾劾は避けられなかった。けれど、ロジェは刑法に関する罪は犯していないから、リディの意向を汲もう」


――聞き入れてくれて良かったわ。

 アーネスト様も周りに人がいるから口では説明くさいことを言っているけれど、私の気持ちを分かってくれたのね。


「ありがとうございます」

「礼は要らないよ。それが妥当だと思ったから、受け入れたんだ」


 アーネスト様はそう言った後、ベルレアン家の人間とライブリー侯爵に聞こえるように話し出した。


「基本的に弾劾のときは俺と、所属宮の主としてパトリシアが話すことになると思います。その際、もし俺たちが話を振ったら答えてください」


 その言葉を聞き、私たちベルレアン家やライブリー侯爵は肯定の意を示した。

 そして、ベルレアン家の人間や、ライブリー侯爵がアーネスト様達と一緒にいるのはおかしいということで、私たちは一先ず、不自然にならないように、他の貴族たちと同じ場所かつ、アーネスト様に近い位置へと移動した。


 すると、ついにラストダンスが終わった。

 その後、アーネスト様の挨拶によって、高官の方々が完全に移動したのを確認してから、弾劾が始まった。


「祝いの席の締めにこのようなことをするつもりはなかったが、今から王城勤務の者の弾劾を始める。王女宮副騎士団長ロジェリオ・ライブリー、王女宮侍女エイミー・コールデン、以上の2名は、前に出ろ」


――いよいよ始まるのね。


 そう思いながら、2人が出てくる場所を見つめていると、戸惑った顔のロジェと、とてつもなく嫌そうな顔をしたエイミー嬢が歩いて出てきた。どうやら、エイミー嬢は先程一緒にいた御尊老に諭されて、仕方なく出てきたようだ。


 そして、2人が完全に前に出てきたことを確認すると、アーネスト様は2人に告げた。


「本来なら国王陛下が弾劾するが、諸事情により、本件は私が弾劾責任者となる。まず、今から2人の弾劾原因について述べる。私が2人の弾劾原因について述べるまでは、2人とも言葉を発してはならぬ。2人の罪状を述べ上げた後、反論があれば聞こう」


 そう言うと、アーネスト様は一瞬苦々しい顔をして、一呼吸置いた後、話し出した。


「まず、ロジェリオ・ライブリーからだ。其方は、王女宮騎士団の副団長であり、騎士たちの見本となる立場にもかかわらず、主に王女宮の風紀を乱す行いをした。まず、婚約者がいるにもかかわらず、王女宮の侍女と恋仲だという噂が広がった。それも、信じられない早さで、多くの貴族の耳に入るほど広がった。そのこと自体は異常ではあるものの、些細な誤解や、悪戯が原因の場合であったら、風紀の乱れに繋がったとしても、決して罪に問うことはなかった。しかし、この噂を自覚し、なおかつライブリー家と、婚約相手となるベルレアン家から、恋仲の誤解を解くように忠告を受けたにもかかわらず、ロジェリオ・ライブリーは、例の侍女と恋仲と誤解される行動を取り続けた。気付いた者もいるだろうが、分かりやすい例を言うと、ロジェリオ・ライブリーは婚約者を伴い会場に来たにも関わらず、先程、恋仲と噂される侍女とファーストダンスを踊った」


 アーネスト様がファーストダンスの話を出した途端、会場中にどよめきが走った。


「最低ね! 私がそんなことを婚約者にされたら、絶対に生きていられないわ」

「噂は嘘で、ファーストダンスのときも、遠くから見たから見間違いかもしれないって思っていたのに、本当に別の人とファーストダンスを踊っていたのね……! そんな人ではないと思っていたのに……」

「リディア嬢はどうして、婚約者とのファーストダンスを他の女に譲ったんだ? リディア嬢が踊らないでとか、私と踊ろうと言って止めれば良かっただけの話じゃないか?」

「あなたは男だから分からないでしょうけれど、ファーストダンスが重要視されるこの国で、好き好んでファーストダンスの相手を譲る女性がいると思う? 絶対に譲らざるを得ない状況に追い込まれたに違いないわ! 会話は全く聞こえなかったけれど、ファーストダンスが始まる前、前に出ている2人がまるで同伴者同士のように横に並んで、リディア嬢と対面して何か話している様子だったもの。この時点で、おかしいでしょ? だってロジェリオ卿の同伴者はリディア嬢なのよ?」

「いや、男とか女とか関係ないよ。そんな忠告を受けた後なのに、婚約者を同伴しながらファーストダンスを別の女性と踊るなんて、騎士や貴族かは関係なく、人としてあり得ないだろう。ここまでしているのに、恋仲という噂は誤解ですというのは、通用するわけない」



――私はロジェに悪気が無いことは察しているけれど、そんなロジェの性格を知らない人が、一貴族としての目線で見たら、この反応が当たり前よね。

 やりすぎかもしれないと一瞬不安に思っていたけれど、この反応を見るにそうではないわよね。


 そう思いながら、ロジェの顔を見た。

 すると、ロジェは信じられないくらい顔色を悪くし、直立不動の状態でアーネスト様の前に立っていた。


 私はその様子を見て異様なまでに緊張しながら、引き続きアーネスト様の話を聞いた。


「恋仲の噂が事実でなかったとしても、忠告されて尚、このような行動を取るということは、王女宮の風紀を乱した者とみなせると判断した。また、ロジェリオ・ライブリーは騎士という人々を守る立場でありながら、自身の婚約者という身近な女性の体裁を著しく傷つけた。残念なことに、現状では男性側に非があったとしても、貴族の令嬢側の体裁がより傷ついてしまうことが多い。そのため我が国では、当事者の希望でこのような事案を民事裁判にかける。その際、ロジェリオ・ライブリー側の立場の人間のほとんどが重罪に処される。このようなことを、王女宮で働く人間、しかも騎士が起こしたということは、王城の特に、王女宮の威信の失墜にも繋がると判断したため、弾劾が決定した。処分内容はエイミー・コールデンの弾劾原因を述べた後に宣告する」


 このロジェの弾劾原因を聞いた貴族たちの反応を見ると、弾劾したこと自体に納得している様だった。

 それと同時に、直接は話しかけてこないものの、私にも痛いほどの視線が刺さっていた。


――決して最良な方法ではなかったかもしれないけれど、無意識や無自覚を自覚させるために、幼馴染兼婚約者を弾劾するように進言したのは私自身よ。

 それなのに今、皆に見られているこの状況で、婚約者に浮気された、哀れで可哀想な女に見えるような振る舞いをすることは、私が私自身を許せなくなるから、絶対にしてはいけないわ。


 そう思ったため、私はただ、感情を押し殺した顔でロジェを見つめ続けた。

 すると、アーネスト様が口を開いた。


「続いて、エイミー・コールデンの弾劾原因について述べる」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ついに、弾劾が始まりました!

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[気になる点] コールデン子爵家存亡の危機なのだから親もしくは代理人が必要ではありませんか? 又はこの無知蒙昧な出稼ぎ侍女を王宮侍女に紹介状を書いた貴族とか? [一言] エイミー嬢視点を読んで「この娘…
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