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5話 チャンス

「あ! 来てくれたのね、リディア様! 会えて嬉しいわっ!」


 ロジェに気を取られていた私に、パトリシア様が声をかけてきた。


「……はっ! ごきげんよう、パトリシア様。私もパトリシア様にお会いできて、とても嬉しいですよ」


――私もパトリシア様に会えてとても嬉しい。けれど、今日はロジェのことが気になりすぎるわ!


 パトリシア様に挨拶しがてら、パトリシア様には気付かれないよう、ロジェに目を配った。

 すると、ばっちりロジェと目が合った。そして、ロジェは私に笑いかけながら、パトリシア様に見えないように軽く手を振った。

 いつもだったら、私もバレないように手を振り返す。しかし、今日の私にはそんな余裕がない。

 それどころか、ポーラの話でロジェのことを意識しすぎて、目をすぐに逸らしてしまった。


――ロジェに会っただけで、こんなにもドキドキするだなんて。


「リディア様、大丈夫? 何だか顔が赤いようだけど、風邪かしら? 今日のダンスのレッスンはやめておきましょうか?」


 私の異変に気付いたのか、突然パトリシア様に顔が赤いことを指摘されてしまった。


「か、顔が赤いですか? パトリシア様の気のせいですよ! 風邪ではありませんから、ご安心ください。私、パトリシア様とのダンスレッスンを楽しみにしておりましたのよ!」


――心頭滅却するために、ダンスで気を紛らわせるしかないわ!


「気のせいではないと思うのだけれど……? まあ、リディア様が大丈夫というのなら早速レッスンを始めましょう! もし体調が悪くなったら、遠慮なく言ってくださいね」

「はい、お気遣いありがとうございます」


 レッスンが始まり30分経った頃、休憩になった。

――ロジェのことを考えすぎて、あっという間に時間が経ってしまったわ。


 そんなことを考えていると、パトリシア様が声を発した。


「ロジェリオ副団長、別の人間を護衛に当たらせるから、あなたも少し休憩してきてください。そして、レッスンが終わった頃合いにまた戻ってきてください」

「はい、承知いたしました。殿下。では、後ほどまた来ます」


 パトリシア様の突然の指示があり、ロジェはダンスルームから出て行った。

 部屋を出る際、私を見ていた気がする。

 どうしたんだろうと思いながら、ロジェが出て行った扉を見ていると、パトリシア様が声をかけてきた。


「で、リディア様。一体ロジェリオ副団長と何があったの? あなたたち2人はお兄様の幼馴染だから、昔から仲が良いことは知っているのよ? リディア様の態度がいつもと違うから、ロジェリオ副団長も戸惑っていたわよ」 


 やっぱり、パトリシア様はロジェに対する私の異変に気付いていたのね。

 隠しきれないと思い、私は先ほどのポーラとの話を全てパトリシア様に話した。


「……実は、今日ここに来る前に、侍女にロジェのことを恋愛対象として好きなのではないかと指摘されて……」

「え? そうではなかったの? というか、気付いていなかったの?」

「え? どういうことですか?」


 サラッと当たり前のように言ってのけたパトリシア様の言葉は、私にとって聞き捨てならないものだった。


「あなたたち本人はどうか分からないけれど、周りから見たら2人ともお互いのことを好きなのかと思っていたわ。 特にリディア様の方はね」

「そうなんですか!?」


――私たち以外の人には、そう見えていたのね。周りの人が分かるのに、自分で自分の気持ちにも気づいていないなんて……。


「(絶対にリディア様はお兄様と結婚させたかったのに……。とうとうロジェリオ副団長のことが好きという気持ちに気付いてしまったのね)」


「なんとおっしゃいましたか?」

「なんでもないわ! ただの独り言よ。気にしないでね」

「そうですか」


 パトリシア様が何か小声でぶつぶつと言っていたけれど、何を言っていたのかしら?


