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50話 宿命 〈サイラス視点〉

 私は踊り始めてすぐ、直球で噂について尋ねた。


 すると侍女は、ロジェリオ卿とは友達だと言いながらも、恋仲と言われていることに対し、まんざらでもない様子だった。

 そのうえ、同情を引くかのような言い方で、リディア嬢について悪し様に話し出した。


――この女は、かなり性格が悪いな。

 ウィルが言っていた通りだ。

 こんな女に優しく接するということは、ロジェリオ卿はまんまと策に()まって、騙されて篭絡(ろうらく)されているんじゃないか?


 そう思っていると、踊りが終わった。

 そして、性格の確認が取れていた私は、すぐに侍女と別れた。

 その後、私は足早にロジェリオ卿に近づき、自然な立ち位置になる場所に立った。


 するとその直後、その侍女は私の行方に気付いていないのか、ロジェリオ卿の元へやって来た。


 会話が聞こえる場所から話を聞いていると、ウィルの言う通り、ロジェリオ卿は、侍女に対する気遣いは感じるが、恋心を持っているとは思えないような話し方だった。

 そして、侍女はリディア嬢がいないからと、ロジェリオ卿をラストダンスに誘い始めたが、ロジェリオ卿はきっぱりと断った。


――なんだ、きっぱりと断れるんじゃないか。

 どうしてファーストダンスのときに、そうしなかったんだ?

 ロジェリオ卿にも、侍女に期待を持たせるような要素があるかもしれないと思っていたが、そう言うわけではないのか?

 もしや、同情心で踊ったのか?

 愛とか恋とかそこまで興味が無い私でも、そのくらいは気付くぞ?


 そう思った矢先、ロジェリオ卿がその場から離れそうな雰囲気を感じ取った。

 そのため、ロジェリオ卿に話しかけようと、少し離れたところに移動した。

 そして、案の定ロジェリオ卿がその場から離れたため、引き止めて言った。


「久しぶりだね、ロジェリオ卿」

「ああ、サイラス卿。弟がお世話になっています。ところで、どうされましたか? すみませんが、少し急いでいて――」

「そのようだな。自分の出る幕ではないし、出しゃばり過ぎなのも十分承知の上だが、1つだけ言わせてくれ。恋心と同情心は別物だ。それに早く気付かないと、後悔するぞ。大切にすべきは何かを、冷静に考えろ。選択を誤るな。見たものすべてが真実というわけではない」


 そう声をかけると、ロジェリオ卿はハッとした顔をして、「胸に留めておきます」と言い、走って行った。


――正直、今更こんなことを言っても手遅れだろうが、伝わって欲しいところだ。


 もう私の仕事は終わったと思っていると、突然やって来たポール様に、ついて来てくれと言われ、慌ててついて行くことになった。

 すると気付けば、アーネスト様、パトリシア様、ベルレアン侯爵夫妻、ライブリー侯爵、そして、リディア嬢が集まる場所に着いた。


 すると、リディア嬢が話しかけてきた。


「サイラス卿、大変申し訳ありませんが、先程のロジェリオ卿とエイミー嬢の会話の内容を教えていただけないでしょうか?」


 そう問われたため、私は聞いたことすべてをそのままに話した。


「……ということは、ロジェはラストダンスをきっぱりと断って、私を探しているのね」


 リディア嬢はそう独り言ちると、酷く痛ましげな顔で「サイラス卿、教えていただきありがとうございます」と礼の言葉を述べてきた。


「いや、君の兄にも、ウィルにも頼まれていたことだから、お礼はいいよ。寧ろ、俺は出しゃばり過ぎた。性に合わないから、私は退散させていただきたい」


 そう言い、私はその空間から抜け出した。


「慣れないことをするもんじゃないな」


 そう独り言ち、夜会が終わるのを会場の隅で待っていた。

 時折、ロジェリオ卿が一生懸命にリディア嬢を探す姿が見え、心が痛んだが、それもそれで贖罪(しょくざい)になるだろうと、私は敢えて何も言わなかった。


 そしてとうとう、ラストダンスの時間になっても、ロジェリオ卿はリディア嬢を見つけられなかった。

 あっという間にラストダンスが終わり、アーネスト様の挨拶が終わると、隣国の高官の方は別室へ移動していった。


 すると、アーネスト様が高官が出て行くのを確認した後、衝撃の発言をした。


「祝いの席の締めにこのようなことをするつもりはなかったが、今から王城勤務者2名の弾劾(だんがい)を始める。王女宮副騎士団長ロジェリオ・ライブリー、王女宮侍女エイミー・コールデン、以上の2名は、前に出ろ」


――今日弾劾するのか!?

 いや、仕方ないか……。


 私は周りの貴族の声に、耳を傾けた。



「弾劾されても仕方ないわね。だって、あのベルレアン侯爵の娘に対して、不貞を働いたのよ? それに何より、彼は王女宮勤務じゃない。それなら、風紀を乱したんだからこうなるのも必然ね」


「今日とは思わなかったが、弾劾されるとは思っていたよ。何せ、婚約者と一緒に来たのに、愛人とファーストダンスを踊っていたんだから。ロジェリオ卿が公爵か、リディア嬢が子爵以下の令嬢、もしくは愛人が公爵以上の家格であれば、弾劾されなかったかもしれないのに。ロジェリオ卿も相手を間違って、惜しいことをしたな」


「今呼び出された女と一緒に踊ったが、リディア嬢の悪口ばかり言って、本当はロジェリオ卿は私のことが好きなのに、我慢していると言っていたぞ?」


「ロジェリオ卿は嫡男で、騎士だし、顔も良いのに弾劾されるなんて残念ね。でも、皆、最近の噂や今日の様子で、予感していたことではなくて?」


「私には侍女の友人がいるのだけれど、今呼ばれたエイミー嬢は相当な悪女らしいわよ」


「人によっては、目の前で別の女と婚約者がファーストダンスをしたら、自害する御令嬢もいるのに、それも侯爵家の御令嬢に対してそんなことをするなんて、弾劾されるに決まってるよ」



――皆、あの2人に相当思うところがあったようだな。

 だが、何が恐ろしいかというと、弾劾に対しての反対意見が一切聞こえないところだ。

 貴族社会はこれだから恐ろしいんだ。

 しかし、恐ろしいとは思うものの、どれも一応正論ではある。

 ノブレス・オブリージュで好感度を上げて、クリーンなイメージづくりが必要不可欠となる貴族社会では、これが宿命なのだな。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます(*^^*)


ついに弾劾始まりました。

次話から、リディア視点です。


ブックマーク、評価、感想をくださった皆様、本当にありがとうございます!

執筆意欲の大きな糧になっております。


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― 新着の感想 ―
[一言] 50話おめでとうございます\(๑╹◡╹๑)ノ♬
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