「まあ、それはいいとして、リディア様はロジェリオ副団長のことが好きという気持ちに気付いたから、今日のような態度をとってしまったということね?」

「はい、その通りです」

「リディア様がそのような態度をとってしまうことは十分理解できますわ。けれど、何も知らないロジェリオ副団長からすると、急に自分にだけリディア様が冷たくなったと誤解されますわ」

「やはり、そうですよね。けど、どうしたらいいか分からないんです」


 私より3歳も下の子に相談するような内容ではないと思いながらも、切羽詰まってパトリシア様に助言を求めた。


「もう、ここまで来てしまったら変な言い訳は通用しないと思います。なので、正直にロジェリオ副団長に自分の気持ちを伝えてみてはどうでしょう? 少なくともリディア様の今の態度のままでは、どちらにしろロジェリオ副団長との関係は希薄(きはく)なものになると思いますよ」

「気持ちを伝える……ですか」

「はい、その通りです。」

「私にそんなことが出来るでしょうか? それにどうやって伝えれば……」


 ロジェとの関係が希薄なものになるのは嫌だが、気持ちも伝えずに希薄になるのはもっと嫌だ。だから、もういっそのこと気持ちを伝えてしまいたい。しかし、恋愛経験値が0に等しい私はどうしたら良いのか分からない。

 すると、困った私を見たパトリシア様が被せ気味に告げた。


「今日のレッスンの帰りに、ロジェリオ副団長をあなたの護衛につかせるわ! そのとき、リディア様の素直な今の気持ちを、ロジェリオ副団長に伝えてください。大丈夫です、もしうまくいかなくても、私が最高に条件の良い方をリディア様に紹介しますから」

「え! 今日ですか?!」


――心の準備もしていないのにいきなり!?

 けれど、いつまでもこのままではいけないわ。いずれ来る日が速まっただけよ。パトリシア様がくれた機会を逃すわけにはいかないわ。それに、ポーラも善は急げと言っていたわ。


「分かりました。お気遣いいただきありがとうございます。自分の今の素直な気持ちをロジェに伝えてみます」

「ええ、そうしてください。それでは、レッスンを再開しましょうか」

「はい、そうしましょう」


 ダンスレッスンを再開したものの、頭の中はレッスン後のことでいっぱいだ。

 そのことばかり考えていると、あっという間にレッスンの終了時間が来てしまった。

 ふと扉の近くを見ると、ロジェも休憩から戻ってきていた。


「リディア様、今日は楽しかったわ! また一緒にダンスレッスンしましょう。それに、今日のお話の続きも知りたいので、是非また遊びに来てくださいね!」

「私も楽しかったです。お話の続きもまた今度来たとき話しますね」

「ええ、そうしてください」


 ロジェの前ということもあって、何事もないようにパトリシア様は笑顔で別れの挨拶をしてくれた。

 一方、私は緊張しっぱなしだ。

 そんな私を他所(よそ)に、パトリシア様はロジェに話しかけた。


「ロジェリオ副団長、お願いがあるのだけれど」

「はい、殿下。何なりとお申し付け下さい」

「ロジェリオ副団長。これから、リディア嬢を家まで護衛してお送りしてください」

「ですが、殿下の護衛が……」


 突然のパトリシア様のお願いに、ロジェも困惑した表情を浮かべていた。


「私の護衛は他にもいるわ。それに、ロジェリオ副団長とリディア嬢は仲が良いでしょう。だからこそ、私の大切な友達であるリディア嬢の護衛を安心して任せることが出来るのです。なので、ロジェリオ副団長、リディア嬢をよろしくお願いします」

「そんなお願いだなんて……! 分かりました、殿下のおっしゃる通り、リディア嬢をお屋敷までお送りします」

「ありがとう! ロジェリオ副団長!」

「とんでもございません」


 パトリシア様は約束通り、ロジェに告白するチャンスを作ってくださったわ!

 今度は私が頑張る番ね! でも緊張しすぎて未だにまともに顔が見られないわ。


「じゃあ、リディ。行こうか」


 ロジェに声をかけられた私は覚悟を決め、パトリシア様に別れを告げて部屋を出た。


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